第22話 生存競争Ⅱのスキル検証
九日目
南に向かう冒険の途上、オレンジ色の冒険者の名はオレンジマティ、桃色の髪の冒険者はピンクアリーチェという名だと教えてもらった。ちなみに膝を割って休養中の冒険者はヒザワルというらしい。異世界言語翻訳がバグっているんじゃないかと疑うレベルだ。
このオレンジマティとヒザワルが相棒。ピンクアリーチェとスネヨシが相棒らしい。スネヨシは冒険者ギルドに出かけて朝は不在だった。
自己紹介を終えた後、生存競争Ⅱのスキルについて新たなことがわかった。
俺は今、アイリーと手を繋いでいる。彼女と手を繋いでいる時に、オレンジマティやピンクアリーチェと会話をすると、アイリーにはすべて聴こえるという。
つまり、手を握っている相手であれば、意識しなくても情報伝達はオート。手を握っていない相手だとマニュアル操作、みたいな感じなのかな。つまり現在1対1+手を握っている相手。という組み合わせで会話可能だ。ちなみに、二人同時に手を握る実験はしていない。
「それは、パーティを組んでから、そのメンバーたちと実証しましょう」
というアイリーの声にすんなり従うことにした。
「本当に二人は仲良しなのね、いつも手を繋いでいるもの」
「ええ、仲は良いのはその通りですけど、手を繋いでいないと目が見えないので不安なのですよ」
「ああ、そうか、そうだったわね、あなたいつも色々自然に動いていたから、眼が見えていないことを忘れがちになるわ。いろんな下着もバッグも作れるものね」
確かに、杖を持つわけでもなく、普通に歩く彼女が盲目だと云われなければ自然な振舞なのだ。探知Ⅲと気配察知Ⅲ、地図記憶Ⅱのスキルのお陰だと彼女は云う。あとは生物以外をフォーカスできれば、ほぼ、日常生活に支障がないという。生物以外を捉えるスキルがあるといいな。空間把握とか空間認識とかの空間系のスキルだろうか。
南へ向かう街道を五キロほど進んだ。この辺りから西の森に向かう。相変わらずの荒れ地だ。
「もう少し行くと、土モグラや大ネズミがでるわ、弱い魔獣だから大丈夫だと思うけど」
「情報、ありがとうございます、気を付けて進みますね」
「ええ、あなたたち、冒険者の初心者講習会からまだ日も経っていないわよね、レベルは5くらいなの?」
「今、11ですよ」
「え?」
「11?随分強いのね、村にいた時にもレベルを上げていたの?」
「スライムばっかり倒していましたよ」
俺が回答を考えている間に、アイリーが応えてくれた。
「あースライムかー、私たちも最初はスライムだったわ」
「時々、特異個体が混じっていて困るのよね、火や酸を飛ばしてくるから」
「ええ、特異個体の事を知らずに石を落としたり、踏んだりしていましたね」
「勇気あるわねー。怪我はしなかったの?ああ、ベルン君が
「そうですね」
モグラの巣があるね、数匹出てくるかもしれない。
「OK、短剣でいいかしら」
「うん」
前方の土がボコボコとせりあがる。モグラの顔が出てきた。これが土モグラ?
