第35話 ~奇襲から始まる、冬休み(後編)~

「……あのう」


「何!? ライリーを出すまで、私は此処を動かないわよ!」


 (駄目だ……完全に自分を見失っている)


 血走った目で私を睨むアケビ。

 普段の彼女とは、まるで別人だ。


「アッ、アケビ様? ひとまず、落ち着きましょう」


 アケビの狂気に私の身を案じたのか、ユーセが間に入る。


「……大丈夫よ、ユーセ」


 そうユーセを退けた私は、真っ直ぐアケビと向き合った。


「彼女が戻る事はありません……今は本人指名で代役を引き受けた私が、新たなライリーとして此処に居ます」


「はぁ!? 何を言っているの? 代役? 私は本物のライリーに会いに来たの! 分かる!?」



「分かるも何も……理解をしていない、寧ろしようともしないのは貴女でしょう? アケビ・モンドリリー」


 (げっ、ネムッッ! いつの間に……)


 で話がややこしくなりそうだ。


「子供には関係の無い話よ! 他所へ行ってっ!」


「『関係のない』? 私は彼女専属の使用人よ! まあ、貴女の覚悟は認めるわ……けれど興奮のし過ぎで大恥をかく前に、先ずはその隠し持っているナイフを置いて話を聞いてみたら? 判断はそれからでもいいんじゃない?」


 ナイフまで持参ですか……だからクガイは腰元の剣に、ずっと手を掛けているのね。


「……分かったわよ、話を聞くわ」


 コートのポケットから取り出した鞘付きナイフを、床へ落とすアケビ。


 (まさか子供ネムの説得に応じるとは……やるな、占い師)



 そこからは簡単だった――。

 元々理解力に長けているアケビは、冷静に全てを受け入れた。


 (とは言うものの、キレた優等生はまあまあ厄介なのね……)


「そう、あの子はを追って……正直に言うと少し悔しいわ」


 ネムといい、アケビといい、元・ライリーはかなり好かれていたのだろうか? 

 どうも納得ができない。


「今更もう、どうにもならないのでしょう? 仕方がないわね……ならば本来の目的に戻ります」


「本来の目的?」


 まだ何かあるの?

 もう隠し事は、何も無い筈だけど?


「勿論、家庭教師よ!」


「教師……もしや、でしょうか」


 嫌な予感しかしない。


「決まっているでしょう? 貴女のお母様に頼まれたのよ。学年順位を30も落とされたら『親友』として、私の責任でもあるわ!」


 (切り替え早っ! でも、なんだ……)


「では早速、今から始めます! 私も泊まり込みで教えるから、春の試験には必ず順位を戻してもらうわよっ!」


 文化的交流会の少し前に行われた、秋テスト。

 18ー4(私のクラス)ではアケビを除く全員が、見事に順位を落とした。

 私は睡眠を削ってまで努力をしたが、元・ライリーの成績が前回で学年6位と超優秀だった為に、追いつくことができなかったのだ。


 この国の冬は厳しく、夏休みより冬休みの方が長い。

 私はたった今、長期連休のスケジュールが全て『勉強』で埋まった。

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