第18話 Vtuberデビュー

もうそろそろかな..


長間川は自宅のテレビの前で何やら待機していた。


そう、今日は1月20日。

麻乃がVtuberとして初デビューする日なのだ。


以前、春真から少し見せてもらった『吸血鬼お嬢様』のイラストが

配信待機画面のサムネイルになっている。


「麻乃様..大丈夫かな..」


まるで自分の子供を見守る親かのように長間川はハラハラしていた。


すると、配信待機画面が切り替わり目の前にドンっと吸血鬼のお嬢様が

現れた。何やら口をパクパクしているが何も聞こえない。


「ごめんなさい!マイクミュートになってましたぁ!」


麻乃様の声だ!


長間川は少しだけテレビの音量を上げた。


「改めまして、人間ども!吸血鬼のヴェーレン・シノマだ!

今日から人間界で流行っているというVtuberというものをやっていこうと

思うんだが、配信に必要な機材が多すぎて既に頭がパンクしてしまっている。

好きな食べ物は血と肉!嫌いなものはにんにくときゅうりだ!」


話の内容が定まっていないような気もするがとりあえず問題なく配信出来ていて

長間川は一安心した。配信を見ている人数は既に15000人を突破していた。


『かわいい!』

『声がタイプです。』

『吸血鬼ってことは日中配信できなくね?w』


様々なコメントがすごい勢いで流れていて、一度自分の手でコメント欄を止めないと

内容が把握できなかった。


「初配信ということで何かみんなの脳に焼き付けれるようなことをやりたいんだけどEPEXのソロランク戦で1位とるまで終われませんとかどう?」


EPEXとはいま話題沸騰中のFPSゲームである。

長間川もプレイしたことはないもののよく広告などで見かけるため

そのゲームの存在は知っていた。


『いいね』

『お手並み拝見』

『ソロで1位は厳しいんじゃないか?』


配信画面とコメント欄を交互に見ながら長間川は以前、瞬に勧められた

エナジードリンクを飲んでいた。


「よーし!早速、やっていきまーす。」


ゲームフィールド上には最初30人のプレイヤーが解放され、

フィールドの中心部へ行けば行くほど強い装備などが手に入る。

時間経過とともにフィールドが縮小していくため生き残っていれば中心部での交戦は

避けられない。


「私、スナイパーライフル苦手なんだよね~

だって1人に集中してると背後からの敵とかに気づくのって難しくない?」


『まぁ、そうだな。』

『このゲームだとスナイパーライフルはサブウエポンだからなw』


じゃあ、私にはこのゲーム無理かもだな..


長間川は正直に言ってFPSでの近距離型武器は使い慣れていなかった。

それはカオスアイランドでも経験したことであり、敵が自分の近くに来てしまうと

どうしても焦って手元がぶれてしまうのだ。

分かりやすい例でいうなら、ハンドガンで10発弾を撃っても1発当たるかどうかの

レベルだ。


麻乃ことヴェーレン・シノマはあっという間に5人のプレーヤーをキルして装備を

そろえながらフィールドの中心部へと向かっていた。


「どうよ!今のところ順調じゃない?」


『普通にうまくてワロタw』

『てか、ランクいくつ?』


「ランクはね~、いまNeptune(ネプチューン)のⅡだよ~」


このEPEXというゲームには太陽と太陽系の惑星の大きさをランクに当てはめたモノが存在する。はじめはMercury(マーキュリー)のⅢからスタートしマーキュリーⅠから昇格するとMars(マーズ)Ⅲになる。下位ランクから書いてみると、


【水星/Mercury→火星/Mars→金星/Venus→地球/Earth→


海王星/Neptune→天王星/Uranus→土星/Saturn→木星/Jupiter→太陽/The Sun】


プレイヤー人口の割合としては『地球/Earth』が最多の22%となっており、

麻乃がいる『海王星/Neptune』は全体の14%の位置である。

実力で言うとアマチュア卒業程度だ。


「のこり人数半分切ったからそろそろ本格的にミッド(中心部)向かおうかな。」


麻乃が室内にあるアイテムボックスをあさりながらそう言っていると急にダメージ表記が現れた。


「イタイ!誰?!だれ?!」


すぐに周りを見渡したが誰もいない、しかし満タンだった体力ケージは半分以上も

削り取られていた。


「誰かが窓から爆弾投げたのかな?」


この時、麻乃自身は気づいていなかったがごく一部の気が付いていた視聴者は

コメント欄に今のダメージの原因を連投していた。


『今のスナイパーライフルだったよな?!』

『スナライだろうけどあのダメージ量はヘッドショットしかなくない?』

『でもこの部屋、小窓しかねぇぞwチーターかな?』

『爆弾だったら即死してると思う』


麻乃はゲームにのめり込んでいたためコメント欄を読んでいる暇はなかった。


「今のどうやったんだ?」


コメント欄の言葉を信じ先ほどの麻乃へのダメージがスナイパーライフルのモノだと考えて長間川は色々考察していた。


麻乃様が撃たれた部屋は20cm(憶測)ほどの窓しかなかった。

それに、地理的に山岳の上に位置していたため当然地上からの狙撃は死角のため

不可能(まぁ、追尾弾のようなものがこのゲームにあるのなら話はべつですが)。

となると、同じ高さから狙撃することになるが、どうもそれに相当する高さのモノが

一切見当たらない..どういうことだ?


そんなことを考えていると麻乃が大声を上げた。


「きゃーっ!ムリっ!強い!この人強い!」


どうやら別プレイヤーと交戦して一方的に叩きのめされたようだった。

リザルト画面が出てきて結果は30人中7位。


「今の人ヤバくない?!なんでスモッグ焚いてても全部弾当てれんの?」


『お疲れぃw』

『チーターじゃないですか?』

『7位でも奮闘した方でしょ』


「みんな、今日は長い夜になりそうだ。お付き合い頼むぞ。」


そう言って麻乃は次のマッチの準備をした。







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