季節の夢にみせられて

#01 私と僕の夢

「篠原（しのはら）さんの事が前からずっと好きでした！付き合って下さい！」

　―――あれ、あたしなんでこんなところに

　私は首を横に大きく振り、辺りを見回す。

　ここは、学校の中庭…？

　あぁ、じゃあいつものなのかな…。

「……ごめん、あたし恋愛とかあんまり興味ないんだよね」

　私は勝手にそんな事を言っている。

　うーん、気になる子はいるっちゃいる…と思うけど正直あたしには恋がわからない。

「そ、そんなぁ……」

「あはは、そんな悲しそうな顔しないでよ。今後も変わらずに一緒に休み時間遊ぼうよ…ね？」

　そう、彼はクラスメイトで休み時間にスポーツをして良く遊んでいる仲なのだ。

　ある親友よりも運動神経が良いせいで頻繁に代わりを頼まれるが、私自身運動が好きだしあんまり気にしてない。

　そして彼は何か決意をしたような表情で口を開く。

「そ、そっか、そ…それじゃあ」

　彼はズボンのポケットに手を入れる。

　よく見るとそのポケットは妙に膨らんでいるような気がする。

「なにを――――」

　そこで私の意識は途切れた。

　――――――――――――――――――――――――――

「…………頭痛い」

　目を開けると、自分の部屋のベットの上だった。

　起き上がるのも面倒になるような激しい頭痛がする。

　……やっぱり、『夢』だよね。

　朝の6:30、いつもの楽しい日常がまた始まろうとしている。

　しかし今日の気分は最悪だ。

「はぁ……一体何されるんだろ、あたし」

　ため息をつきながら重い身体を起こし、頭痛薬を探す。

　よく使うし一番上の戸棚に…よしあった。

　私は慣れた手つきで錠剤の梱包を外し、口の中に放り込む。

「……ふぅ、これで学校着くまでには治るかな」

　うぅ……でもやっぱり辛いしちょっと横になろう……。

　私はもう一度横になり、さっきの光景を思い出す。

　あの『夢』今回はやけに鮮明だったなぁ。

　やっぱり優斗（ゆうと）に相談を………いや、やめとこう。

　しかし頭痛薬のせいか段々と眠気が襲う。

　眠気に軽く抗うが、瞼が重くなってくる。

　また…自分…で、かいけ…つしな……きゃ……。

　――――――――――――――――――――――――――

　最近、僕は同じ夢をよく見る。

　その夢で僕はいつも学校の自分の席に座っている。

　そして前の席には『彼女』……夏音が椅子をこちらに向けて座っており、何かしらの話題についてよく話していた。

　これはいつもの僕と彼女の休み時間の光景によく似ていた。

　もっとも、彼女は僕の代わりに運動に誘われることが多く、途中で姿を消してしまうが。

　ただ、その夢の中ではいつも何かが違った。

　彼女はいつもどこか悩んでいるような表情をしており、声は聞こえないが何かを話しかけてきている。

　僕はその様子に心配していつも声をかけようとする。

「――？ ―――？」

　一体どうしたの？ もしかして何か悩んでる？

　そんな慰めの言葉が、出ない。

　何故かその夢の中では声が出ない。

　いくら出そうとしても、一言も発することが出来ない。

　しばらくすると、彼女はその悩んでいる表情のままどこかに行く訳でもなくその場で霧のようにだんだんと消えていく。

「―――ッ！」

　な、夏音（なつね）！ 待ってよ！

　いくら必死に手を伸ばしてもそこに彼女は居なく、

　触れることも出来ず、いつもここで僕は目を覚ます。

　――――――――――――――――――――――――――

「夏音ッ！」

　僕は目を覚ますと同時に、そう叫ぶ。

　同じような夢を何でも見ているが今日はつい叫んでしまった。

「また、あの夢か……」

　時刻は6:45、家を出るまでは大体1時間ほどある。

　いつもならすぐにベッドから降りて朝の支度をするのだが、今日はどうもその気になれなかった。

「夏音……一体何かあったのかな…？」

　僕はベッドに横になったまま、その夢から覚めた時の勢いで伸ばしっきりだった右手をぽん、と額に乗せた。

　目覚めが悪く、体がだるい。

　夢の内容が頭の中をぐるぐると駆け回り、思考を掻き乱していく。

　……この際本人に聞いてみようかな？

　いや、それはやめよう。

　あくまでも僕の夢の中の出来事だし、きっと本人に言ったらからかわれるだけだろう。

　夏音のバカにするような表情が容易に想像できる。

　そうこうしているうちに時刻は7:00を回っていた。

「……そろそろ起きなきゃまずいかな」

　僕はだるく重い体を起こし、朝の支度を始める。

　まださっきの夢が頭から離れないが、今はグズグズ考えている時間も無いだろう。

　よし、忘れ物は無さそうだ…そろそろ行こう。

「……いってきます」

　そして誰もいない家に挨拶をして僕は家を出た。

　――――――――――――――――――――――――――

「うーん……おかしい」

　僕は学校から少し離れた横断歩道で信号が変わるのを待っているのだが…夏音を一度も見かけていない。

　実は僕と彼女は家が近く、そのおかげで通学路で会う事が多いのだ。

　……いや夏音は自転車で登校するから会わない日が無い。

「やっぱり何かあったのかな…？ 戻って直接……いやいや、流石にかなぁ」

　そんなこんなで信号が変わる。

　ここを少し進むだけで学校に着いてしまうだろう。

　心配だ……とりあえず様子を見て後で電話しよう

　僕は後ろ髪を引かれる思いだが、とりあえず学校に行く事にした。