その後
彼女が僕の目の前で散った日から半年、僕は彼女へ花を手向けるために彼女と最期に過ごした橋へと来ていた。
彼女の学校を知らなければ当然、家も知らない僕が彼女に花を手向けるにはこの場所しかない。
だけどそれでよかった。
彼女の家に線香をあげに行く気もお墓に参る気もない。
僕と彼女思い出はあの動物園と最期の瞬間を過ごしたこの場所だけだ。
僕は半年たった今でも彼女が居た時と同じ日々を過ごしている。
朝起きて学校へ行き、帰宅し寝る。
休日には年老いたキリンに会いに動物園に通う。
変わらない僕の日常がそこにはあった。
そんなことを考えながら僕は彼女へ花を手向ける、合掌する。
あの日の事は今でも鮮明に思い出すことができる。
あの日の彼女の笑顔に彼女の言葉。
それに僕が書いた僕の為の遺書。
僕はあの日家に帰った後、勢いのまま遺書を書いた。
彼女の死に魅せられ、本気で死のうと思った。
だから僕は次の日に橋へと向かい欄干の上に立った。
死は全く怖くなかった。
ようやく彼女に近づくことができる。
そんな高揚感が僕を満たしていた。
早く彼女との距離を0にしたくて僕は川に背を向けた。
後はこのまま高揚感に満たされながら満面の笑みで逝けば僕は完成する。
そう意気込んだ時に僕は気が付いた。
気が付いてしまった。
僕には誰もいなかった。
彼女には僕が居た。
彼女は僕の中に消えない存在として彼女を残した。
だけど僕はまだ何もしていない。
このまま死を選んでも僕はただ消えるだけだ。
何にも、誰にも残らずただ消えるだけ。
僕は彼女にはなれない。
その事に気が付いた時、僕の中に会った高揚感は消えた。
そして同時に死への渇望も消えた。
僕は静かに欄干から降りると帰路に就いた。
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