第16話 ~家庭内格差(アケビ・モンドリリーの野望その1)~

「美しいオレンジの髪に、可愛い笑顔……お前は我が家の『宝物』だよ、アケビ」


 モンドリリー侯爵家の長女『アケビ・モンドリリー』は、幼い頃から何不自由もなく、両親と3人の兄から深い愛情を受けて育った。


 蝶だの花だのと持ち上げられ、お姫様扱いの日々。

 うんと幼い頃は、それで充分満足だった。



 しかし、アケビが10才になったばかりのある晩。

 父親が屋敷へ持ち帰った仕事により、彼女の世界が一変。


『ステキだわ……』


 普段の優しい父とは違い、仕事へ取り組むその姿勢は、どんな高価な宝石よりもキラキラと輝いて見えた。


 羨望の眼差しは父親だけに留まらず、その仕事内容にも向けられる。

 それは『国政の世界』だ。


 日を追うごとにアケビは『国の運営に携わる仕事をしたい!』と、強く考える様になった。

『大好きな父親の助けに……』そんな思いも勿論ある。


 (先ずは誰よりも、賢くないと!)


 まだ幼いアケビはとりあえず、学校の勉強に励むことにした。


 元々成績は悪くない方だが、1番を目指すのは非常に困難を極めた。

 成績上位を陣取るのが学者や教師を親族に持つ、遺伝子レベルで超優秀な生徒達だからだ。


 学力テストでは、たった1、2問の間違いで順位が簡単に入れ替わる。


 それでも夢を叶えるべく平日は6時間、休日は半日以上、机にかじりつくこと2年……アケビはついに学年トップとなった。



「そうか……頑張ったな」


 に対する、家族の反応はいまいちだった。


 一方の兄達は、成績が少しでも落ちると烈火の如く叱られている。


「先代の勲位くんいを汚すつもりか!? そんな体たらくでは、国の繁栄や防衛を任せられない! 国政を軽く思うな!」と……。


 (兄達と私とでは『求められている』が違う?)


 違和感を探るべく、アケビは兄の部屋で(男子)学院の教材を覗き見た。 


「ナニ……コレ?」


 脳が焼ける程の衝撃――。


 彼等の『学び』は、アケビのこれまで(教養)とは全てにおいて異なる。

 法律や国交の手引き、商売の仕組みに、戦争対応まで……そこには国を担う人材を育てる為の、ノウハウが詰まっていた。


『私達は、国の運営にって事ね……』


『ショック』と同時に、激しく好奇心を掻き立てられた、侯爵令嬢。


『もっと国の仕組みを……政治を知りたいっっ!』

 

 翌日からのアケビは、これまで女性は誰も立ち入らなかった屋敷の書庫に籠り、欲求のままに国政や法律等に関わる本を読み漁った。



「アケビはどうした!? 王家主催の舞踏会に姿を見せないとは……何をしている!?」

 

 高価な宝石や流行のドレス、そして舞踏会にも一切興味を示さなくなった娘に対し、ついに父親が激怒する。


「お前は美しく着飾ってさえいればいい! 過度な知識は必要ないんだ。に、生意気だと思われるだろ!?」


 自分の価値は『結婚の道具』でしかない。

 そう現実を突きつけられた瞬間、アケビの心が決まった。



 それから数年――。

 反抗期と猛勉強は、変わらずに続いている。


 テーマは『性別格差(ハンデ)の払拭』――。


 政治家への第一歩。

 彼女は総委員長(学院代表)となり、卒業式のスピーチで国政・経済への女性参加を訴えるつもりだ――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る