第1話

(はあ、どうしてこんな目に、幽霊など面倒なだけだ。それが善いものであろうと悪いものであろうと、もはや俺には関係ない)

 クレンの肩にだきついて離れない幽霊を無視して、公園を通りすぎる。その瞬間、その道ばたですわりこんでいる少女とぶつかった。ショートボブのキレイな髪型、おっとりとした瞳に口元、ふんわりとした胸元。金色の瞳、ピンク色の縁をした眼鏡。ぶつかってもなお

「あらあ、ごめんなさい」

 とマイペースなその少女。幼馴染のカノンである。

「カノン、こんなところで何をしているんだ」

「何ってえ……野良猫の“ランちゃん”がいなくてえ」

 その猫は知っている。野良猫ながらおとなしい性格でこの公園でかわいがられている猫だ。いつも公園の傍でみかけるしいつも公園の出口付近を定位置としている。それが見つからないというのは、確かに妙ではあった。

「けどカノン、お前のほうがあぶないぞ、こんなところでまるまってちゃ」

「あ、そうねえ、ちょうど出口で通行人にぶつかっちゃうねえ、ごめんなさい」

「いや……謝らなくていいけどさ」

 その口癖やおっとりとした口調には、毎度狂わされる。だがまるで母親と接するような妙な安心感があった。そこで霊の少女“クノハ”にうしろから口を挟まれた。

「妙ですねえ、私もみかけていません」

「聞いてないって……」

「え?」

「いや、独り言」

「もしかして、レンちゃん……」

 幼馴染のカノンがすっと体をおこし顏をちかづけてくる。女子としては背が高めで自分より少し高い170センチ近い身長を駆使するように、自分と正面から間近でにらみあった。

「な、何だよ」

「また隠し事してない?困ったら私にいわなきゃ~」

「い、いや、そんなこと……お前はまた、母親みたいな事……」

「クゥ~~ン、ワォン!!、ウウ!!!」

 喧嘩する二人のそばを、排水溝の下を覗くようにして歩く妙な犬が通りかかった。その犬はまるで、感情の起伏が奇妙で、怒ったり、悲しげな声をあげたり、苦しんだりしているように鳴きながら歩いていく。

「へんねえ、あの子、見たことない野良犬だねえ」

「野良犬なんてここらではみなかったけどなあ」

 その時だった。野良犬がのぞいていた排水溝の、ぽっかり空いた場所から黒猫がとびだしてきたのだった。そして犬が猫に気づき、吠える。

「ワン!!ワンワン!!」

その猫は、よごれて前がみえないのか勢いよくとびだして、そのまま道路につっぱしっていってしまった。

「ランちゃん!」

「カノン!!!」

 一瞬、クレンは道路にとびだしそうになった、カノンの手をつかんだ。

 

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