『TS百合に俺はなる!』──愛する人のため完璧高校生になった俺は、女の子になっても初恋を貫く!
間一夏/GA文庫大賞3作連続・三次選考
第1話 告白と演技
「私、綾崎くんのことが好き。ずっと前から……だから、私と付き合ってほしい」
時は三月の中頃。
場所は人気の少ない校舎裏。
懐かしい土の香りと、鮮やかな木漏れ日の中、俺に告白してくれたのは三年の先輩だった。
射抜くように強くて、それでいて泣きそうに濡れた瞳。震える肩に戸惑っている緩いウェーブのボブカット。
ほっそりと整った両手は、祈るように胸の前で硬く繋がっている。
制服の上からでも分かるボリュームのある胸には、今日卒業を迎えた証である赤い薔薇が飾られていた。
――確か名前は舞先輩だったか。
女子バスケ部のキャプテンで男女問わず人気のある有名人。
すらりと伸びた手足に、スポーツで引き締まったしなやかな身体。元より整った目鼻立ちは、柔らかな薄化粧で彩られ、春風のような魅力を醸し出していた。
皆が憧れる明るくて美人な先輩。
そんな先輩から、卒業式の後に呼び出されて愛の告白。
普通の男子高校生であれば、二の句も告げずに即OKする事案だろう。
差し出された手を握りしめ、そのままフォークダンスどころかタップダンスまで始めてしまうに違いない。
――でも、俺にはどうしても目の前の先輩を美しいと思うことができなかった……。
「二つも年下の男の子になんてって、最初は気付かないフリしようとしてた。でもやっぱり、このまま卒業しちゃうのは絶対違うと思ったから……。だからさ、キミの答えを聞かせて欲しいんだ……」
きらりと丸く、光を反射させた瞳が訴える。
その真っ直ぐな視線を前に、俺は少し戸惑いの表情を浮かべてから、困ったように頬を掻く。
告白してくれたことに対して淡い喜びを
――そういう〝演技〟をするのがクセになっていた。
演技と言うと人聞きが悪いか。言い換えるならこれは礼儀だ。
たとえ答えが決まっていたとしても、少しは悩んだり苦しんだり――そういう素振りをするのがせめてもの礼儀なのだと、繰り返す経験の中で俺は学んでいた。
悩む素振りすら見せずに断るのは、どうやら人道に反するらしいと。
「すみません先輩。気持ちは嬉しいですけど……俺には心に決めた
傷付けないよう、角が立たないよう、お決まりの断り文句を組み立てる。
高校に入ってもうすぐ一年。その間に告白を断るのはこれで二十七回目。
そりゃ断り方もパターン化してくるというものだ。
視線を落としながら俺の言葉を黙って聞いている舞先輩。
その長い睫毛が微かに震える。
だが、俺の返事は先輩にとって予想通りのものだったのだろう。
次の瞬間、舞先輩は勢いよく顔を上げると、何かを吹っ切ったようにからりと笑う。
「もう、君がそんな顔しないでよ。本当は最初から答えは分かってたんだ。でも、ちゃんと受け止めてくれて嬉しいよ。これで心置きなく卒業できるってものよね」
良かった。今回は泣かれたり、恨みごとを言われたりしなくて済みそうだ――と胸をなでおろしたタイミングで、舞先輩のイタズラっぽい表情が滑り込むように俺の顔を覗き込む。
「それでさ……心に決めた女性って、やっぱり
その言葉に他意は無い。
だからこそ、そのストレートな物言いに俺は少し言葉に詰まる。
「あはは、いいって無理に答えなくても、みんな知ってるからさ。私も分かってて、それを承知で告白したんだから……綾崎くんが気にする必要はないのよ」
どこぞのおばちゃんのようにパタパタと手を振って笑う舞先輩。
「百合さんとのこと、色々あるだろうけど応援してるから。でも心に決めてるって言うなら、さっさと白黒つけなさいよ。私みたいに無謀なチャレンジで泣く女がこれ以上増えないようにね。しっかりしなさい、後輩!」
小さな拳でこつんと俺の胸を叩く舞先輩。
そのままふわりとスカートを翻えすと、先輩は肩越しに卒業証書をぷらぷら振りつつ、じゃあねーと去っていく。
男顔負けの、爽やかイケメン女子だった。
先輩の背中が完全に見えなくなったのを確認すると、俺は深いため息をついて校舎の壁にもたれ掛かる。
「はぁ、どうして告白を断るのって、こんなに気力を消耗するんだろうな」
何度繰り返しても、この疲労感にだけは全く慣れる気配がない。
「――総くん、大丈夫ですか?」
ふと隣から、甘い柑橘のような声。
ハッとして見ると、そこには幼馴染でクラスメイトでもある百合透花が立っていた。
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