第33話 ~つまり文化祭(後編その3)~

「ふぅー、やっと終った……貴女は行かないの? クラブ賞よ?」


 の賞に全く興味のなさそうな親友が、ウィッグを外す。


「結果は目に見えているし、私は片付けを進めるわ。休憩を取りすぎた分は働かなくちゃね! アケビ……申し訳ないけれど、エデル様を殿下の元へ送ってもらえるかな?」


「わかったわ」


「ライリー様、またねっ!」


「はい。エデル様、またお会いしましょう」


 アケビとエデルが教室を出る。

 人見知りのミニ王子とも、すっかり仲良くなった。

 


「さてと……やるかっ!」


 残された私は、1人作業を開始した。



 数十分後――今度は窓越しに大歓声が響く。


「今年のクラブ賞は……3年連続、アートフラワーの会です! おめでとうございますっっ!」


 (……でしょうね)


 まほ研は惜しくも、第2位だった。


 絶世の美女ならまだ、チャンスもあった。

 しかし、思わぬのおかげで負けに転じたのだ。


 こればかりは予測不可能。

 肩を落として大きく息を吐いた後、大人しく作業へ戻った。



「――んっ?」


 暫くして、微かに感じた振動。

 その正体は廊下を駆ける、複数の足音だった。


……』


 教室の扉から放たれたキノコが、次々に私へ抱きつく。


「うわっ! 何なの!?」


「ライリー嬢っっ、大変です! クラブ賞がアフラの会に決まっ……」


「頑張っ……のに」


「解散だなんてっ!」


「悔しいっ……」


 ミラ(紫)、アデル(青)、ラヴ(緑)、フランソワ(黄)の順に、涙が頬を伝う。

 相変わらず表情は見えないが、彼女達の気持ちが痛いほど分かる。


「そうね、悔しいわよね……でも?」


「えっ!?」


 4人の声が、見事にハモった。


「ですから解散は撤回されましたので、魔法研究クラブは、これからも活動できますわ」


「えっ、えっ!? 何故です? 賞は獲れなかったのに!?」


「クラブ長、思い出してください。受付け時や占いを終えた後、小屋の前でお客様に書いていて頂いたあの『署名』です」


「確かに数多くの名前が集まりましたが、それではとても……」


「私もそう考えまして、数ではなく『質』にもこだわってみましたの」


「はい? それはどういう……」


「プレオープンによる、ですわ!」



 その目的は、宣伝だけではなかった。


 交流会前日に占った生徒達は、全員学院へ多額の寄付をしている上位貴族のご令嬢だ。

 彼女達には『占う』ついでに、任意で『魔法研究クラブ解散反対の署名』を頼んでいのだ。


 そして家畜小屋から教室へ戻る道中――。

 私は十分に集まった『名』を武器に学院長へ解散撤回を求め、既に掛け合っていた。


 (それにしても、署名を見た学院長の顔には笑ったわー! 運良くこちらのも王子(エデル)だったからか、即撤回をしてもらえたし!)



「凄い……ありがとうございますっっ! ライリー嬢っっ!」


 一通り説明を聞いた彼女達はクラブ長を先頭にまた私へ抱きつくと、声を出して泣いた。


「え? 結局泣くの!? ……あっ、そうだ! ネムはどうしました?」


「終了時間ピッタリに『用事がある』そうでっ、帰りま……た」


 ラヴが泣きながらも答える。


「早っっ! そして冷たい……」


 少し喜びに浸った後、まほ研4名は片付けを理由に、小屋へ帰っていった。



 再び1人になり、ウイッグを外したところで、直ぐにアケビが合流する。


「遅くなってごめんなさい! エデル様は無事、ブレイム殿下と合流済よ。私も片付けるね」


「ありがとう、助かったわ! ……あの、ブレイム殿下は何か言ってた?」


「貴女に『挨拶がしたい』そうよ。でも『疲れて気分が悪い』と断っておいたわ。これでいいのでしょう?」


 (何も言っていないのに、察しが『神』だ)


 作業を進めつつ、私達は会話を続けた。


「……今日は本当に色々ありがとね、アケビ」


「大した事は何もしていないわよ。それより……」


「『それより』なあに? 遠慮しないで言ってみて!」



「……アナタは誰?」



 私の手が止まる。

 察しが神レベルの親友は、どうやら私のに気付いたみたいだ――。

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