杖が聖女だと認めてくれない
私はこの真っ白な空間から一秒でも早く出たいのに、この目の前の神様はそれを許してくれないらしい。
何故なら、この空間にあるはずも無いテーブルと椅子が用意され、更には湯気を立てたお茶が用意されていたのだから。
「さあ、座って」
「いや、こんな空間でお茶が飲めるほど精神鍛えられてないんだけど?」
「おや?今までの聖女は喜んでくれたが?まあ、この空間よりも私の美しさの方に気を取られていたがな」
薄々気づいていたが、この神、ナルシストにも程がある。
そして、知っている。こういう奴には何を言っても無駄だと言うことも……
私は目の前の神に聞こえるように大きな溜息を吐いてから、ドカッと椅子に腰掛けた。
「お前は今までの聖女とは違うな……容姿も中身も、持っている気配も……」
鋭い目付きに変わって私を見てきた。その目は私の内面まで見透かすような、そんな目をしていた。
「それは城の人達にも、魔王にも言われたわね」
「……魔王に会ったのか?」
「召喚されてすぐに窓ガラスを割って来たわよ。あぁ~、あの人にもう一度会いたい!!」
「は?魔王だぞ?」
「魔王だろうが閻魔だろうが、あの腕の柄!!あの柄をスケッチしたいのよ!!かっこいいと思わない!?あれは芸術よ!!今世紀最大の掘り出し物だわ!!」
テーブルをバンッと叩きながら力説すると、神様は若干引いたような顔をしていたが、そんな事はどうでもいい。
あの柄の良さを全世界に広めたい。そして、あの肌に私の絵を彫りたい。
「あの柄を引き立てつつ、邪魔にならないような絵……」
ブツブツと魔王に施す絵の柄を考えていると、神様は呆れたように声をかけてきた。
「お前が何を言っているのかは分からんが、今のお前は聖女だぞ?魔王を倒す存在が魔王を褒めてどうする」
「聖女と彫り師は別物よ。私の本業は彫り師。聖女はそうね……短期アルバイトって事にしようかしら?」
「お前……」
私の答えに神様が頭を抱えた。
見た目がいいと頭を抱えている姿も絵になる……
(それに、この人も中々……)
傷一つない綺麗な肌、真っ白なキャンパスの様なその肌に、私の絵はどれだけ美しく映えるだろうか……
そう考え出したらいてもたってもいられなくなり、神様の手を握りお願いした。
「その肌に私の絵を……」
「断る!!!」
全て言い切る前に断られた。
「何よ~、まだ最後まで言ってないじゃん」
「どうせ、お前のような模様を描かせろとでも言うのだろう!?冗談じゃない!!私の肌には何人たりとも傷はつけさせん!!」
神様は慌てて乙女のように身体を隠すように両手で覆った。
「傷じゃないし、芸術だし」
「何を言おうと駄目なものは駄目だ!!」
「神様の癖に器ちっちゃっ!!」
「……お前なぁ、仮にも私は神だぞ?不敬だと思わんのか?」
「こんな事で不敬なんて言ってたら、喚ばれた時点で牢屋行きだったよねぇ」
ドヤ顔で言い切ると、再び頭を抱えて唸り始めた。
「……誰だ、今回こいつを喚んだのは……」
まあ、神様が困るのも正直頷けるけどね。
聖女って普通お淑やかで愛らしく、人々に好かれる人物だからね。
今回もそんな人物が来ると思っていたら、
「まあ、いい。お前に杖の使い方を教える」
「あぁ~、取説が神様なのか」
「取説……もういい、いちいち突っ込んでられん」
私がポンッと手を叩いてなるほどと納得したが、神様は何か言いたそうにしていたが諦めたらしい。
「この杖の先端にある石。これは魔石になっている。お前達は元より魔力がないだろう?これがその魔力を補ってくれる」
「魔石!?へぇ~、転生漫画でよく出てくるやつじゃん。実物って宝石みたいなのねぇ」
先端に付いている魔石を触りながら応えた。
歴代の聖女が使っている割には輝きが衰えてないどころか、下手な宝石より輝いて見える。
まさか漫画に出てくるような魔石を触る日が来るなんて思いもしなかったが、これはこれで結構いいかもしれない。
だって、魔法が使えるって事だよね?魔法少女なんて誰もが一度は夢見るもんじゃない?
「言っておくが、お前が思っているような代物じゃないぞ?」
「は?」
ニヤニヤしながら杖を摩っていると、神様が怪訝な顔で忠告してきた。
「え?魔法使えるんでしょ?魔法少女になれるんじゃないの?」
「お前は魔法少女と言うより魔女……」
「あ゛ん!?」
何やら失礼な事を言い出しそうになったから睨んでやったらゴホッゴホッと咳き込んで誤魔化さられた。
どうやらこの杖は持ち主を選び、この杖が認めなければ魔法は愚か魔王を討伐する事すら出来ないらしい。
歴代の聖女は手にした瞬間杖に認められたらしいが、どうやら私はまだ認められていないらしい。
認められれば魔王を討伐する程の巨大な力が宿る。という事らしい。
「まあ、杖がお前を認めたくないのも分からんでもないが、このままではお前も困るだろ?」
「何で?」
「お前、聖女として城に置いてもらっているのに、聖女としての力が宿らんどころか城の秩序を乱しているだろ?使い物にならん挙句、ただ飯食らいの人間をあの
もっともな事を神様に言われて、私の顔から血の気が引いた。
確かに私のことを聖女だと認めていない王子は、いつ私を城から追い出そうと画策しているはず。
私が杖に認められなくて聖女として使えないと分かれば、すぐさま無一文で追い出されることは必然。
「どうすればいいの!?」
「そんなもの、杖に聞け」
神様は焦っている私を横目に優雅にお茶を啜っていた。
「はぁ!?あんた歩く説明書でしょ!?注意事項なりヘルプガイドなり用意しときなさいよ!!」
「ちょっ!!おまっ!!まっ!!ゴホッゴホッ……!!」
その態度に腹が立った私は胸ぐらを掴んで大きく揺さぶったので、お茶が変なところに入ったのだろう。盛大にむせていた。
しばらくむせた後、涙目になった神様が私を見てきた。
私はこれ程美しい涙を見たのは初めてで、一瞬目を奪われたが、すぐに正気に戻った。
「お前!!神をぞんざいに扱うのも大概にしろよ!!」
ゴンッ!!と音ともに脳天に衝撃を受けた。
「──っ痛……!!」
頭を抑えてうずくまっていると、頭上から声がかかった。
「全く、お前のような者は初めてだ……だが、面白い。なに、杖もその内認めてくれよう。杖に認められるよう精々励め」
その言葉を聞き終えると、グラッと目の前の視界が歪み、目の前が真っ暗になった。
どうやら気を失ったようだった……
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