第16話 復学①
方々へと指示を出し終えて後は報告を待つだけ、となった段階で私達は学校へと復帰する事になった。
「お父様お母様、長い間家を空けてすみませんでした」
そうして私達は花菱本家へと帰って来たのだけれど一応の姿勢として謝罪しておくことにした。
「そう思っているなら、もう少し早く戻って来てくれても良かったじゃないの……」
香織お母様が悲しそうに詰め寄ってくる。ぐっ……さすがは私のお母様。拗らせ娘が重度のマザコン、シスコンであることを熟知したこの精神攻撃。
「ですが、メイドの川上から報告した通り花菱本家が揺らいだ隙を突いて、私達と既成事実を作ったように見せかけマスコミに流そうとする勢力がいたのはご存じでしょう?」
「うーん……それを言われるとお母様としてはお手上げね。でも、梅華に木春に桜はバツとしてお母様と一緒に寝てもらいます!」
「「「えぇぇ……」」」
お母様は私達三姉妹にじりじりと近付いてくる。しかも手の動きもなんだかアヤシイ。おっと……いつの間にか壁際に追いやられていた。こうなった時点で私達に打てる手はない。
「やーん!久しぶりの梅華ちゃん……なんだかお胸が成長してない?下着も新しのに変えた方がいいわよ?木春も桜も―――」
私が重度のマザコン、シスコンだとしたら私の両親は重度の親バカである。薄々感じてい吐いたのだがあえて、あえて声を大にして言おう、花菱家の家族愛が重すぎる……。血筋なのか何なのかは知らないけど、お爺様もお母様も私も妹も、誰かしらに執着しているみたい。
いや、いいんだけどね?私も例にもれずマザコン、シスコンだし。ただ、お父様が私達の勢いについてこれてないようでなんだか面白い動きを繰り返している。
あれは恐らく私達とハグしようかしまいか、もしくはハグして「お父様なんだか加齢臭が……」とか言われるのを恐れている顔だろうか。
閑話休題。
「お嬢様方は我々屋敷部隊と対外部隊が常に護衛できる体制を整えております。増員で人的余裕も出来ましたのでさらに手厚い警備が可能です」
「とまあ川上の言う通りなので、お父様お母様にもご心配おかけしましたが、この通りマスコミ対策も一通り出来ました。なので来週から復学しようと思い戻って来た次第です」
と事情を説明。
HEDに両親は関わっていないのか、と聞かれるとそれはイエス、だ。なぜなら私のお父様お母様はお爺様からのお願いで、花菱グループ総帥の座を継ぐことを了承、それに向けての準備があるからだ。さすがに忙しすぎて私達の報告を見ても流し読み程度しかできないだろう。
今回の私達の帰省に併せて本家の方に戻ってこられているけど、やはりお父様もお母様もどこか疲れているように感じてしまう。
「お父様お母様。私達はお爺様とも協力しておりますし、これからは学校が主な生活の場になります。安全度で言えばHEDより少し落ちますが周りに人が居るという点ではご心配はおかけしません。ですが……」
両親は、私が言いたい事が分かっているのか穏やかに笑う。
「どうやら梅華ちゃん達には心配かけているみたいだけど、今お母様たちがやっているのだって結局身から出た錆。西条を始めとした親戚の役職の整理と、後任の選定までの繋ぎみたいな物だから、後少しすれば問題は解消されるはずよ」
「そうだね。今、僕たちが頑張れば社会に余計な混乱を生まずに済む。それは全て社員のため、ひいては日本のためなんだから。それに梅華のやろうとしている事だって僕らと似たようなものだと思うけど?」
お父様とお母様にそう言われてニコリとされると、私も反論できない。妹達もニコニコとしていてなんだか非常に居心地が悪い。
「わ、私!!部屋に戻ってますから!!」
結局私は赤くなった頬を隠すように足早に自室へと退散したのだった。部屋に戻るとベッドにぼふっと倒れこむ。着ている服がシワになって後日川上に怒られそうな気もするけれどなんだか着替える事すら億劫に感じてしまったのだから仕方ないではないか。
