第4話
刑事たちの話によると……。
栽培を禁止されているケシの花が、この家の庭で目撃されたらしい。
ポピーとも呼ばれるケシ科の植物の中で、例えばヒナゲシやオニゲシなどは園芸用に売られているし、家庭で栽培しても問題はない。しかしボタンゲシやアツミゲシ、ハカマオニゲシのように、よく似ているけれど駄目なケシも存在する。その実からアヘンの材料が採取できるのだという。
「厄介なことに、そういうのに限って繁殖力も強くてねえ。種が風で飛ばされて、空き地で自生したりもするんですよ」
刑事たちは最初、軽く笑い話みたいに語ってくれた。
この家のケシも、どこかから飛ばされてきて生えたのを「綺麗な花だ」と思って育ててしまったのだろう。たいした数ではないし、悪気もなかったのだろう。彼らはそう考えていたようだ。
「ああ、そういう話ならば……。どうぞこちらへ」
さっさと用事を済ませて、帰ってもらおう。俺はそのつもりだったが……。
いざ三人を裏庭へ案内すると、刑事たちの表情が変わった。
「これは……。うっかり育ててしまった、というレベルを超えていますね」
「まさに麻薬栽培だ。これだけ見事に育ったら、売れば凄い金額になりますよ」
彼らが足を止めたのは、赤い花の区画だった。
畳一畳分くらいに渡って、びっしりと咲いている。俺が裏庭に足を踏み入れた際に「妙に心惹かれる美しさ」と感じたやつだ。
改めてよく観察すると、その半分以上が、既に大きな実をつけていた。
「お母さんの様子、何か最近、変わった点ありませんでしたか?」
「遠くてなかなか来られないとしても、電話連絡などはそれなりにしてますよね?」
刑事二人が俺を責め立てる。さすがに本気で「老婆が麻薬栽培をしていた」とは信じていないだろうが、たとえ「うっかり育ててしまった」だとしても、急いで全部処分する必要がある状況なのだろう。
もちろん「全部処分」といっても、ただ根本から切って捨てるだけでは済まない。色々とややこしい手続きもあって……。
「お母さんにも説明しますが……。息子さんも一緒に聞いていただけますか?」
「こうなったら、帰ってくるまで私たちも待たせてもらいますよ」
刑事二人が、今後の段取りを勝手に決める中。
「いや、それは困ります……」
思わず本音が出た俺に対して、若い制服警官が疑惑の目を向けてきた。
「あなた、本当に滝本さんの息子さんですか? もしかすると、あなたは麻薬密売組織の人間で、何も知らない滝本さんを
冗談ではない!
俺は一介の泥棒に過ぎず、麻薬の
……と憤慨するものの、泥棒云々を口に出来るはずもなかった。
そんな俺に代わって、刑事二人が若い警官を叱責する。
「おい、失礼だぞ!」
「お前、テレビの見過ぎじゃないのか?」
しかし彼は止まらなかった。
「だけど先輩、この人ちょっと変じゃないですか。ずっとリュック背負ってるんですよ」
そう言って、私の背中を指さしたのだ。
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