第7話 フィアラはほめられた
侯爵様と次期侯爵様が食卓テーブルに腰かけた。
用意してあるタマゴがゆを口にした。
「なんだこれは!」
次期侯爵様が食べながらそう口にした。
まさか、口に合わなかったのだろうか。
これは怒られてしまうかもしれない。
「「素晴らしい!!」」
「はい?」
二人が口を揃えて言った。
まさかお褒めいただけるとは。
「これほどまでにおいしいタマゴがゆなど俺は考えもしなかった。よほど料理の鍛錬をしてきたのだろうな」
「身体に染み入るような温かさだ。一口ごとに味わい深い……。キミを雇ったのは、我ながら素晴らしい判断だったようだ」
ベタ褒めしてくれる。
そのあとも、二人は味わいながら夢中になって食べてくれた。
喜んで食べてくれて、そのうえ美味しいと言葉で伝えてくれたのが嬉しかった。
「キミの作った料理はお世辞ではなく本当に素晴らしかった。どこへ行ってもこれ以上の味は経験できないだろう……」
「いえ、実のところ素材を新鮮なものを使って作れれば、もう少し美味しくすることもできます」
「なんと!?」
今日は侯爵邸の食料庫に保存されている食材を使って有り合わせで作ってみた。
ところが、食料庫の保管状況が良い状態だとは思えない。
特にタマゴや野菜が目視でもわかるくらい傷んでいた。
これで作って良いのかと念のために侯爵様に確認をしたのだが、『これで傷んでいるのか?』と驚かれてしまい、むしろこれくらいの鮮度はどの家系でも当然だろうと言われてしまった。
デジョレーン子爵邸では、食料の鮮度管理は私に全て任されていたけれど、あのときはやりすぎだったのかな。少しでも美味しいものを作れるようにしないと怒られてしまうから、食料の素材もなるべく長持ちさせることばかり考えていたからなぁ……。
「先ほどキミは食料庫で保管されている食材の鮮度を気にしていたが、子爵邸ではもっと素晴らしい鮮度管理だったのかね?」
「えぇと……、私が全て管理していました」
「そうか。この家の食料庫もキミがいじれば改善の見込みがあると?」
少し返事に戸惑った。
ハッキリと言ってしまっていいのかどうか。
だが、今後お世話になるわけだし雇われている身分だ。
思ったことや感じたことは全て正直に話したほうが良いだろう。
「かなりあるかと思います」
「では全て任せたいと思うのだが、負担はかからないのかね?」
「いつもやっていたので平気ですよ。もし、可能でしたらこちらからもひとつ提案があるのですが……」
「なんでも言ってみたまえ」
「広い庭園の一部を使わせていただけませんか? ニワトリを飼って産みたてのタマゴで食事の準備をできればと……。それから、野菜を育てたいです」
「だがしかし……」
侯爵様は首を傾げながら悩んでいるように見えた。
やはり、いきなりこんなお願いをしたのはマズかったのかもしれない。
「我々は手伝うことはできぬ。いずれキミが仕事をある程度把握して慣れてくれれば新たに使用人を雇うつもりだ。だが、家畜の世話や家庭菜園をできる使用人とは限らぬ。全てキミの仕事になってしまうだろう……」
「へ? 使用人を追加ですか?」
「なにを驚いている? キミを執事長に任命させるつもりでいるからあえて今は誰も使用人を雇っていないだけだ。まさかこの屋敷全てをキミ一人で徹底させることなど到底無理難題だろう……」
それを聞いて少し安心した。
協力者が一人でもいてくれれば、この屋敷内の管理もなんとかなるかもしれない。
それに、侯爵様は私の仕事量を気にしてくださっている。
私も自ら頑張っていきたいという気持ちにさせてくれた。
「時間はそれなりに使ってしまうかもしれませんが、むしろ家畜の世話や家庭菜園はやってて苦ではありませんし、むしろ息抜きみたいな気持ちで今まではやってました」
「そうか。ならば許可しよう。それにしても、キミの前で言うのも失礼なのは承知だが、デジョレーン子爵は哀れだな……」
私は特になにも聞き返さなかった。
侯爵様はフッと笑みをこぼしながら、再び残りのごはんを口にしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。