目を開けて部屋を見渡すと、なんだかやけに時間が流れていたような感覚に陥る。思えば5歳の頃から私は頑張って来た。そうして10年が経過した今、前世の因縁は解消。しかし新たな問題が急浮上し、私達の生活を脅かそうとしている。
「何というか、激動の半年っていうサブタイトルがお似合いよね……激動、というなら私の人生もそんな感じがするけど」
しかし一方で思い知った事もある。
ありきたりで使い古された言葉だけど、人間は決して一人では生きていけないということだ。私が困難?を排して今、こうして五体満足に家族と暮らせている今のこの状況は、私一人の力では決して成し得なかったもの。お爺様が居て、柳田がいて、妹達がいて……前世の私が居て、ようやく掴み取った平穏で温かな日々。
「お爺様も十分気を付けるように、と言っていたけど本当に自分の子供を駒として私達を害そうとしてくるのかしら?あまりにもリスクリターンが釣り合わないのに……?」
以前、街中で既成事実を作るために誘拐、そして強姦をしようとする勢力が居た事は知っているし、妹にもそれとなく存在を匂わせてきた。まさかそれを学校で行おうとする輩がいるとは思えない……いや、こういう考え方だと以前のように苦渋を舐めさせられる事になる。
「はぁ……人の足を引っ張りたがる人種とは縁を切りたいのだけど、高校卒業後の進路も考えておかないとね」
既に会社経営を行っているし、なんならかなりの資産も持っている私ではあるけれど一応大学を卒業はしておきたい。社交、という物に嵌まり込むつもりなど毛頭ないけれど、世の中の目は学歴に対して厳しいのだ。実際、いかに結果が残せていようと、その人物の最終学歴が高卒か大卒かで評価は大きく異なる。
もちろん高等教育やより専門的な分野に人材を輩出するための教育に関して貶すつもりもないんだけど、どうしても大学4年間を無駄に浪費している人が多すぎて経営者目線からすればそういう人材はなんとなく分かってしまう。
まあそれでも労働力確保のために採用せざるを得ない苦境に陥っている会社が多数存在するのは事実。
話は逸れるけど、お爺様から提案があった案件をふと思い出した。前々から問題だと思っていたHEDの人員不足に関して、アンサーとなる一件のメールを受け取っていた。
「自衛隊の退役後にウチを斡旋、ね。確かに先週のダンジョン調査任務を含めウチの会社と自衛隊の連携は大きな問題もなく行えているし
、いちいち教育しなくてもある程度の素養があるのはかなり助かるのよね……」
柳田も特に問題があるとは思っていないみたいだし、とりあえず黒墨の下に配属ということで数人ずつ受け入れて様子を見ましょうか。お爺様に了承のメールを送っておいたので、後は会社に残っている相部や柳田がうまい事やってくれるでしょう。
「お姉ちゃん~!お風呂入りましょ~!」
一時の休息を得ることができて私は嬉しい。
なお、お風呂場での事は何故か記憶になく気付いたらお母様と一緒に寝ていたのでした。
◇ ◇ ◇
翌日、私達は学校に向かっていた。
顔見知りの運転手、半年前まで使用していた車、リラックスできる花の香り。大丈夫、ある日のような事は起きないし起こさせない。
「さあ、行きましょうか」
「はーい!」
「はい、お姉様」
一通り身だしなみを確認し終えた私達は、私立白鳳学園高等学校に足を踏み入れたのだった。
「何も起きなければそれで良い、そうでなければ……潰すまで」
梅華の覚悟も、その力も愚かな政治家とその子供は知らない。
彼らは目先の利益で目が眩んでしまっていたのだろう。虎の尾をすでに踏んでいるのに、あえて見逃されているのだと思い知るのは事が終わった後になる。
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