第2話
(えーと、僕は確か鬼姫と将棋を始めようとして……それから……どうなったんでしたっけ?)
「……お……きん……そ」
(聞き覚えのある声ですね……)
「おぬ……おき……そうし……」
(この声は……あー、鬼姫か……鬼姫!?)
「お主、起きんか、いつまでそうしとるつもりじゃ?」
白蛇は体を思いっきり起こす。
「まっぶしッ」
眩い光が白蛇を襲う。
目を開けると、柱が腐り途中で折れ、屋根の瓦が砕けて上から下に押しつぶされた様な神社と平原奥には緑の山々が辺りを囲っていた。
「馬鹿じゃのぅ」
ケラケラと鬼姫は笑う。
「笑わないでくださいよ……」
何か言おうとしたところで白蛇の言葉は止まる。
「わぁ、なんていうか……綺麗ですね」
「じゃろ?」
どこか自慢げに鬼姫は言う。
「ん? ……ていうかあれからどうなったんですか?」
ふと、白蛇は鬼姫に尋ねる。
「おそらく前いた世界に呼ばれたんじゃろうなぁ」
「前いた世界って?」
「そりゃあ400年前に妾がいた世界じゃよ」
「え?……それって……」
白蛇には理解が追いつかない。
「そうじゃよ俗に言う異世界というやつじゃな、よく話したじゃろ? あの世界じゃよ」
少しずつ白蛇の頭が理解し始める。
「えっ……えぇぇぇぇえええええ!!!!!」
「……うるさいのぅ、もう少し大人しくせんかっ!」
鬼姫は耳を押さえながら怒鳴る。
「あぁ、すみません……いや、鬼姫の話が本当だったなんて……」
「なんじゃ? 妾を信用してなかったのかの? あぁ……妾は悲しくて悲しくて」
わざとらしく鬼姫は言う。
「やめてくださいよ……ん? ……もしかして……魔法! ……魔法があるんですか!?」
「そうくると思ったぞ」
鬼姫はニヤリと笑う。
「まぁ、そうじゃよなぁ、見たいよなぁ」
ニヤニヤと笑いながら、崩れた神社に向かってまっすぐ手を突き出し、向ける。
「何するんですか?」
「まぁ、見ておれ」
鬼姫は空を指でなぞる。
すると指先から赤い線が生み出され慣れた手付きで幾何学的な模様を描く。
「魔法陣的なやつですか?」
「そうじゃよ」
魔法陣を描き終わると、魔法陣が歪み墨で描いたような時計に変化する。
墨で描いた時計が12時から11時、10時と巻き戻ってゆく。
鬼姫は腕に力を込めた。
するとその時計の針は力を込めるよりもずっと速く逆回転し、それと同時に崩れた神社が修復され始める。
「すごい! これが魔法ですか!」
数十秒で神社がまるで今完成したかの様に綺麗さっぱり修復される。
「まぁ、こんなもんじゃろ」
「あんなにボロボロだったのに……すごい!!」
白蛇は目を輝かせながら言う。
「これが魔法じゃよ。久しぶりすぎて失敗するかと思ったが……案外大丈夫じゃったのぅ」
「400年ぶりでしたっけ?」
「うむ、ちょうど400年じゃな」
ふと白蛇はあることに気づき、目を輝かせながら尋ねる。
「魔法があるって事は……僕も魔法が使えるってことですか!?」
「うむ、そういう事じゃな」
「今から出来ますか?」
「やっぱりそうくるのかのぅ」
鬼姫は宙に手を伸ばす。
すると真っ黒な歪みが現れる。
その歪みの中では入道雲の様に荒れて稲妻が走っている。
真っ黒な歪みに躊躇なく手を突っ込むと、先ほど鬼姫が時間を巻き戻すときに書いた様な、幾何学的な模様の書かれた羊皮紙と赤い鉱石を削り出して作った小さなナイフを取り出す。
「なんですか? それ」
「魔力の量とか使える魔術とか、ほかには種族とかを調べる道具じゃよ」
「これも魔法的なやつですか?」
「うむ、ちょいと難しい話になるが、このナイフにはガランジウムという金属が使われておる。」
「ガランジウムですか?」
白蛇は耳にしたことのない鉱石の名前を鬼姫に問いかける。
「うむ、フィーレメント帝国という国でしか採取できん鉱石でな、魔力貯蔵量と魔力伝導率が凄まじく高くチタンより丈夫という最強と言っても過言ではない金属じゃよ」
「丈夫な金属っていうのはわかりました、でも魔力貯蔵量と魔力伝導率ってなんですか?」
「あー、大抵の金属にはな魔力を溜め込む性質があるんじゃよこれが魔力貯蔵量じゃ、大きな魔法を使うときにバッテリーのようにして使うんじゃよ、魔力伝導率はどれだけ効率よく魔力が伝えられるかじゃ」
(要するに、魔法版電気伝導率とバッテリーみたいな感じでしょうか)
「でも、そんな貴重な鉱石って高いんじゃないですか?」
貴重かつ有用な鉱石は当たり前だが、高価になる。
「うむ、この鉱石を巡ってフィーレメントは600年間内戦しっぱなしじゃよ」
「詳しいですね」
「……まぁの」
その時白蛇の右人差し指に鋭い痛みが走る。
「イタッ!」
鬼姫がガランジウム製の小刀で指を傷つけた。
「ちょっと!何するんですか、せめて刺すって言ってくださいよ」
「だってお主刺すって言ったら全力で抵抗するじゃろ?」
「……まっ……まぁそうですけど……」
白蛇は目をそらす。
「じゃあ仕方ないじゃろ」
白蛇の指から流れた血がガランジウム製の小刀を伝って幾何学模様の書かれた羊皮紙に一滴落ちる。
一滴落ちた血が滲み、羊皮紙に吸収される。
吸収された直後、大量の文字が羅列され羊皮紙を全て埋め尽くすことで意味のある文章に変わる。
「なんだか某魔法使い小説の魔法の日記みたいですね」
「あったのぅ、そんなやつ」
鬼姫は羊皮紙に書かれてた文字に目を通す。
「ほぅ、良かったのぅ」
少し鬼姫は驚いてみせる。
「何かいいこと書いてました?」
「魔力が妾の8倍近い量じゃな」
「それって凄いんですか?」
「そうじゃな……」
鬼姫は少し顎に手を当てる。
「400年間この世界で生きてきたんじゃが、これほどの量は知る限り1人じゃな、最低でも世界10位圏内じゃろうな」
「え!?それって凄くないですか!」
「そうじゃな」
鬼姫は落ち着いた口調で返す。
「それって俺世界最強クラスの才能じゃないですか!」
「まぁ、世の中そんなにうまく出来ていないもんでのぅ……端的に言うと、お主に魔法の才能が全くと言っていいほどないんじゃ」
「……え?」
白蛇は鬼姫の言うことが理解できない。
「俺、この世界でトップ10の魔力保持者なんですよね?」
「うむ」
「なんで魔法の才能がないんですか?」
「瞬間魔力消費量が平均値の3分の1ほどしかないんじゃよ」
「なんですか?その瞬間魔力消費量って?」
「瞬間魔力消費量というのはな————」
鬼姫の話をまとめると、魔力量というのはいわば貯水タンクのような物でそこから魔力を消費して魔法を組み使うそうだ、そして瞬間魔力消費量というのは1秒間で貯水タンクからどれだけ早く魔力を取り出せるかというものらしい、つまり大量の魔力を持って入るものの魔法を使うのに時間が掛かりすぎるらしい。
「じゃあ派手な魔法じゃなかったら使えるんですね!」
「意外じゃのぅ、僕、魔法の才能ないんですか……みたいな感じで落ちかと思うたのに」
鬼姫は露骨に残念がる。
「何言ってるんですか! 魔法ですよ! どんなに小さく弱いものでも魔法が使えるようになったのに悲しむわけないじゃないですか!」
白蛇はとても嬉しそうに鬼姫に熱弁する。
「何か、今から使えそうな魔法とかって無いんですか!」
「そうじゃのぅ」
鬼姫は顎に手を当てて考える。
「超基本中の基本を教えるとするかのぅ」
「どんなやつですか?」
「身体強化魔法と武器強化魔法じゃな」
「なんですかその凄そうな魔法は!」
白蛇は目を輝かせる。
「早く教えてください!」
「まぁ落ち着け、焦らんでもちゃんと教えてやるからの」
鬼姫は白蛇を落ち着けると魔法の解説を始めた。
「この魔法は……いや、魔法と言えるほど複雑もんじゃないんじゃがな、全ての魔法の基礎に当たるものになる、まずは身体強化魔法から教えてやろう」
「なんですかそれ?」
「まぁ、見ておれ」
鬼姫は腕を組み白蛇から距離をとってスッと息を吐く。
「まずは体に魔力を流すんじゃ」
凍ったような緊張が走る。
「そうじゃなお主、今から角なし、右手一本で相手をしてやろう、殺す気でかかってこい」
鬼姫はニッと笑う。
「いいんですか?いくら素手とはいえ角なしだと怪我するかもしれませんよ?」
白蛇は鬼の眼を発動させ構える。
