第4話 大事な話
「わぁ!カラオケってこんなところなんだ!」
「なんだ?響はカラオケ初めてか?」
「うーん。小さい頃に一回だけ行ったことがあるらしいけど覚えてないんだよね」
あの実母も昔は優しく、誰からもうらやましがられるような母親だったのだ。
「じゃあほぼ初めてだな!」
「そうだね!」
* * *
最近の曲は七瀬さんに教えてもらったからある程度は歌えた。七瀬さんに感謝だ。僕は特段歌が上手という訳ではないけれど、巧はとても上手だった。
「楽しかった〜!また来たいな」
「おう!また今度来ようぜ!」
巧と話しているとだんだん家が近づいてくる。
新しい家は帰るのが嫌にならない。
元々の家は帰ると常に怒鳴られるか、何か話しても無視されるかだった。
七瀬さんの家に来てからはとっても幸せ。
以前とは大違いだ。
「それじゃ、僕ここのマンションだから。またね」
「あぁ、また月曜な!」
今日は楽しいことばかりだった。
そういえば今日は七瀬さん、夕御飯の時に大事な話があるって言ってたな。
なんの話だろう。
「ただいま」
「おかえり!カラオケ楽しかった?」
「うん!とっても!」
七瀬さんは自分のことのように嬉しそうに微笑んで話を聞いてくれた。
「響くん!ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・わた「ご飯でお願いします」最後まで言わせてよ!」
七瀬さんの作るご飯はすごく美味しい。
さっきから玄関までラーメンのいい匂いがずっとただよって来ているのだ。
「今日は塩ラーメンよ。特に上手にできたからジャンジャン食べちゃって!」
「はい!」
食卓の上にはチャーシューや卵が乗った美味しそうなラーメンが大きな丼に入って置いてあった。
「「いただきます!!」」
うん!美味しい!
「とっても美味しいです!」
「ありがと」
あまりの美味しさにラーメンを夢中で食べていると、七瀬さんが話しはじめた。
「朝言ってた大事な話なんだけどね、響くんのオーディションの日が決まったわ。今週の土曜日よ」
オーディション、頑張ろうと決めていたけどやっぱり緊張する。
演技なんて幼稚園のお遊戯会以来したことなんてないし。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。私とノラからのスカウトだから所詮社長への挨拶みたいな物だし」
「そんなこと言われても……」
緊張するものは緊張するのだ。
挨拶するだけって言っても相手は社長さんだし。
何より僕のこれからの人生が決まるのだ。
「響くんなら大丈夫よ。私が見込んだんだもの」
「そんなに期待しないでくださいよ。演技なんてできるかどうかもわからないんですから」
それからは七瀬さんと一緒に楽しく話しながらラーメンを食べた。
僕は3杯食べた。
男子高校生のお腹事情を舐めてはいけない。
* * *
「おう、おはよ!響!」
「おはよう。どうしたの?」
巧の機嫌がいつもより高い。
「今日はな、この学校一の美少女が来るんだぜ」
そうなんだ。学校一の美少女か。
そんな風に呼ばれる人がいるんだ。
ちょっとだけ楽しみだな。
ちょっとだけね。
「ほら、あれだよ」
巧が指差す方向には確かに美少女がいた。
キラキラオーラがあるスターのような子だ。
でも何か……。
仮面をかぶってるというか、何か取り繕っているような。
そんな感じがする。
「
「そうなの?」
女優か。僕には遠い世界だな。
いやオーディションが土曜日に待ってるんだけども。
「反応が薄いなぁ」
「そんなことないよ、ははは」
あれ?今一瞬目があったような……。
しかもちょっと僕に向かって微笑まなかったか?
いや、そんなわけないか。
「なぁ!響、今俺に微笑んだって!響!絶対微笑んだよな!」
「ソウダネー」
この時以降、しばらく姫乃さんを見かけることはなかった。
そして、ついに緊張の土曜日、僕は芸能事務所のあるビルの前で立ち尽くしていた。
「え?大きすぎない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます