清楚姫は希う① 〜眞尋side〜
篠村さんと一花さんとお昼ご飯を食べ終えた私は、自分の席でデータの入力作業を行なっていた。
私の教育担当になった篠村さんは、急遽別の仕事が入ってしまったようで、作業のやり方を教えたらオフィスから出て行ってしまった。
まさか朔が自分の教育担当になるなんて。
実際、内定の連絡を受けた際に、「あなたと同じ高校出身の子がいる」と、篠村の存在を知らされてはいたのだが、まさか教育担当になるとは思ってもいなかった。
朔とは高校が同じで、2年生の時には同じクラスでもあった。確かに朔の言う通り、3年間を通して特にこれといった関わりはなかった。
しかし眞尋は、朔のことを一方的に認知していた。
眞尋は、高校では「清楚姫」などと呼ばれていた。眞尋自身、自分には大層過ぎる呼び名だと思ってい、最初こそ否定していた。しかし、しだいにその呼び名が広がると収拾がつかなくなってしまい、いつしか諦めていた。
そして、眞尋を清楚姫と呼び慕う学校の男子から何度も告白をされてきた。自分の容姿が整っている方だということは自覚していた。実際念入りにケアをしたり、容姿に気を配っていたりはしていたからだ。……もっとも、どんなに頑張っても身長と胸は成長しなかったが。
そんなこともあり男子からモテモテであった眞尋はある日、とある男子に放課後に呼び出され告白をされた。しかし眞尋は断った。
どうせ彼は「清楚姫」である私しか見ていない、そう思っていたからだ。今までもそうだった。告白してくる男子達は皆、見てくれだけの表向きの眞尋しか見ておらず、本当の私を好いてくれてはいなかった。もっとも、本当の私は清楚でも姫でもなんでもない。
実際に、休みの日は予定がなければダラダラしているし、勉強だって嫌々やっている。誰にでも分け隔てなく接するのだって疲れてしまう。
しかし、周りは自分に対して清楚だの姫だのレッテルを貼り付けてくる。本当の私を見せた途端手のひらを返されるんじゃないか、そう思うと怖くなって、清楚なフリをする。眞尋は悪い子だと、自分でそう思っていた。
とある男子から告白されたその日。なるべく相手を傷つけないように断りましたが、そういった演技をすることに疲れてしまいました。
なんとなく帰る気にならなくて、私は学校を出るとゲームセンターに足を運びました。
学校での私はゲームなんてせず、優雅にお茶をしながら読者をする、そんなイメージでしょう。しかし実際はかなりのゲームが好きなのです。
特にアーケードの格闘ゲームが好きで、隙を見てはコッソリ通い、日々のストレスを発散しています。
その日もいつも通り、お気に入りの台に座り、向かいの台の人と対戦をします。
「この人、結構強い……」
かなりの接戦でした。しかし、なんとか勝利できました!私が勝利の悦に浸っていると、向かいの台の人がこちらにやってきます。
「対戦ありがとうござ……って、もしかして姫野?」
そう言ったのは、同じクラスの男子でした。名前は……篠村さんだったかな?特に接点もない方です。
しかし私はやってしまったと思いました。清楚姫と呼ばれている私が放課後にゲーセンで格ゲーをやっている、しかもそこそこ強いなんて。
また「イメージと違う」などと否定されてしまうのではないでしょうか。
そう不安に思っていた私ですが、その心配は杞憂に終わりました。
「俺、同じクラスの篠村なんだけど、わかる?てか、めちゃめちゃ強いと思ったら姫野だったのか!すげーな!」
篠村さんは興奮気味にそう言ってきます。
クラスではおとなしい感じだったが、こんなに元気に話す人だったのかと驚きました。そして、そこそこ強いと自信のある私と同等に闘えるなんて、と別の意味でも驚きます。
その後はというと、ゲームの話をした後、もう何戦かして遊びました。結果は2勝2敗。互角です。悔しい……
楽しい時間はあっという間に過ぎました。久しぶりに、他人に対して取り繕うことなく接することができてとても気分が良かったのです。
彼とは「また明日」と軽く挨拶をして別れ、1人帰路に着くことにしました。
「そういえば、篠村さんは私に対して一度も清楚姫と言ってこなかったです」
そう、彼は今までの時間の中で一度も私を清楚姫と呼んできませんでした。それどころか、イメージの押し付けなどもなく、フランクに接してくれました。
こんなことは久しぶりです。
本当に、心から楽しめた時間でした。
「篠村さん、いい人だったな……」
そう呟いた私の顔には、取り繕った清楚な笑みではなく、ニヤリとだらしない、素の笑顔が浮かんでいたことでしょう。
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閲覧ありがとうございます。
PV400を突破しました。作品フォロワーもまもなく40と、たくさんの方に応援していただけて大変嬉しい限りです。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。
明日も投稿しますのでお楽しみに。
ちなみにタイトルは希(こいねが)うと読みます。
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