サイボーグ召喚――時空を超えた戦士

藍染 迅(超時空伝説研究所改め)

第1話 燃え尽きる星

 1999年7月、未明の空を貫く銀の筋があった。


「何かしら? 胸がざわざわする」


 普段なら深い眠りの中にいるはずの少女が目を覚まし、ベッドから降りて窓のカーテンを開けた。


「あ、流れ星。随分長くて、明るい……」


 眠気が抜けきれないながらも、少女は両手を組んで祈った。


「パパが早くお家に帰りますように。そして、もう戦争が起こりませんように」


 彼女の父は軍人として砂漠の紛争地帯に派遣されていた。既に派遣期間は1年を超えていたが、いまだに帰還の時期は見通せなかった。

 少女のような存在は世界中にいた。

 ある者は家族の無事を祈り、恋人の幸せを祈った。ある者は明るい未来が訪れることを。


 ある者は、世界に平和が訪れ、争いがなくなることを祈った。


 そして地上を光が覆った。熱が続き、衝撃波が世界を包み込んだ。

 ハルマゲドンは全ての命を一瞬にして消し去った。苦痛の声が上がることはなかった。


 死神の鎌は鋭く、乙女の吐息のごとく柔らかく、ガゼルの首を噛む獅子のあぎとのごとくためらいがなかった。


 そして地球と呼ばれた星は沈黙した。


 ◆◆◆


「WO-9、ダメだ! もう間に合わない!」

「発射シークエンスはすべてオフラインで実行モードに入った。制御室ここからでは止められない!」

「じゃあ、ミサイルのエンジンを破壊しよう!」

「無理だ。エレベーターが使えない以上、発射までにサイロ内にたどり着けない」


 ゴゴゴゴと重低音の振動が壁や床から伝わってくる。

 核弾頭を搭載したミサイルは既に発射されてしまった。


「核弾頭の起爆装置を無力化できないのか?」

「制御装置は暗号化されていて、目標到達までに解除は不可能よ」

「テレキネシスは?」

『ヤッテイルガトオスギル。ミサイルノガイカクニフレルコトモデキナイ』

「チキショー! 天は我らを見捨てたか!」


「ボクは諦めない」

「WO-9!」


「すまない、WO-2。キミの命をボクに預けてくれ」

「へっ。何かヤバい橋を渡ろうってんだな?」

「ボクを運んでミサイルまで飛んでくれ」

「スバル!」


 話を聞いていたWO-3が顔色を変えた。


「飛行中のICBMに飛び乗れってかい? こいつぁクールだ」

「わかっているだろうが、ボクたちの防護服に大気圏再突入の機能はない」

「わざわざ言うなよ。クールじゃねえぜ。片道飛べりゃあ十分さ?」

「すまない、WO-2」

「へっ。暗い顔すんなよ。さっさと行って世界を救おうぜ」


 WO-9、大空スバルは7人の仲間たちを見渡した。


「ミサイルはボクとWO-2が必ず破壊する。後のことを頼む」

「スバル……」

「セシル。地上からモニタリングとナビを頼む」

「お願い、生きて帰って」


 WO-3セシルは高性能レーダーと通信機能を備えたサイボーグだ。作戦情報を司る遠隔支援が役割であった。

 WO-2ブラストには飛行装置と高速機動装置オーバードライブが実装されており、WO-9を抱えて成層圏まで超音速で飛ぶことができる。


 WO-9は進化型であるオーバードライブ・セカンドOD2を装備し、WO-2よりもさらに高速で活動することができる。


「ボクが飛べれば、1人で行けるんだが……」

「それを言っちゃあ、1人で仕事ができない俺の立場がないぜ、スバル」


 成層圏まで飛べばWO-2のエネルギーは枯渇する。時間制限を考えると、WO-9の同行が必要不可欠だった。


「ごめん、悪気はないんだ」

「お前はいつもそうだな。ほら、セシルWO-3にひとこと言ってやれよ」


「セシル。最後まで望みを捨てずに、生き残るために戦うよ」

「スバル、どうして。どうしてあなたじゃなければいけないの?」

「ボクは……目の前で死んでいく妹を救うことができなかった。誰かが命を落とすのを見過ごすことはできないんだ」

「お願いだから自分の命も大切にして」


 サイボーグに涙をこぼす機能は存在しない。WO-3は泣きたくとも泣けなかった。


「もちろんさ。必ず帰って来るよ、キミのために」

「約束よ、スバル」


 WO-9はそっとWO-3の両手を握った。


「じゃあ、行ってくる」


「行こう、ブラスト!」

「オーケー、ブラザー」


 後は振り返ることもせず、2人はオーバードライブのスイッチを入れた。

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