嘘つきは青春の始まり

月雪奏汰

必死な嘘つき男

 心地よい春風が吹く入学後初めての登校日である今日、名門進学校である私立桜沢学園の1-A組に快活な様子で話す男子生徒が居た。

「初めまして。芹澤優と言います! 中学時代は父の仕事の都合で海外に居ましたが、高校入学をきっかけに日本に戻ってきました。」

 同じクラスに帰国子女が居る。この事実に同じ教室に居る人達の意識が向いたのがハッキリと分かった。

「得意なスポーツはバスケ。好きなことは漫画を読むことです。日本に戻ってきてからめちゃくちゃ読む量が増えました! 一年間よろしくお願いします。」

 意識が向いた事を確認した後、自分のことについて付け足し、席に戻る。

(かなりいい感じじゃないか?)

 席に着くなり、そんな事を思うのだった。



 ※※※※※


 自己紹介から三時間後、数学の授業のガイダンスを聞き流しながら、優はこれ以上ないという程後悔をしていた。

 理由は簡単。優がした自己紹介は名前以外全部嘘だから。

 ああ、バスケが得意というのと、漫画が好きなのは本当だったか。

 とにかく、海外に居たという大きすぎる嘘をついてしまったという所が問題、いや大問題だ。

 なぜこんな嘘をついてしまったのかといえば、良い高校生活を送るためには最初に出来るだけ多くの人と関わることが必須だと考えたからだ。

 そこで思いついた作戦が帰国子女だということにすることだった。

 自分でもなんと浅はかなのだろうと呆れてしまう。なぜなら、これは知り合いが一人でも居れば嘘だと簡単に広まってしまうからだ。

 ではなぜこんなに大胆な嘘をつけたのか。

それは一人暮らしを始め、中学とは遠く離れた地にある桜沢学園に入学したからだ。

 どうだろうか、考えは浅はかだが覚悟はそこら辺の高校生とは違う。

 覚悟はあるが、それでも自己紹介で嘘をついた事は心のどこかで引っかかる。

 その結果、自己紹介後に終わった安堵と後戻り出来ない恐怖で上の空になり、気がつけば、名前の順の自己紹介がハ行まで進んでいた。

 休み時間になると、期待していた通りにクラスメイトから囲まれ、予め質問を予想し答えを用意していたため、会話に詰まることも無かった。

 恐怖なんてものはどこかに行き、人に囲まれて楽しかったという感想しかない。

 そして現在、申し訳ないが退屈としか言えない時間を過ごしているうちに、嘘をついてしまったことを思い出してしまったのだ。

 そうして一つ嫌なことを思い出すと、次々嫌なことを思い出してしまう。例えば、中学時代のこと。

 中学時代の優は、人間関係の中心という訳でもなく、だからといって根暗でボッチな訳でもないという微妙な立場だった。

 話を合わせるだとか空気を読む事は得意だったが、どうにもグループでの存在感がない。

 その事のなにが辛かったかといえば、グループに属していても友人の友人みたいに思われてしまう節があったということだ。

 三人で歩けば、自然と端っこになるか、2人の後ろを一人で歩くことになるかだと大体決まっていた気もする。

 結局自分は誰と友人なのか、何度考えたか分からない。もちろん答えは出なかったのだが。

 だから優は決めた。人を惹き付けられる人になると。

 高校では変わりたい。その一心が全ての行動のきっかけだった。

 嘘をついてしまった以上、もう後戻りは出来ない。授業終了のチャイムを聞きながら、再度固い覚悟をした。







 

 

 

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