バスティ・デーヴァ-歩く物的証拠、黒浜廉史の学園生活-
安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売!
OP.
ピピッと、耳にツッコんだインカムに着電があった。
『ハァイ、ダーリン』
「どこで油売ってやがる、クソ野郎」
『いやぁん、言葉使いきったなぁい』
「どこで油をお売りになってやがりますか、クソ野郎様」
言い直しても結局変わんないじゃ〜ん、という調子のいい声に答える代わりに、またいでいた単車のアクセルを回す。ブォンッという重い排気音は恐らく、インカムの向こう側にまで届いたはずだ。
「押さえたか?」
『むしろ逆に押さえられてる』
「はぁ?」
『ね、お迎えに来てよ、ダーリン』
茶化したように言う言葉の向こうで、カチリと金属音が聞こえた。
日常的には聞かないはずなのに、聞いたことがある音。……拳銃の撃鉄が上がる音だ。
──何がどうなったらそうなりやがるんだ。
「場所は?」
『言えると思う? この状況』
「俺を呼ぶために通信繋がされたんじゃねぇのかよ」
『いんや? どちらかと言やこれは、見せしめだねぇ』
インカムの向こうにいる俺の相方は、言葉に反してケラケラと笑っていた。恐らくこめかみに拳銃を突き付けられているだろうに、だ。
「……もう一度聞くぞ、レン」
俺は単車のシートに改めて腰を据え直すと、もう一度アクセルをふかした。重い排気音とメーターの針は俺の手首の動きに律儀に追従してくる。暖機は十分効いていた。
「押さえたな?」
『そりゃもうバッチリ』
答える声は相変わらず飄々としていた。ただ、その声の裏に今は絶対の自信が見える。
『だからさ、迎えに来てくれよ、シラ。さっさと帰って、シラの手作りパスタ食いたいわけよ、俺は』
「アホ。今日の
『何で
「何年腐れ縁やってると思ってんだ。今更絆されるもクソもねぇだろ」
投げやりに言ってやった瞬間、ピピッともう一度着信音が鳴った。単車のメーターの隣に後付されたホルダーを見遣れば、セットされた端末には地図が表示されている。
その地図上に今、点滅する赤い点が表示されていた。今の俺の通信先……敵勢力に捕らえられた相方の居場所を示す点だ。
俺はこれ以上無駄話をする必要性がなくなったことを示すために再度アクセルをふかす。長く、高く、獣の咆哮のように単車が音を轟かせた瞬間、インカムの向こうで相方が吐息だけで笑った。
『ガラわっる』
「言ってろクソ野郎」
短く答えた瞬間、俺は地面を蹴って単車をスタートさせていた。その音が敵勢力にまで聞こえてしまったのか、通信の向こうで空気が揺れたような気がした。
「5分で着く」
『3分で来て』
「パスタの茹で上がりは」
『7分!』
楽しそうな声を残して通信は途絶えた。俺はギアを上げてアクセルをさらにひねると単車を加速させる。
淡く闇が広がり始めた世界を、単車は切り裂くように進んでいく。道を行く一般人達が、爆速で突き進む俺に思わず視線を投げるのが飛ぶように過ぎていく視界でも分かった。
──まったく。何でこんなんが日常になっちまったんかねぇ?
俺は胸中でボヤきながらも、夕暮れが迫る街の中を突き進んだ。
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