第22話 何のための兵器なのか

 日時:不明  天候:曇り



「——さて、と」


 身長の高い男が、おもむろに椅子から立ち上がる。180センチ後半だろうか。

「あの……ここって、僕ら以外住んでるんですか?」

 対面に座っていた細身の男は、あごに手をやりながらそう問う。

「……いるさ。お前には見えていないだけで、実際いる」

「見えてない……?」

「ああ、お前はまだ若い。だから見えていないだけだ」

「……そうなんですか」


 ——かつて、彼らの世界は偉大なる神「ディークスト」が治めていた。住人たちは、非常に安定した衣食住で恵まれていた。

 だがしかし、ディークストの動力源でもある「鍵」が、ある妖精によって奪われてしまう事件が起こる。その数日後、「魔の神が死んだ」という話が広まり、徐々に住民たちは、職を失い、住居も失い、終いには自殺者が増えていく事態となった。


 そこで王へと君臨したのが、ディークストの遠い親戚——フォレストだった。

 王へと君臨したのち、弟子的存在としてリークを傍に置くことにしたのだ。


 建造物は、誰にも管理されず倒壊。植物は生い茂り、かつては住民の通り道だった場所も、黒い木や草花で覆われていた。

「……………」

 そんな街を、窓から覗くフォレスト。

「……あの、フォレストさん?」

「まだあるのか?」

 ゆっくりと体をリークの方へ向ける。

「えっと……この街を良くしようっていう気持ちは、ありますか?」

「………」

 そうリークに言われ、数秒止まる。

「……そうだな」

 小さくそう呟き、ゆっくりと頷いた。

「な、なら、一刻も早くこの街を元に戻しましょう!」

 フォレストの素振りを見たリークは、ダンッ!とテーブルを叩くと同時に立ち上がりそう言う。

「——無理だ」

 だが、フォレストは短く、ただ冷淡に、そう言った。

「えっ?」

「少し前に言ったはずだ。……俺は、そんな力は持ってなどいない——ッ!」

 バンッ!と壁に右手をやり、そう言い放った。

「…………っ」

 リークもその言動に、一瞬の動揺を隠せなかった。

「……そんな気持ちがあっても、行動できない奴がクソなんだよ」

「あ……っ」

「言葉だけ、気持ちだけ。それだけで何が変わるってんだ……ッ!」


 言葉<行動


 それが、フォレストの考えだった。

「一刻も速く、『鍵』を……ッ、おいリーク、<ベスティア>の状況は?」

「は、はい!……ええと、今現在、人間界に5体の<ベスティア>がいます」

「……増やせ」

「で、でも、これ以上は無理な気が……」

「魔力ならいくらでもある。あと5体だ、あと5体増やすんだ」

「…………わ、分かりました」


 胸ポケットから、小さなスマートフォンのようなものを取り出したリーク。

 画面上には、平凡な生活をしている人間の姿が映し出されていた。

「<ベスティア>5体、追加」

 右上に出ている赤い転送ボタンを押す。

「……行きました」

 その瞬間、どこかの倉庫のような場所が映し出され、そこに黒い怪物<ベスティア>が5体映し出されているのが確認できた。

「……これが、俺のやり方だ。妖精をぶっ潰す」


「そのための——兵器なんだ」







 

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