#04 楽しい昼休み
「ごちそうさま、まあそれはあくまでもカードゲームの話だし、そんな全てのものに対して強欲とは言い切れないでしょ。もしかしたら真剣勝負だからって一番強いデッキを使っちゃったのかもしれないし」
夏音の答えに対してまぁそうかとは思ったものの、それでもあの夢のことを考えると絶対に何か嫌なことが起きてしまうような気がする。
「それはそうだけど! でもなんか嫌な予感がするんだよ……」
僕がそう悩んでいると、夏音は何か妙案を思いついたような顔で1つ提案をしてきた。
「それじゃあ、優斗もこっそり付いて来ればいいんじゃない?」
「ぅえ?」
受け取った箸で弁当を食べようとしていた手がつい止まる。
「見つからないようにこっそり付いてきて、あたしがピンチになったら優斗が助けに来てよ!」
彼女はまるで名案かのように言っている……けれど、
うーん……流石にそれは岡崎に悪いんじゃないかなぁ。
もし本当に夏音が告白されるとして、今呼びに来ないということはおそらく放課後だろう。
帰りは校門前で待ってようかな?
「いや、そこまではやめておくよ、もし見つかったらどうなるかわからないしね」
少しだけ微笑みながら弁当を口に運び、そう答えると夏音はどこか不安そうな顔を一瞬浮かべた。
「うーんそっか……まあ勇気を出してくれてるのに盗み聞きするのはよくないよね」
「まあ確かにね。それに僕がいたところで大して力にもならないだろうし」
夏音の言っていることに付け足すように僕が自虐めいた発言をすると、
「それもそうね。優斗って運動神経ゴミだもんねぇ」
彼女はニッと軽く笑いながら答えた。
……わざとらしい悪戯な笑みですっごい煽られた。
「改めて言われるとなんかムカつくな!」
ただ事実だから何も言い返せないのが悔しい。
僕はそう思いちょっとだけヤケになりつつ、残った弁当を綺麗に平らげた。
「あはは、ごめんごめん。でもありがとう、岡崎君に告白されるとしたら気を付けてみるね!」
「……うん、気を付けてね」
……なんか変、かな。
一つ違和感を感じたのは、彼女が心から笑えていないと感じることだった。
基本的に明るい彼女だから、パッと見るだけでは正直いつもと変わらない。
ただ、今日はたまに暗い表情を顔に出すことがある。
それにどこか無理をしているような、何かをずっと考え続けているような雰囲気を感じた。
なんとも言えないけど……凄く悪寒がする。
今日で何かを失ってしまいそうな、そんな心のモヤモヤが僕の頭の中に残り続けている。
このまま何も、無ければいいのだけど……。
――――――――――――――――――――――――――
朝から続いていた気分の悪さは、彼と話しているうちにだんだんと落ち着いていった。
それに、今日告白してくると思う岡崎君に関する話も聞けた。
……夢でよく見たあの光景が、現実になる時が近づいてきている。
まだよくわかっていないのは夢でも見れなかった先のこと、岡崎君がポケットに手を入れたところからの記憶が一切ない。
あのタイミングで私はどうなってしまうのか、岡崎君が何を取り出そうとしたのか、そこまでは何一つわかることがない。
出来る事があるとするなら……。
「心の準備、だよねぇ……」
そんな言葉がため息交じりに自分の口から漏れてしまっていた
「ん? ごめん、考え事してて聞いて無かったよ……それでどうしたの?」
「あぁいや、何でもないの! 告白されたときに変に慌てたりしないようにしないとな、って思っただけ」
「そっか、間違えても慌ててOKとかしないでよ?」
「わ、わかってるよ!」
優斗が悪戯っぽい笑顔でにやけるため、ついつい軽く睨みながら言ってしまった。
「ごめんごめん……あ、昼休みももう10分くらいかな」
彼が時計を見るのにつられて、私も一緒に時計を見る。
確かにもうそこまでお昼休みも無いようだ。
「ん…そうみたいね。クラスの人達も結構帰ってきたみたいだし、バレないように岡崎君について聞いてみても良いかも」
――――――――――――――――――――――――――
「うん、確かそうだね、次は担任の授業だしどうせ自習でしょ」
「あはは……確かに」
うちのクラスの担任は基本的に黒板を使って授業をしない。
基本的にプリントを配ってそれをやっとけ~って感じだ。
しかしそれは不思議とわかりやすいし、すんなり頭に入ってくる。
「あの先生あんなのに評価は高いよね」
「まぁ生徒からの人気もそこそこだし、何せ授業が楽だし」
「……あのプリントあたしにとっては難しいんだけど」
そんなバカは放っておいてスマホでフリータイムズ……略してフリタイを起動し、グループチャットに発言する。
このアプリは最近流行り出したSNSとゆうヤツ。
簡単なチャットや、通話なんかを無料でできる優れものだ。
『プリント終わり次第ここに集合、ちょっと真剣な話がある』
実はグループはクラス全員じゃなくて特別仲がいいメンバーが入っている。
まぁ僕はこのグループであんまり発言はしないんだけど……。
『お、ヤエから話とか珍しいじゃん』
『俺らで良かったら喜んで協力するぜ』
昼休み終了間際だというのに8割以上が返信をしてくれている。
ホント、頼もしい限りだ。
よし、とりあえずこれで仲間は増えたな。
あとは岡崎について何か知ってる奴がいれば……。
すると、あるコメントが目に止まる。
『おっなになに、面白そうなことしてんじゃん。先生もまぜてよ』
……うん?
「はぁー……誰だ招待した奴……!!」
そんな独り言を漏らすと夏音がこっちを向いて不思議そうな顔をしている。
「……大丈夫?」
「あ、あぁ、大丈夫……いや、大丈夫じゃないかも」
「相当ショックなニュースがあったんだね……ドンマイ」
夏音に問題ないよという意思表示の為に手を横に振り、微笑え……いや、苦笑いを浮かべるが、彼女は納得いかなそうな表情で前へ向き直る。
さて、どうするかなぁ……。
少し考えているとチャットが入ったことを伝える振動が手に伝わる。
『あぁ別に成績減らすとかしないからヘーキな、俺はテストの点数だけで成績付けるから』
うーん普段は冴えない癖にこんな時だけ……いや、いつもこんな感じか。
『先生テキトーすぎwww』
『じゃあプリント終わったら皆で叫ぼうぜ』
『頼 む か ら や め ろ』
それが送られた瞬間担任が教室へ入って来る。
勿論手にはスマホを持っていた。
「よーし授業を始めるぞー」
先生は教卓の前まで行っていつものようにプリントを無造作に置き、一番前の席の生徒は慣れた手つきでプリントを回収している。
「号令は無しでいいぞー、んじゃこれやっといてな」
そう一刻も早く戻りたいのか教室から出て行ってしまった。
「せめて教室内にいたらどうなんだよあの先生……」
「まぁまぁ、この方があたし達的には楽じゃん?」
「それもそうか…よし、ちゃっちゃと終わらせて駄弁るとしようよ」
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