除霊

 動物愛護所につくと、法衣と袈裟と数珠と経本をもち、生善は先に到着していた。愛護所にはすでに霊の件を連絡してあり、寺は退魔の力をもつ寺として表面上しられているわけではないが、除霊で有名な寺という噂はあり、説得に時間がかかるかとおもえばすんなりと受け入れてもらえた。そんなこんなで三人は、預けた野良犬にあう事になった。表向きは引き取りの面会のていで。とりあえず30分いただけることになり、その間に除霊の対処をすることになった。まずは、生善がその犬にふれる。クレンがした対処のおかげか今は静かになっているが、腹の奥底にたしかに憑き物が、霊、悪霊というよりは怨念のようなものが渦巻いているように感じられた。それも、何か明確な意図をもってしかけられているように。

「おかしい、この犬は本当に偶然に呪われたのだろうか」

「え?どういうこと?」

 クレンが生善に尋ねると、まだ生善は首をひねった。

「誰かが意図してこの犬に仕込んだような、そんな感じをうけるのだ」

「?どういうこと?」

「いやな」

 そういって、袖を少しととのえると、生善は説明を始める。

「普通、憑き物や何かは、自分の漠然とした意思にそった怒りをかなえる可能性のあるものにとりつく事が多いんだ、だがこの犬にとりついている憑き物は、本来人間を憎んでいる、犬の方はむしろ、小さいころから野良犬で人間にそだてられたせいか、まわりの同じような野良犬や野良猫を嫌うようだ、その意識が混濁しているんだ、野良猫を襲ったというのも偶然だろう、たまたまこの犬の意識の方がつよかっただけの話だ」

 カノンが口をはさむ。

「じゃあ、レンちゃんももしかしたら襲われてたかもしれないってこと?私レンちゃんにひどいお願いしちゃったね」

「いや……なんとなくその気配や、憑き物の質については理解してた、大丈夫だ、俺もちょっとほっておけなかったんだから……」

 そうはいったが実際は、カノンの影響をうけたという方が正しかった。カノンの正義感、もしくは動物をいとおしむ気持ちが、クレンを動かしたのだ。クレンにもそうした気持ちがないわけではないが、クレンがその気持ちを見出したといより、気づかされたという方が正しい。あの場合猫を助けたほうがよかったし昔のクレンなら必ずそうしただろう。けど、封印してからのクレンは少し冷静に、悪く言えば冷徹になっていた。そんなことを考えていたのだが落ち込んだ様子のカノンが落ち込むかもしれないと思い。本当の事はいわなかった。

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