第27話 フィアラはミアと褒め合う
私は執事長という立場でありながら、ミアさんから効率面で色々と教えてもらっている。
ミアさんの仕事の効率の良さは、ものすごく勉強になるのだ。
今までの私は一個一個やっていくのが精一杯。ごはんを作りながら掃除をすることが苦手である。
そんなことを私は考え、もっともっと経験積まなきゃなぁと思っている。
だが、どういうわけかミアさんが私のことをベタ褒めしてくるのだ。
「執事長……。こんなに細かい部分まで掃除するのですか?」
ミアさんは本棚の裏側を指差しながら聞いてきた。
「毎日じゃなくても良いんだけど、目に見えない部分も綺麗にしておいたほうが、虫がわきずらくなるし部屋の空気も良くなるんだよ」
「王宮の執事マニュアルでも習ったことがありませんでした。執事長のやり方が世に普及されれば良いなと思いますね」
「そんな大袈裟な……」
実のところ、私の掃除や料理、それに家畜の世話などもすべて独学である。
デジョレーン子爵家の人たちの顔色を伺いながら、どうすれば怒鳴られる回数が減るかだけで模索していた。
国で認定される使用人は、マニュアルを最低限クリアできれば資格がもらえるらしい。私も習おうかと思っていたが侯爵様に強く止められている状態である。
「やはり、前々から気になっていましたがマニュアルが全てではありませんね。フィアラ様の応用を取り入れて掃除したほうがより綺麗になることを学習できました。ありがとうございます」
「え……えぇと、どうも……」
言葉選びが難しい。
ベテランの使用人にそう言われてしまうと、どう返事したら良いのかわからなかった。
それだけ褒められ慣れていない……。
「ミアさんの全てを同時進行して素早く作業を終わらせるっていうやり方、私もできるようになりたいんだよね」
「いえ、執事長は今のままひとつひとつを丁寧にやられたほうが良いような気も……。もしも以前のような配属先になってしまったら……」
「はい?」
「あ、いえ。過去の話です。フィアラ様はガルディック侯爵邸の執事長ですから、もう別の家に使用人として行くようなこともないでしょうし……」
今の話を聞くと、ミアさんもよっぽど嫌な家で働かされた経験があるんだなぁと勘付いた。
私も奴隷のような仕事をさせられた経験者だから、その辺はなんとなくわかるのかもしれない。
あまり深掘りで聞くのはやめておこう。
「ところで、執事長はどうやってこのような素晴らしい仕事の細かさを覚えたのです?」
「あぁ、ここに来る前はデジョレーン子爵の元で掃除やごはんの支度をしてたんだけど……。そこで独学で」
「デデデデデ……デジョレーン子爵ですかぁぁぁああっ!?」
ミアさんがとんでもなく驚いきながら、目をまん丸にしていた。
これってもしかしてデジョレーン子爵の評判がすっごく悪いってことか、あるいはその逆だろうな……。
「実は、私のお父様がボルブ=デジョレーン様で……。とは言っても、ここへ来る段階で完全に縁は切れているんだけどね」
「では……執事長も毎日地獄のような命令を……?」
「あれ? なんで知ってるの?」
「私、つい最近ほんのわずかな期間ですがデジョレーン子爵邸で使用人をやっていまして……」
「あぁ……」
子爵家には大量のお金が手に入っていたはず。
それで私の代わりに家のことをやってくれる人材を雇っていたのか。
だが、侯爵様の話では大量のお金もほとんど回収したようなことを言ってたっけ。
だからミアさんを理不尽にクビにでもしたのかな。
「あまりにも過酷で、あのまま働いていては当時の使用人全員が倒れて命に関わると判断しました。それで辞めさせていただいたのですよ」
「そうだったんだ……。全員って、他の使用人たちは今どうしてるの?」
「どうでしょうか……。私は運良く主人様に拾っていただけたのでこうしてここにいるわけですが」
ミアさんにも他の人たちのことはわからないらしい。
侯爵様は、あと五人くらいは使用人を雇うようなことを言ってたから、相談してみようかな。
「ひとつお尋ねしたいのですが。やはり執事長も掃除や食事の支度が終わるまで労働を?」
「それ以外にお父様の仕事をやらされていたね。寝るのは日がのぼるころが多かったかな……」
「良く耐えられましたね……。さすがです」
「今考えると、とんでもない毎日だったなぁって。今こうして侯爵様のもとでのんびりと楽しく執事長ができていることが幸せだし奇跡みたいだなって思っているよ」
それも全てはお母様たちのおかげだ。
執事長になったことや、ダイン様と結婚を前提としたお付き合いを始めたことも手紙に書いて送った。
いつかお母様と会えたら嬉しいんだけど、どうかなぁ。
いや、そんな生温い考えではない。
ミアさんやコトネさんと一緒に侯爵邸の仕事をしていくわけだし、毎日が充実しているのだ。
こんな環境に導いてくれたお母様と絶対に会って直接お礼が言いたい。
いつか必ず!
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