燃えろ!男の出会いは狐色!!・4




「錬金科の三年に特待生入ってきたんだって」


 放課後の食堂で、私は友達のロザリーと井戸端会議に勤しんでいた。


 ロザリーは呪術科の生徒だ。本名、ロザリア・ルーセント。

 ゴスロリドレスがトレードマークの眠そうな目をした龍人族の女の子で、服屋で遭遇してたまたま意気投合した。たまにこうして、放課後にカフェスペースでのんびりお喋りすると、情報通の彼女から面白い話を聞くことができる。


「へー。特待生。すごいね」


「なんか学費も授業も免除らしいよ」


「何しに来てんのその人」


「さー。知らないけど。でもうちって研究棟とか図書館すごいじゃん?ああいうの目当てじゃないかって話」


「あーなるほどね……そういえば生徒特権いろいろあったね」


「そうそう。しかもね、早速グリュケリウス先輩とか、アカツキ先輩と仲良くしてんだって。やばいよねー」


「うわ」


 その二名の名前が出ただけで、その特待生とやらの存在感が伺い知れた。


 ――ネロ・グリュケリウス先輩とキュースイー・アーカツキー先輩(この人は外国人なので発音が難しい)。どちらも校内の有名人で、友人同士でもある。

 学校行事でもよく顔を出すし、魔術の才能に優れた生徒として名前が挙がることも多い。そして両名とも、変態として名高い。

 グリュケリウス先輩は勝手に首席を名乗って好き放題し、他の生徒を踏みにじる事に心血を注いで興奮している変態だ。目が怖いのもその評判に拍車をかけている。

 アカツキー先輩は学園のNo.2の呼び声も高い戦闘能力を誇り、百体の魔物を討伐するのと同時に百人の女の人をナンパしたとかいう伝説を持っていて、その実力と女性への執着で変態の称号を欲しいままにしている。

 その色んな意味でのヘルメスの双璧と並べるなんて、その特待生の人も変態なのでは……?


「でね、みんなその人に会いたがってて、噂になってる」


「ふうん……?どういう人なの?」


「エルフの男子で、なんか、スタイルめっちゃよくて吸血鬼みたいな顔してんだって。レアキャラだから見かけたら恋が叶うって聞いたの」


「なんじゃそりゃ……?」


「エレナが見たらスグそれだってわかる見た目してるって言ってたし、あとで捜そうよ」


「えー」


 うっとりとした表情で両手を組むロザリーを見ていると、断るのも何だか悪いような気もするけど。彼女はその特待生の男子生徒そのものが見たいというより、根も葉もないおまじないの方をアテにしているみたいだ。


 私が半ば呆れていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。


 振り返ると、いつもの血色悪い顔がこっちを覗いていた。


「ザラ、捜したぞ」


「ああ。ジークじゃん」


 あ。ジークが現れた。段々慣れてきた私は、特に驚くでもなく彼に挨拶する。


「……」


 ――すんごい見てる。


 ロザリーがすんごいジークを凝視していた。まるで自我を失ったように硬直し、硬直したと思ったら今度はぶるぶる震えだして、人差し指を……なに?後ろ?人を指差しちゃいけませんよ、レディ。


「その人ーーーー!!!!」


「この人ーーーー!!??」


 ロザリーが示していたのはまさにジークでした。あなたレアキャラ扱いされてるよ。


 ……いや。ていうか、特待生?色々聞きたくない単語が多すぎたんだけど。


「おい、コペルニクス。あまりハーゲンティの手を煩わせるな。そいつが俺たちと遊ぶ時間が減る」


「あれ、ザラちゃんってやっぱりキミだったんだー!ビビの友達だよね。前デートに誘ったの、覚えてるー?」


 しかも後ろからなんか湧いてきた!!


 ジークと肩を並べているのは、まさに噂をすればなんとやら、ヘルメスの双璧グリュケリウス先輩とアカツキー先輩のご両名だった。

 こうしてジークと三人並んでいる姿は……うん、どう見ても変態三銃士です。本当にありがとうございました。


「ジーク……もしかして前言ってた友達って……」


「ああ。この二人だ」


 Oh……。ロザリーが説明を求めるように、いつもの四倍くらい目を見開いて私を見ていた。心なしか鼻息も荒い。わかったわかった、後でちゃんと紹介するから……。


「ジークっていいヤツだよね。ザラちゃんはもっとイイ女だけど!」


「友達だとぉ?テメェは友達じゃなくて俺の下僕二号だマヌケ」


 ああもう、ややこしいややこしい。二人で同時に濃いリアクション取らないでください。処理が間に合いません。


「てか……特待生って、マジ……?」


「ふむ。何だかそういうことになった」


「まじか……」


 あっけらかんと答えるジーク。何だかって。把握しとけ。


 ……ということは。今までなんとなくスルーされてきた私たちの関係も、いよいよ突っ込まれる機会が増えるということですね。


 死ぬほどイヤかと訊かれればそこまででもないけど……、私、心の準備がまだ出来てないの。急にそういうサプライズ持ち込まれると、心臓と胃に負荷がかかりすぎて、死にそうなの。


 はあ、嘘でしょ。


 軽い目眩を覚えて、私は天を仰ぐ。


 コレどっかで見た展開だわ。きっと、今度はジークがウチに居候することになるとか、そういうイベントが待ってるんだわ。お風呂覗かれるんだわ、私。事故で転んだ拍子におっぱい揉まれるのも時間の問題だわ。


 同級生たちにジークとの関係を問いただされるような光景が容易に想像できる。ジークが目立てば目立つほど、私の穏やかな日常は遠ざかっていくに違いない。


「そういう訳で、今度からは割と堂々とお前の側に居られるぞ!」


 ドヤァ。


 ジークが胸を張って、ギザギザの歯の根が見えるくらい満面の笑みを浮かべる。


 もう、疲れた。この短時間で私すごく疲れた。ロザリーはジークに握手を求めて、そのあとなぜか神妙な面持ちで膝を折ってジークを拝んでいた。先輩二人はジークを急かすように脇を突っついたりして、メッチャ楽しそうだった。




 お母さん。私、明日から学校行きたくないです。








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