第四章

第46話 

「…………なにがあったんだ」

 翌日の朝食。

 今日の朝食は蓮人が作ったものではなく、ピジーが作ったものだった。

 目の前には、やや黒焦げになっているパン、バター、形が保ちきれていない卵の何かだった。

「…………失敗した」

 これを見て分かるように、ピジーはあまり、料理が得意では無い。

 ……なら、なんでこんなことを。

 顔を上げると、そこには難しい顔をしたピジーが、それを見ていた。

「な、なぁピジー……無理して作らなくても」

「い、いいでしょ!わ、私だって料理くらい、できるようになりたいんだもん!」

「………そ、そうか」

 ……まあ、止めはしないけど。

「と、とにかく!今日の日程は、午前十時に駅前で澪と会う予定ね」

「それと、フェアリー」

「そうね。けど、家にはいないよ」

「……は?」

 焦げたパンにバターを塗っていた手を止める。

「ちょ、ちょっと待て。なんで家にいないんだよ?」 

 素朴な疑問だった。

「さあ」

 それに対しピジーは、そっけない返答をしただけだった。

「俺はてっきり、一緒にどっか行くのかなーって思ってたから……」

「はぁ……待ってて。今電話してくるから」

「…………」

 そう言ってピジーは廊下へと出て行く。

 ピジーが来るまでの間、パンにバターを塗って食べながら、面白くもないテレビのニュースを眺めていた。


 ——映画館やら服屋などが立ち並ぶモール。

 そこにフェアリーはいる、とピジーは言っていた。

「単純に忘れてたってマジかよ……」

 どうやら、あんなコスプレ姿を見られて恥ずかしかったらしく、時間や場所の指定をするのを忘れていたらしい。

 しかも、そのことで昨日は寝れなかったそうだとか……。

「まったく……」

 これを天然、と捉えた方が正しいのかは分からない。

 蓮人は顔を下に向けて自分の服装を見直す。今の蓮人の服装は、グレーのポロシャツに黒のジーンズというものだった。

 基本外に出かけるときは、黒系の服が多い。やりすぎると、ただの不審者にしか見えなくもないが。

 モールの入り口付近に来ると、かなりの人が入り乱れているのが分かる。

「今日は休日……か」

 休日は人が多い。当たり前だが。

 と、その人だかりの中から、聞き慣れたフェアリーの声が、蓮人の耳に届く。

「蓮人さん!」

 声の方に振り向いて、目をやる。そこには、太陽よりも眩しいくらい満面の笑みを浮かべたフェアリーが立っていた。

服装は、いつもの制服ではない。薄手のカーディガンに、やや丈が短い気がするスカートという組み合わせだった。以外にもシンプルだったが、非常に似合っていた。

「お、おう……」

 いつも合っているはずなのに、若干気まずい感じで手を振る。

 すると、そちらも手を振り返してきた。

「あ、あの……どう、ですか?」

「あ、ああ……!に、似合ってるよ、うん……っ」

「あ……っ」

 蓮人が言うと、フェアリーが顔を赤くした。

あたふたと取り乱れながらも、くるりと後ろを向く。

「い、いいから行きますよ!」

「あ、ちょっ——!」

 と、言いかけた所で、フェアリーがピタリと止まる。

「ふ、フェアリー……?」

「あの……やっぱり、敬語、やめていいですか?」

「……へ?」

 思いもよらない質問だった。

 その言葉に、蓮人は目を丸くする。

「い、いいよね……?」

「…………」

 昨日の、コスプレフェアリーが脳裏をよぎる。

「え、えと……は、早く行こ!」

「あ、おい……っ!」

 今度は、フェアリーに手を取られ、足早にモールの中へと入っていった。


 

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