第6話 いつものパターン

 屋敷に帰ってきたオクタヴィアンは、真っ先にヨアナの部屋へ入っていった。


 ヨアナは昼食を済ませて少しお昼寝をする頃で、乳母のローラもご飯を済ませてベッドに横たわるヨアナの横のイスにかけて、胸をポンポンと叩きながら眠りを誘おうとしていた。

 そこに夜まで帰ってこないと思っていたオクタヴィアンが帰ってきたのでヨアナとローラはびっくりした。


「え? パパ?」


「オ、オクタヴィアン様? ど、どうしたんです? だってパーティー……」


「ぐぐ~……」


 オクタヴィアンはそれだけ言うと、子供の様に黙ってしまった。顔は真っ赤、口はとんがっている。

 眠気まなこでも、これは異常事態と思ったヨアナは、ベッドから身を乗り出してオクタヴィアンにこう言った。


「パパ、泣いちゃダメ! 男の子でしょ!」


「わ、分かってるよ! でも悔しくてさあ~」


「でも今日は我慢するの! そしたら明日、いい事があるから。ね。」


 そうヨアナは言うと、ベッドから降りて立ち尽くしているオクタヴィアンの足元まで行き、両手を広げた。

 オクタヴィアンはそんなヨアナを見て、その場でしゃがみ込んで抱きしめた。


「パパ。大丈夫、大丈夫」


「そだね。ヨアナ、ありがと」


 オクタヴィアンは、すっかりヨアナに慰めてもらい、少し落ち着いた。


「もう……どっちが子供なんだか……」


 いつもの事だが、ローラはその光景を見て呆れた。

 

 その後、オクタヴィアンは「ありがと」と言って部屋を後にし、ヨアナは眠りについた。

 そしてローラはヨアナの部屋を出ると、一人屋敷の掃除をと食堂へ向かった。

 するとそこにはオクタヴィアンが一人席に着いており、しっかり家で作られた赤ワインを開けて飲んでいた。


「ローラ~。やっぱりこの髪型、笑われちゃったよ~。くそ~! どうしたらよかったと思う~?」


 ローラはオクタヴィアンの隣に座った。


「飲みますか」


 こうして二人はローラの寝床へワインを持って歩いていった。


 ローラをはじめとする使用人達の住居も敷地内にある。


 過去に何回も内戦があったこの街の屋敷という事もあり、屋敷はそれらから守る為にまるで城壁のように門以外は高いベージュの石壁で囲ってある。


 その中、門をくぐって右側にオクタヴィアン家族の住む立派な本館があり、広い中庭を挟む形で、その立派な二階建てと同じくらい立派な別館があり、そこが使用人達の住居となっている。


 日中の仕事が終わるとその建物で寝泊まりをするのである。

 ローラの部屋は建物の玄関から入ってすぐ右の部屋で、中はたいして広くはなく、ベッドとイス、それと小さな丸い机が一つあるくらいで、それ意外はローラが使う服などの生活用品しかない。

 と、言ってもそれなりの量にはなるので人がのんびり出来る空間はベッドくらいしかない。

 

 二人はその狭い部屋に入ると、ワインを机に置き、オクタヴィアンがベッドに座り、ローラがイスに座った。


 そしてオクタヴィアンの愚痴がスタートするのである。


 これはこの二人のいつもの行動パターンで、エリザベタに見つかってオクタヴィアンが怒鳴られないようにする苦肉の策であった。

 もちろん屋敷の他の使用人もこの事は承知で、二人で部屋に消えたら、ヨアナの世話はだいたいは料理人のファイナおばさんが代打でしてくれた。


 こんな親密な関係にある二人なのだが、それ以上の関係にはならなかった。


 ローラからしたらオクタヴィアンは雇い主という以外にないのだが、オクタヴィアンは大の女好きである。


 しかしオクタヴィアンは手を出そうとはしなかった。それはオクタヴィアン自身も不思議に思っていたのだが、物心ついた時にはすでに隣にいた存在のローラは、オクタヴィアンには一つ歳上の姉のような存在で、恋愛の対象には出来なかったのかもしれない。


 それに恋人というよりはすでに家族の一員であり、オクタヴィアンが最も信頼する女性の一人という事もあり、それ以上の関係になると、この大事な関係が崩れる恐れがある。


 それを心配していたのかもしれない。


 しかしオクタヴィアンにもそこはよく分かってはいなかった。

 しかしローラは愚痴を聞いてくれる。

 オクタヴィアンはこれでいいと思っていた。ローラがどう思っているのかは分からないが……

 

 こうして二人は昼過ぎからお酒を飲み……と、言ってもローラは飲む振りだけで実際にはほぼ飲んでいないのだが、オクタヴィアンはローラに愚痴を言いまくった後、ローラのベッドでガッツリ寝いった。

 

 ローラはこれだけわがままなオクタヴィアンを、しょうがない人だなと思いながらも、何故か嫌いにはならなかった。

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