デカいな。一つの穴からどんどん出てくる。一匹、体長50㎝はある。
グサリグサリ、どかんどかん、どんどん俺たちの足元に集まって来ては体当たりをして、靴に噛みつこうとする。『不壊』付与をしている靴なので問題ない。
足で踏み抜いたり、抑えつけたりしながら、頭をザクザク刺していく。何匹出てくるんだ、無限湧きしているかの如くまだ出てくる。笑えるくらいに鬱陶しい。
「ねえ、これファイアウォールで一掃していいかしら」
いいよ、マジックシールドで1m周囲を包み込もう。
「うん」
【ファイアウォール】
突然、俺たちの周囲1mに火柱が上がる。俺とアイリーも火の中だ。オレンジマティとピンクアリーチェは3mほど後方で俺たちの様子をみている。
ぼわぁっと一瞬の火柱が上がり、土モグラの体が宙に浮く。二人の頭上には、黒い煙が空を舞った。俺は土モグラが出てくる穴に目掛けて、透明のマジックランスを放ち続けた。
音だけが荒野に響く。
ドンドンドンドン。
やがて垂直式のモグラの穴が、土モグラの死体で埋まり、出口を塞いでしまったようだ。俺とアイリーで穴の上に移動して、短剣でザクザク刺していった。体が六回光った。
▽鑑定
土モグラ レベル6 獲得経験値12×24匹
「経験値=288、レベルが12に上がった、スキル穴掘りⅢ、スキル地中探知Ⅲを覚えた。」
「モグラの皮って何かに使えるだろうか」
「帽子や手袋の表面に仕えるかも、毛が短くて色も茶色だから、汎用性が高いかもね、財布とかにいいかも、手触りは結構いいわよ」
「なるほど、捌いて行こうか」
「うん」
俺は穴から、芋を掘り出すように、マジックランスを引き抜いた三本の槍にそれぞれ五匹ずつぶら下がるように刺さっていた。腹をさばいてドライで内臓を乾燥させてを穴に落し、革と肉に分ける。こちらも浄化とクリーン、ドライをかけて、五匹単位で、製糸で作った糸で束ね、俺の
「お待たせしました」
「いえいえ、見事な解体だったわ」
「見惚れるくらい」
「モグラ肉って、食べますか」
「冒険者になりたての時は食べていたわ」
「一角ウサギより危険度も低かったから」
「ただ、凄くおいしいというわけじゃないのよね、ちょっと土臭いから」
「ウサギが獲れるようになるとモグラ肉はギルドに売っていたかな」
オレンジマティとピンクアリーチェのモグラ肉に対しての評価だ。無理をしてまで食べるものではないらしい。土臭さは浄化で消えたかな。
モグラ肉を背負い袋にしまうと、再び、森へ向かった。森の入り口からすぐの場所で、大ネズミが現れた。
モグラや街ねずみと違い、森の大ネズミはソロ活動が多いようだ。こちらもひたすらデカい。そして鼠色と灰色とは限らない、こいつは白だ。そしてデカいのに弱い。
両手を広げて威嚇をしてきたが、俺も威圧のスキルを向けると、腹を出して引っ繰り返ったので、短剣を喉に当てるだけだった。
▽鑑定
大ネズミ レベル6 経験値12
「獲得経験値12、スキルは威圧、ただし、自分よりレベルの低い相手にのみ有効」
「お、俺の威圧がⅡになった」
「うふふ、森の王者になれそうね」
「ネズミの王様だな、他は強者ばかりだ」
「このネズミの内臓を木に吊るせば、ゴブリンが大量に来るそうよ」
「纏め狩りか、いいかも、やってみる?」
「ええ、彼女たちにも一声かけておきましょう」
アイリーがオレンジマティたちに、その作戦を話すと、彼女たちは心底嫌そうな顔をした。勿論アイリーには見えないが、俺には見える。
「ゴブリンかー。臭いのよねーあれ」
そんな顔だ。
大ネズミの皮も、これだけ大きなサイズだと、部屋の玄関マットにできそうだ。俺とアイリーでネズミをさばき、内臓を木に引っ掛けて、皮と肉に取り分けた。どちらにも浄化とクリーン、そしてドライをかけて背負い袋に入れた。
ゴブリンを待つ間、先ほどのモグラの皮で、俺と彼女は帽子作りに励んだ。
俺は鍔のある紳士のハットタイプ。彼女は製糸で模りした頭からすっぽりと被って耳まで隠れるタイプの帽子を作った。なかなか可愛いな。ブラウン生地の頂上にブラウンの魔石が輝く。
「ちょっと、それ可愛いわ」
「凄いわね、あなたたち」
「お揃いで被りますか?」
「是非」×2
アイリーが帽子を二つ作り終える頃、森の奥から、のっそのそと棍棒を担いだ、ちびっ子ギャングのような草色の魔獣が現れた。小枝のような股間の棒が、一斉に天を向いた。
三人の女性のうちの誰かに欲情中のゴブリン、八匹だ。
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