第4話
「よっしゃー! キタァー!」
俺は目を覚ますと開口一番そう叫んだ。
今日は待ちに待ったしーたんとの顔合わせ日だ!
俺はゆっくりと準備をしながら今日の予定を頭の中で繰り返す。
まずは駅で待ち合わせ。そこから駅周辺を歩いていい感じのお店に入る(リサーチ済み)。そこで話が盛り上がってきてから、近くにある水族館に行く。
うん、単純だけどこんな感じでいいだろう。
他にも考えていること、意識した方がいいことなんかは拓実から教えてもらったしそれはもう頭に定着してる!
歯を磨いてから、俺は髪のセットを始めた。
いつもは下げている前髪をあげて6:4くらいのセンター分けにした。
これも拓実から教えてもらったことで、
「悠雅はこんくらいで分けた方がいいと思うよ。格好良くない人がやったらあれだけど、悠雅なら大丈夫だと思う」
なんて写真付きで教えてくれた。
ちゃっかり自信がつくことを言ってきてくれるあたり本当に感謝しかありません。
セットもあまり難しくなくすぐに終わり、昨日調達したものに着替える。
シャツもアイロンをかけてシワひとつない。その上に昨日買ったジージャンと黒のパンツを履く。
姿見で見てもうん、悪くない。というかめちゃくちゃいい!
なんか普段何にも思わない自分の容姿を思わずかっこいいと言ってしまうくらいの出来栄えだ!
「これなら褒めてくれるぞ! 絶対!」
しーたんなら絶対褒めてくれる!
俺はしーたんがどんな顔でどんな服装で来るのか、ワクワクさせながら家を出た。
◆◆◆◆◆◆
驚くことにしーたんが待ち合わせに指定した駅は、俺の通う高校の最寄駅から2つ離れたところだった。
東京だって面積は広くないかもしれないけど、駅は無数にある。その中でこんなに近いというのはもう運命なんじゃないだろうか。
俺は電車の窓の外に流れる景色を見ながらそんなことを思った。きっとこんなことを口にしたら誰だって馬鹿にしてくるだろうけど本当にそう思う。
だってたまたま転校でこっちに越してきて、駅が2つしか離れていないなんてすごいだろ?
もしかしたら高校も近いのかもしれない。
この距離なら会おうと思えばいつでも会えるし、もうゲームなんてしなくてもいいかもしれない。
そんな感じで頭をお花畑にしているとあっという間に待ち合わせの駅に着く。
時刻は10時半。待ち合わせの11時まであと30分もある。いつもならこんなに早くはつかないけれど、今日は特別だ。
待ち合わせの場所は、中央改札口からでてすぐに見える大きな木の下だ。
もちろん、他の人も待ち合わせ場所に使っているから本人確認はSNSのダイレクトメッセージで格好やらを伝え合えばいい。
俺は一応ついたという趣旨を伝えることにする。
『もうついちゃったわ』
きっと早すぎると思われるだろう。
逆に早すぎてキモいとか思われないだろうか?
『本当!? 私ももうついちゃったんだよね』
まじか!? お互い集合時間より30分以上も前についてたとかもう運命……は言い過ぎか。
でも、もうついているなら会わない理由がない。
『まじ? じゃあどこら辺にいる?』
『木の下でスマホいじってるよー!』
そう言われて俺は木の下を見るが、同じような人がいすぎてどの人がしーたんかわからない。
しーたんもおっちょこちょいだな。
『とりあえず探してみる』
俺はそう言ってとりあえず木の下に向かう。
同じような人がいるからパッと見てもやっぱりわからない。
とりあえず1周しよう。そうしたらわかるかも。
案外、当てれたりするかもしれないしな。
そう思って歩き始めてすぐに俺は歩みを止めてしまった。
「は?」
俺の視線の先、そこには忌まわしき静川藍花がいた。スマホいじっていてこっちには気づいていないけど、なにやら楽しげで表情が明るい。
おまけにニヤニヤしているし、普通に他の人が見たらキモいって思いそうだな。
俺が声をかけたからか、静川はこちらに気づいて睨みをきかせてくる。
「……なんであんたがいんの?」
「それはこっちのセリフだ!」
なんでこれから楽しい時間が始まる前にこいつと顔を合わせないといけないんだ!
くっそ、イライラしてきた!
「お前の家こっちじゃないだろ!」
「友達がこっちだから待ち合わせしてただけだし。仲良くもない人の家把握してるとかキモすぎ……」
「慈実が話してたからたまたま覚えてただけだ! ちっ、場所変えよ」
俺はそれだけ言い残すと1度駅の改札口側に戻り、再びDMを開く。
『やっぱ見つけれなかった。間違ってても恥ずかしいしちょっと場所変えない?』
『そうしよ! 私も丁度そう言おうと思ってたから!』
ちょっと嘘をついたけど、まぁこのくらいは許して欲しい。
それにしーたんもそうしたかったらしいし、やっぱり運命!
というわけで、次に待ち合わせ場所に指定したのは、歩道橋の上だった。
今は人通りも少ないし、ここだったらすぐにわかると思ったからだ。
俺は歩道橋を上がって対面を見る。
少し人も歩いているけれど、どれもサラリーマンとか主婦だ。ここにしーたんがいれば1発でわかる。
俺は歩きながらスマホでメッセージを送信する。
『今、歩道橋歩いてるよ! ジージャン着てる! 多分わかると思う……』
『おっけー! 私も今来たよ!』
まじか! やっとご対面だ!
俺はすぐに視線を上げて前後を見渡す。すると、なぜか正面に静川がいた。
誰かを探しているようにキョロキョロしていてふと目が合った。
距離も遠いためお互いなにも言わずに歩き出す。
『ねぇ、どこ? 全然わかんない』
『俺も……本当にいる?』
『いるって!笑笑』
徐々に静川との距離が近くなっていく。
お互いスマホをいじりながら普通に素通りした。俺も今は静川に構っている暇はない。
相手も同じなら願ったり叶ったりだ。
じゃあ少し工夫をしよう。
『ちょっと恥ずかしいけどさ、お互い右手をあげて歩いてみない? そうしたらすぐわかるし』
『えぇ〜』
『でも、それなら一瞬でわかるから!』
『わかった! じゃあ今やるね!』
そして俺は右手を挙げた。この時間から昼に近づいてきたからか人通りがだんだんと増えてきている。
でも、そんな中で手を挙げている人なんて――
「いた!」
俺の位置から反対側、さっき歩いてきた方に手だけが人々の頭上に飛び出ている人がいた。
『おっけ! 見つけたからそこで待ってて!』
『ごめん……。私じゃそっち見れないかも』
きっとそれは身長のせいだろう。
それは仕方ない。俺は人とぶつからない程度に早歩きをしていく。
「すみません、すみません」
人の流れの逆をいっているから少し迷惑そうにされるけど今は気にしない。
そうしてやっと手のあがっている所まできて――
「やっと会えた!」
「ゆーくん!?」
視線を下げてた彼女がこちらを向いた瞬間、それはよく見知った顔だった。
「「はぁ!?」」
静川だった。いつもは見ない私服姿の静川だ。さっきすれ違ったばかりの。
ん? 何かの間違いか? だって静川なわけがない。
俺は慌ててDMを開く。
『ねぇ、左手あげてみて』
スッと目の前で左手が上がる。
『じゃあ両手』
右手も上がった。
『最後にジャンプ』
ぴょんと跳ねる。
「テメェじゃねぇか!」
「なにがよ! 私は今彼氏と……」
俺は静川が言い終わる前にDMの画面を見せつけた。これが1番早いだろう。
見るとすぐに顔が青ざめていった。そりゃそうだろう俺だって信じられない。
でも、ここまで来たらもう避けようのない事実になってしまう。
「嘘! ゆーくんがこんなやつなわけがない!」
「俺のことをそう呼ぶのは世界でしーたんだけなんだよ!」
「なんでしーたんって……! そう呼んでいいのはゆーくんだけなの!」
「だからそれが俺なんだよっ!」
「嘘……! 嘘だ!」
静川はいつもと少し違う顔、メイクをしている顔を涙で濡らしていた。あまり多くはないけど確かに泣いていた。
ハッとなって辺りを見渡すと、行き交う人々が俺たちのことを怪訝な目で見てくる。
「ちょっと場所変えるぞ」
俺は有無も言わさず、腕を引っ張ってその場を後にした。
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