魔王との再会を望んで
あの召喚から魔王の登場、私の暴走の一連を終え、改めてここが何処なのか、何が起こっているのか聞くことになった。
この国はモリミア王国と呼ばれるそこそこ大きな国らしい。
そして、その国王はゲルト・ ヴェン・ミュラーと言うらしい。
このオッサン、この年でこの容姿という事は若い頃は大層モテたであろうな。
それは隣にいるこのオッサンの子供である王子を見れば一目瞭然。
こんな綺麗な顔、生まれてこの方見た事がない。
(流石は異世界、顔面の偏差値がエグいわ……)
で、だ。この国で何が起こっていて私は何を求められているかと言うと、この世界は普通に魔法が存在する世界で、普段は何不自由なく暮らしているが、数百年に一度の周期で魔王がやって来て民の魔力を奪い自分の力としてしまう為、困った国の重鎮らが魔王が復活する度に聖女やら勇者やらを召喚し、魔王を討伐しているらしい。
「……ダルッ……」
そもそも何故何度も討伐に行かなきゃならんのだ。歴代の聖女達が二度と魔王が復活出来ないように仕留めていれば何回も聖女呼ぶ必要なかったよね?
それに魔力が使えなきゃ困る?そんなもの魔力のない世界で生まれた私からすれば甘ったれんなって言いたい。
何でもかんでも魔法に頼るから魔力が無くなった時に慌てるんだ。
魔王が復活する周期も分かってんなら、その日の為に魔力がなくても自炊出来るように努力するよね?
それすらしてないの?何してんの?この国の奴ら、馬鹿の一つ覚えじゃん。
ソファーにもたれかかてやる気の起きない私を心配そうに国王が見ているが、そんな顔をしても努力をしない奴らの為に動く気にならない。
そんな私に痺れをきらたであろう王子が声を荒らげた。
「父上!!この様な者が聖女の訳ありません!!見てください!!この装い、聖女とは到底思えない!!」
(うん。君、良いとこつくね。正解だよ)
歳的には私とさほど変わらないだろうが、将来国を担う者としての判断は間違っていない。
「黙れ!!アルフレード!!」
(ふ~ん。アルフレードと言うのか)
そのアルフレード君はお父上に叱られて不服そうに私を睨みつけている。
どうやらこの中で私を聖女だと認めていないのはアルフレードだけのよう。
他の皆さんは私に頭を下げ、拝むように頼み込んでいる。
まあ、ぶっちゃけ魔法に頼らず生きていばいいんじゃね?の一言で片付けられるが、こうしてこの世界に喚んでくれたおかげで今もこうして息を吸えている訳だし?命を救ってもらった恩はちゃんと果たすつもり。
それに、もう一度あの魔王様に会ってみたいしね。
心の中でニヤッと微笑んだ。
◇◆◇◆
一方、魔王城では──
ゾクッ!!!
「?どうしました?魔王様?」
「……いや、今背筋に悪寒が走った……」
「あはははは!!魔王様とあろう方が風邪ですか?」
部下は笑いながら俺の部屋を出て行った。
俺は溜息を吐きながら先程会ったおかしな聖女のことを思い出した。
今までの聖女とは明らかに違う風貌の女に一瞬目を疑ったが、纏っているオーラは聖女のものだった。
そして、今までと明らかに違ったのは、俺を恐れなかった。
200年ほど前にに会った聖女は俺を見るなり震えていた。その前に会った聖女は俺を見るなり泣き出した。その前も、その前も……
「……初めて、触れられたな……」
今回の聖女は恐るどころか、俺の魔紋がかっこいいと飛びつき腕にしがみついた。
人に、しかも女……聖女に触れられた事など一度もなかった。
俺は恐ろしい存在だからな。触れられる筈もない。そう思っていたのに……
「おかしな女だ……」
初めて触れられたが、嫌な気はしなかった……
細く華奢な手には模様が幾つも描かれていたが、柔らかく暖かい手だった。
模様がなければ白い綺麗な手だったのだろうと思うと、少し残念な気が……
そこまで考えて「はっ」とした。
「な、何を考えているんだ、俺は!!」
普段はこんな事、人の事など考えたこともないのに。
おかしいな聖女に会ったせいか、調子が崩される。
うっとりと恍惚した表情で俺の腕を腕を見ながら「綺麗」と呟いた聖女。
何故かその表情が頭から離れない。
「あ゛ぁ!!煩い煩い!!」
俺は頭を激しく振り、その表情を消した。
「ん?」と気づくと、扉の隙間からニヤニヤしている奴と、哀れんだ表情の奴らがこちらを見ていた。
「な、なんだ貴様ら!!!」
「いやいやいや、魔王様にも遂に気になる
「その相手が聖女なんて、報われない恋ですねぇ」
「初恋が報われない恋なんて素敵じゃないですか!!」
「ち、違う!!断じてそんな事はない!!」
部下共に揶揄され、必死に取り繕うとするがこうなるとこいつらは私の話を聞かないのだ。
「貴様ら!!いい加減にしろ---!!!!」
「「「ぐえっ!!!!」」」
──その日、魔王城に大きな落雷が落ちた瞬間だった。
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