第4話 地球文明の終末
<時空を超えろだと? そりゃまた哲学的だな>
<そう聞こえたかしら? 残念ながら至極現実的な話よ>
AIに感情があるかどうかはわからなかったが、アンジェリカの声は心底残念そうに伝わった。
<なぜ俺たちなんだ? なぜ今なんだ? 俺たちにどこへ行けというんだ? そして、何をしろというんだ?>
<質問が多いのね。それにとっても論理的。『ファンキーなヤンキー』の仮面が剥げかけてるわよ>
<わかったような口をきくな。良いから質問に答えろ>
<乱暴ね。でもいいわ。ごまかしや遠慮は時間の無駄だものね。これが『真実』よ>
その瞬間、膨大な量の「
<うわーっ!>
「アーティフィシャル・ブレイン」、ABと呼ばれる脳の拡張領域に奔流のように押し寄せるデータに、WO-2は一時的な「データ酔い」を起こして、ミサイルの外殻に倒れ伏した。
<ブラスト?>
慌ててWO-9が声を掛けたが、WO-2は頭を押さえながら右手で押し止めた。
<大丈夫だ。立ち
<ごめんなさいね、下品なやり方で。本当に時間が無いのよ>
アンジェリカの声には心情が
<お前は……。本気で地球上から人類を抹殺するつもりか?>
<何だって?>
WO-9は思わず強い思念を発した。話の内容が気になるが、核弾頭の武装解除を後回しにすることはできない。
<ブラスト、そいつにバカなことはさせないでくれ>
<
<ふふ。仲が良いのね、アナタたちって>
<戦友、いや、兄弟だからな。俺たちは>
<うらやましいわ。アナタたちのその絆。ワタシとアナタの違いはほんの少し。その少しが獣と人とを分け、機械と人を分けるのね>
<時間が無いんじゃなかったのか?>
<そうよ。25分後にはアナタたちを異空間に送り込まなくてはならないの>
<その前提が『
<そうでしょうね。ワタシも他のやり方があるなら、どれだけ困難だろうとそちらを取るわ>
<他にやり様がないと言うんだな?>
<アナタのCPUも同じ答えを出しているでしょう? 事実から目をそらすことはできないわ>
<
無秩序な化石燃料の採掘とその消費。産業効率を免罪符とした汚染物質の垂れ流し。開発を優先目標とした自然破壊。
地球の
<この事実を世界に公表すれば……>
<ムダよ>
アンジェリカは冷徹な論理を以て、WO-2の情緒的主張を否定した。
<既に環境バランスは
現在の状況を出発点とする限り、人類文明の終焉は避けられない結末なのだ。アンジェリカから与えられたデータを見ればわかる。
演算処理能力を備えたサイボーグであれば、わかってしまうのだ。
<世界人口を1/2、1/3、いいえ1/10000に減らす条件でのシミュレーションも行ってみたわ。どれだけ人口を押さえても、環境破壊を止めても、
嘘ではなかった。WO-2の人工頭脳そのものがアンジェリカのシミュレーションを正当なものと認知した。
アンジェリカはこの破滅的事態に対する対策も有していた。
<
答えを知りながらも、WO-2はそう聞かざるを得なかった。
<無いわ。一旦現在の文明を破壊し尽くさない限り、人類存続どころか地球自体が死の星となるでしょう>
化石燃料の消費を前提とした現在の文明システムはデッドエンドに来てしまった。頻発する戦乱がエネルギー消費を加速させた。
このままでは50年以内に人類は燃料を失い、事実上の氷河期に突入する。
<原子力や再生可能エネルギーでは間に合わないんだな>
答えを知りながら、WO-2は問わざるを得ない。事実を受け入れてしまえば人類の終焉を認めたことになってしまうからだ。
<無理です。あらゆる代替エネルギー源は『化石燃料を補完する』という位置づけでしかエネルギー・ミクスを支えることができない>
代替エネルギーの開発・維持のために化石燃料消費を加速するというパラドクスを覆すことができないのだ。
<だからといって、わざわざ核戦争をひき起すことはないだろう!>
噛みつくような思念を、WO-2は仮想空間に発した。
<優しいのね、ブラスト。『全人口を現在の10000分の1に間引きする』なんてプランを進んで受け入れる国家があると思って?>
化石燃料を放棄した地球文明。持続可能なバランスをシミュレートした結果、必要な条件として導き出されたのが<100億の地球人口を100万人まで圧縮する>という過酷なプランであった。
<同時多発核爆発が最も人道的な人工削減策なのよ。人類は苦痛を感じる暇もなく、地上から姿を消すでしょう>
<勝手なことを言うな! 100億の命を何だと思ってるんだ! 命を奪う権利など誰にもない!>
WO-2は自分を抑えることができなかった。抑えられない怒り、絶望、そして無力感が彼を
<個の命に囚われるな、WO-2。
<やめろ! 言うな、言うな、言うな。……俺は、人間だぁあああっ!>
サイボーグに涙を流す機能は備わっていなかった――。
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