第3章 キーロンの屋敷

第7話 貴族飯は辛いだけ?プリンの虜になるトンボ!

馬車だと半分の3日でギコニルの街に到着した。その間も、キーロンや護衛騎士の食事を作り続けた真人。その所為で、屋台は在庫切れを起こしていた。材料を使っているうちにわかったのだが、どうやら前世のお店の在庫だったようだ。


「3日間も料理を任せて本当にすまなかった。よく考えれば、3日もこの人数の料理を作り続ければ食材が無くなるのは当たり前だ。マサトの料理が、あまりにもうますぎて根本的なことを忘れていたようだな。屋敷に着いたらお礼と料理の代金、それに料理番としての報酬を必ず払おう」


キーロンとは、馬車の中で自己紹介も済ませて、色々な話をした。幸い出身地に関しては、トンボがうまいことリルの村出身と話してくれたので乗り切ることが出来た。しかし、屋台と大量の食材や荷物の出し入れでアイテムボックスがあることがわかってしまい、2つスキルがあるのではと疑われて、薄々転移者ではないかと思われている。なんでも、この世界の住人は、1つしかスキルを授からないらしいのだ。だがキーロンは、深く問いただそうとはしない。


「ありがとうございます。全くお金がなかったので助かります。これで、更に料理を作ることができますよ」


「そうか。うむ!では、1つ依頼をしたいのだが頼めるかな?」


真剣な表情になるキーロンに対して、どのような依頼がくるのかと身構える真人。


「依頼とは...家族にも料理を作っては貰えないだろうか?あの感動を家族にも知ってもらいたいのだ」


真人は、もっと深刻なお願いをされるのかと思っていたので、なんだそんなお願いかと拍子抜けをして「はぁぁ」と安堵のため息を吐く。


「構いませんよ。ご家族の中に、嫌いな食べ物がある方はいらっしゃいますか?」


「おぉ〜作ってくれるか。感謝するぞ。それで、嫌いな食べ物とな?息子も娘も、野菜と肉が嫌い...う〜ん?違うな。飽きてしまったという方が正しいだろうか」


「飽きたですか...1度普段食べている夕食を食べさせては貰えませんか?飽きたという理由がわかるかもしれませんので」


真人は、飽きたではなくて受け付けないのではと感じていた。それは、大人より子供の舌の方が敏感だからだ。理由として、いくつか検討は付いているが、1度食べて確かめた方がいいと思ったのだ。


「わかった。屋敷に着き次第、すぐに料理長に伝えて食事を用意させよう。おっ!話していたら着いたようだな。あれが、俺の屋敷だ」


指を差した方を見てみると、海外の映画に出てくるような大きな屋敷に広く綺麗な庭が広がっていた。


「でけぇ屋敷だな。俺のボロ屋とは大違いだ。1度でいいから住んでみてぇな」


「アハハハ。住んでみたいか!そう言われると嬉しくなるな。だが、この屋敷に住めるのも俺達家族が暮らして行けるのも、トンボのような平民が汗水垂らして税を納めてくれているからこそなのだ。感謝しているよ。平民がいなければ、貴族は成り立たなくなるのだからな」


この言葉からも、キーロンはいい領主であることが窺える。


「領主様にそれを言われちゃ〜働いた甲斐があるってもんよ。それに、爺ちゃんが言ってたが、うちの領主様は領民思いの優しい方だとな。真実だと知れてよかった」


それを聞いたキーロンは、「領民によく思われているのは嬉しいことだ」と言って笑うのであった。


トントントン


「キーロン様、屋敷に到着致しました」


マークが、馬車の扉を開ける。そして、先に真人とトンボから降りるように欲してから、最後にキーロンが馬車から降りる。真人は、あまりの尻の痛さに両手で尻を押える。


「マーク、そして騎士達よ、道中の護衛ご苦労だった。ヴァロル、この二人マサトとトンボは、恩人かつ大事な客人だ。風呂と食事と丁重に持て成してやってくれ」


「はい!畏まりました旦那様」


「私は、第一筆頭執事のヴァロルと申します。マサト様、トンボ様、屋敷をご案内致しますので、こちらにお越し下さい」


ヴァロルの案内の元、部屋と風呂に向かう。

風呂から上がるとメイドが待っており、体を拭かれて高級そうな服を着させられる。


「なぁ〜トンボ」


「なんだ?」


「貴族って羞恥心とかないのかな?」


「知らねぇよ。はぁ〜」


二人は、生まれたままの姿を数人のメイド、それも自分達よりはるかに年下の女性に見られて、更には拭かれて服まで着させられたことに、恥ずかしさを超えて放心状態となっていた。


トントントン!


「はい!」


「お食事をお持ち致しました」


メイドが、食事を持ってきて配膳をしてくれる。配膳し終わると、「失礼致します」と言って出て行く。


「慣れねぇ〜な。平民でよかったと、つくづく思ったわ」


「そうだな。肩が凝りそうになるよ。とりあえず、食べてみようか」


「おう。貴族の食事なんか一生に一回しか味わえねぇだろうしな」


用意されたのは、様々な野菜がぶつ切りにされた物と腸詰めが入ったポトフのようなスープと何もかかっていないサラダとステーキらしき物とパンであった。

真人とトンボは、順番に食していく。そして、食べている途中でトンボがため息をつく。


「はぁ〜昔なら泣いて喜んだだろうがよ。マサトの飯を食っちまったら、一切うまいと思わねぇ〜よ。辛いし、パンも全然ふわふわじゃねぇ」


「ありがとうな。トンボ。確かに、これじゃあ子供達は嫌いになるな。本当に辛すぎる」


真人の予想していた通りであったのだ。サラダとパン以外は、全てが辛いのである。高級な塩と香辛料を沢山使えばいいと思っているのだろう。この世界の貴族飯とは、塩と香辛料が大量であれば高級料理として認識されているようだ。


「とりあえず、作った人には悪いが残そう。これを食べるのは体に悪すぎる。それから、口直しにこれを食べて見てくれ」


残すのは悪いと思った真人だが、体が拒否反応を起こしてしまい食べることができないのだ。そして、デザートにと作っていたプリンをトンボに渡す。ちなみに、道中では甘味がどのくらい普及しているかわからなかったので出していなかったのだ。


「う、うめぇ〜生きててよかった...こんなあめぇ菓子を食ったのは初めてだ。口に入れただけで溶けやがるし、この茶色いのがほろ苦くて、このあめぇのと食べると、また違う味わいになって堪んねぇな。やっぱりマサトは天才だぜ」


「ありがとうトンボ。トンボが、もし日本にいたら食レポで一世風靡してたかもな」


「しょくれぽ?なんだそりゃ?」


「なんでもないよ。もう1つ食べるか?」


食べるかと聞いたら、即答で「食べるぞ」と答えるトンボ。

真人は、プリンを食べながらキーロンの家族に何を食べさせようかと考えるのであった。

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