武器のない格闘戦になるといくら鬼姫の身体能力が優れているとはいえ、40キロ以上の体重さと50センチ以上の身長差があると圧倒的白蛇有利である。
(鬼姫もきっと不利なことは分かっているはず、身体強化魔法どれほどのものか見せてもらいましょう)
白蛇は構えもしない鬼姫に向かって容赦なく襲い掛かる。
瞬時に距離を詰める鬼姫の頭を狙った回し蹴り。
鬼姫はそれを右手でガードし弾き返す。
そのまま立て続けに中段突き。
鬼姫は繰り出された拳を掴み力を込める。
「ッッッ!!」
あまりの激痛に白蛇は片膝をつく。
「もう終わりかの?」
鬼姫は煽りながら手を離す。
「まだまだやれますよ」
ゆっくりと立ち上がる。
(角ありの鬼姫と同等かそれ以上のスピード……空手だと先読みされますね)
白蛇は腕を顔の前まで持ってきて、ステップを踏む。
「お主はキックボクシングも出来るんじゃったな、全く芸達者な奴よ」
地面を蹴り全体重を乗せた最速のストレートを鬼姫に放つ。
鬼姫はそれを数歩引き下がり神一重でかわす。
白蛇は立て続けに鬼姫に向かい攻撃を放つがことごとく紙一重で躱される。
一通りの攻撃を躱し切った鬼姫は鬼の眼を使った白蛇すら捉えられない速度で距離を詰める。
白蛇は咄嗟にハイキックで距離を取ろうとするがもうそこに鬼姫はいない。
次の瞬間白蛇の目前に現れる。
鬼姫は中指に力を込めて白蛇の額に向かって弾く。
直後白蛇は5メートルほど吹っ飛ばされる。
「————ッッ!!!」
「カッカッカ」
「ちょっとなんですかあのパワー、デコピンが出していい威力じゃないですよ」
白蛇は額を押さえながら立ち上がる。
「なぁに、まだ1割も出しておらんよ」
「僕も身体強化魔法ってやつを使えばここまで強くなれるんですか?」
「そうじゃのぅ、鍛錬次第じゃが可能じゃと思うぞ」
「本当ですか!」
「うむ」
鬼姫はパッっと砂埃を払う。
「雑談もこのくらいにしてそろそろ教えてやるとするかのぅ」
「お願いしますよ」
「そうじゃのぅ、まずは目を瞑って集中せい」
言葉どうりに白蛇は目を瞑る。
「そのまま意識を体に向けるんじゃ」
白蛇は意識を集中させる。
するとどうだろう、中に浮くような感覚が走る。
「終わりじゃ、試しに向こうの木の辺りまで走ってみると良い」
ちょうど100メートルほど先にあるポツンと立った木を指差す。
「わかりました」
白蛇は全力で走る。
白蛇は最初の一歩で先程までとの差に驚く。
(!?速い……それも圧倒的に)
人間の出せる速度を圧倒的に凌駕したスピード。
高速で風景が流れる。
二歩三歩と足を出すたびに加速して行っているのがわかる。
そのまま加速し切る前に鬼姫の指差した木に触れる。
「5秒程か……どうじゃ? はじめての魔法は」
木の裏から鬼姫がひょこっと頭を出して尋ねる。
「どっから現れたんですか……なんていうんですかね、足が早くなったのは分かるんですけど……どうも魔法を使ったって言う感じがしないんですよね」
「まぁ、魔力を流しとるだけじゃからのぅ、身体強化魔法が殆ど全ての魔法の基礎となる。この感覚を忘れるんじゃないぞ」
「はい」
「よろしい」
「次は武器強化魔法ですか?」
「そうじゃのぅ————」
少し鬼姫は考える。
「いや、先に移動じゃなお主今から5000キロ走るぞ」
「え!?走るんですか」
「うむ、安心せいお主が疲労を感じることは無いじゃろうし」
「確かにそうですね身体強化魔法を使ってから全然疲れを感じませんよ、やっぱり魔法って凄いんですね」
「ん?伝えとらんかったか?お主はアンデットになったんじゃよ、もっと正確に言うとネクロマンサーってやつじゃな」
「……へ????」
白蛇は理解ができずに固まる。
「不死身に近い超再生とネクロマンサーのみが可能なアンデット作成、超同時並行思考、なかなかの当たりじゃぞ?」
「……アンデット……ですか。」
「うむ」
「俺が?」
「さっきからそう言っとるじゃろ」
「………………えぇええええええええええ!?!?!?」
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