第2話 サソリ

「えーと、これから向かうのは……」


 先輩から受け取った書類を見る。

 幸いなことにモンスターの目撃報告は、町の何箇所かに限られている。

 徒歩でも回れる距離だ。

 僕達は全速力で走る。


 ここから一番近いのは……。


「公園で巨大なサソリが現れたらしい!」


「それって……!」


「うん、かなりの強敵みたいだ! 急いで向かおう!」


――――――――――


「あれだな……」


 そこそこ広い公園だが、目的のモンスターはすぐ見つかった。

 そして……。


「このっ……! くらぇ……!!」


「あー……」


 あそこで巨大サソリとバットで殴り合ってる警察官……。

 どこかで見覚えが……。


「留美子!!」


「あぁ!? おぉ、鈴木に真じゃねぇか!」


 一瞬こちらを向き、そう答えた彼女は今も激しい戦闘を繰り広げている。


「なにして……」


「決まってんだろ、怪物退治だ!!」


 ……???

 決まってる……のか。

 相変わらず留美子は強いな。


「すごい……。勇者の僕でも一人で戦うとかなり苦戦するのに……」


 ただ、怪物退治は警察官の仕事ではない。

 それは僕達がやるべきことだ。

 特に、今回は……。


「シャロールさんお願いします」


 彼女に解決してもらうのが一番だ。


「はい! スコスコ!」


 サソリの鳴き声がスコスコであることは、ツッコまない。

 これで、あのサソリは言うことを聞いてくれるはずだ。

 

 が、しかし。


「あれ、まだ戦ってる?」


 サソリが大人しくなる気配はない。


「あれー? おかしいな?」


 首をかしげるシャロールさん。


「どうしたんだい、シャロール?」


「今日は……うまくスキルが使えないの」


「使えない……」


「ここはまあ、あなた達の元いた世界とは違いますから……。バグもあると思います」


 残念だが、諦めるしかない。

 ただ、スキルが使えないとなると。


「なんとかあいつを抑えて、本に戻すしかないな……」


 幸い、本に触れるだけで戻るのはスライムのときにわかっている。

 なんとか近づければ。


「僕、やりますよ。やらなきゃいけないですから!」


「真くん……」


 勇敢な彼なら、きっとそう言うと思った。


「それなら、僕もお手伝いします」


 勇者佐藤も剣を抜いた。

 直後、シャロールさんに向き合う。


「シャロール、いいかな? ちょっと大人しくしてもらうだけだからさ」


「うん……いいよ。今回は、仕方ないから」


 ちゃんと確認を取るあたり、本当に彼女を想っているのがわかるね。


「おい! 手伝うなら早くしてくれ! さすがにもたねーぞ!!」


「わかった!」


「行きます!」


――――――――――


「ふっ!!」


 大きなものが振り下ろされる音がしたので、避ける。

 サソリって言ってたから、これはたぶんはさみかな。

 まともにくらえば、ひとたまりもない。


「はっ!!」


 白状で―刀だと傷つけちゃうからね―相手のはさみを叩く。


「……」


 それにしても、戦うのは久しぶりだ。

 なかなか戦闘にはならないからね。

 普段はデスクワークだから、最近は運動不足で……。


「真さん、上!!」


「……っ!」


 危なかった。

 考え事に気をとられて、攻撃を食らうところだった。


「ありがとうございます、佐藤さん!」


「いいんだよ……っと!! 相手も本気を出してきたね」


 キレが増してきた。

 重そうなはさみを高速で振り回してくる。

 左のはさみが振り下ろされ……佐藤さんが受け止めたのだろう、剣が激しい音を立てた。


「くっ……! 真くん、僕はここではさみを抑えているから……!」


「あ、はい!」


 後は任せてほしい!


――――――――――


「ああ?」


 生意気なことに、サソリはあたしのバットをがっちり掴んだ。

 馬鹿みたいにデケーそのはさみで、ぎりぎりと力を加えてくる。

 びくともしねぇ。


「留美子さん! それ、バットが折れ……」


「誰だか知らないが、馬鹿なこと言うなよ!?」


 逆にバットを力強く、押し込む。

 もう二度と放せないんじゃないかってくらい。


「このバットが折れるときは、あたしの命日さ!!」


 いいぜ、折れるもんなら折ってみな!!!


――――――――――


「……すごいな」


 この人達、半端なく強い。

 年は僕と同じくらいなのに、もう凄腕の冒険者並みの力がある。

 ぜひ、僕のギルドに来てみてほしいけど、その話は後で。


「真さん、しっぽが上から!!」


 サソリは両手(はさみ)を塞がれたので、最後の手段としてしっぽを振った。

 だが、それさえ受け止めれば動きを封じられる。


「はっ!!!」


 よし、白杖で見事……。


「あれ!?」


――――――――――


「危ない!!!」


「きゃ!」


 僕はとっさにシャロールさんを押し倒した。

 危険を感じたからだ。


 ヒュン!


 頭上をなにかがかすめた。


「毒……です」


 僕の下敷きになっているシャロールさんが、苦しそうに言った。


「サソリの……?」


 毒を飛ばせるのか……。


「それより、鈴木さん。早く本に戻して!」


「あ、そうでした!」


 僕は立ち上がり、本を片手にサソリに走っていく。


「針は斬っちゃいましたから、安心してください」


「ありがとう!」


 サソリにはかわいそうだが、危ないからな。


「よし、本に戻れ!!!」


 しっぽを避け、なんとか足元にたどり着いた。

 そのまま本を叩きつける。

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