この国は聖女に厳しい
「聖女様、こちらです」
クラウドに連れられてやって来たのは、先程押し切られた掃除の為の宿舎。
そして、今目の前の宿舎を見て若干混乱している。
何故かと言えば、その大きさ。
私が想像していた宿舎は三階建ての小さなアパートぐらいで、目の前の宿舎は学校の校舎ほど……
「……これを、一人で……?」
「はい。我々のトレーニングメニューより断然優しいと思いますが?」
何だろう……この人、人としての常識が抜けている気がする……
呆然と目の前の建物を見ている私の後ろで肩を震わせながら笑っている奴が一名。
「くっくっくっくっ……いい顔してるな」
他人事だと思って楽しんでやがる。
「アル先生、団長なんでしょ!?あの人どうにかしてくださいよ。これ一人でやれる範囲じゃありませんよ!?」
「まあ、そうだろうな。だがなぁ、人の好意は受け取るものだぞ?」
クラウドに聞こえないように小声で上司であるアルフレードに文句を言ったが、まさか肯定されるとは思わなかった。
しかも、今まで私に対して一切関心を示さなかったアルフレードが、今この現状を凄く楽しそうにしている事にも驚いた。
あぁ~……人の不幸は蜜の味的なやつですか?
おかしいなぁ……私国を守る聖女のはずなんだけど、待遇悪くない?
「じゃあ、聖女様、日暮れまでには終わるようお願いしますね?」
もう私にはクラウドの笑顔はエセ笑顔にしか見えなくなってしまった。
「──ったく、分かったわよ!!修行時代に比べれればこれぐらいどうって事ないわ!!私の本気見せてやるわ!!」
箒片手に威勢よく言ってのけた。
そして、マスク代わりに布を口に覆い、準備は完璧。いざ、埃の詰まった宿舎の中へ!!
◇◆◇◆
意気込んで足を踏み入れた宿舎の中は、思っていたよりも小綺麗で、これならいける!!と思っていた。つい先程まで……
まずは水周りから攻めようと、浴室へ行って愕然とした。
朝風呂に入った騎士達が使ったであろうタオルがそこら辺に散らばり、床はビショビショ、更には洗濯用の籠にはシャツやら下着が籠に収まりきらずあふれている。
男所帯だから仕方ないが、なんと言う無法地帯……
だがこんな事で挫けている場合では無い事に気がつき渋々手を動かし始めた。
ブツブツと文句を言いながらだったが、何とか脱衣所を終えた。
早く浴室に移らなければと、早る気持ちで浴室の引き戸を開けた。
そこは、ガタイのいい騎士が数人で入っても余裕のある広さの浴室だった。そして、その奥には大きな浴槽が見えた。
今からこれを洗うのかと思うとうんざりしたが、ここまで来たらやり遂げてやる。
どうせびしょ濡れになるならと、ノースリーブ、短パンの姿に替えて浴室へと足を踏み入れた。
床を洗い、大きな浴槽を洗っていると脱衣所の方からガヤガヤ声が聞こえてきた。
どうやら、訓練を終えた騎士が汗を流しに来たようだが今はタイミングが悪すぎる。
仕事柄、男の体なんて隅から隅まで見尽くしているから今更恥じらう事はない。何なら、凝視して冷静に感想を述べてやってもいいぐらいだ。
しかし、それは私の対応。
痴女か、はたまた間者だと思われてしょっぴかれるかもしれない。
流石に騎士に組み敷かれたら手も足も出ない。
慌てて周りを見渡して隠れる場所がないか探すが、そんなものは浴室にはあるはずない。
とりあえず、騎士達が服を脱ぐ前にこの場から出ようと入口の引き戸に急いだが、寸前の所で引き戸が開き目の前には引き締まった体が……
騎士の方は、びしょ濡れの私を目の当たりにして呆然と立ちすくんでいた。
(やっぱりみんな、いい体してんなぁ~……ってそれより)
私は騎士達の後ろを見て目を疑った。
先程片付けたばかりの脱衣所が、元通りに戻っているではないか。
「……あ、あの、貴方は……?」
「あれ?もしかして、聖女様っすか?」
正気に戻った騎士が私に声をかけてきた。
私は目の前にいる騎士の肩にポンッと手を置き、満面の笑みを向けた。
「あのね、一言いいかな?」
「え……?」
優しく声を掛けられた騎士はほのかに頬を染め戸惑う騎士に、スンッと真顔に戻り睨みつけた。
「風呂に入る前に
「「は、はぃぃぃ!!?」」
騎士達は私の剣幕に慌てて自分の脱いだ服を片付け始めた。
素っ裸の男が狼狽えながら片付けている姿は笑えたが、可愛くもあった。
騎士らもまさか素っ裸で自分達の服を片付けるとは予想もしなかったろう。
「よしっ!!これからは、掃除する人のことを考えて常に気を配ること!!いい!?」
「「うぃすっ!!」」
「………貴方達は何をしているんです?」
デッキブラシを手にしながら仁王立ちの女、その前には整列した素っ裸の騎士達という異様な絵面になんとも冷ややかな声がかかった。
振り返ると、そこにはエセ笑顔ではなく怪訝な表情をしたクラウドが立っていた。
私は何故か冷や汗が吹き出し、慌てて今までの経緯を話た。
すると、クラウドにエセ笑顔が戻った。
「そうでしたか。それは我が騎士達が失礼致しました」
クラウドが頭を下げて謝罪してきた。
流石は副団長、部下の不始末にはちゃんと謝ってくれるらしい。
「……ですが、それはそれ、これはこれです。私が課したのは日暮れまでに終わらせることでしたよね?──既に日は落ちてますが?」
「うそ!?」
クラウドの言葉に慌てて外に出てみると、確かに日が落ち外は暗くなっていた。
愕然としている私を他所にクラウドは淡々と話を始めた。
「これでは体力が付くどころか掃除もままなりませんね。──……仕方ありません、明日からは私が付き添って指示を出しましょう」
「え?それは、遠慮──……」
「いいですね?」
言い切られてしまった。
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