この地獄のような楽園に祝福を

おもち。

第1話 遠い記憶

 


 リリー、必ず君を迎えに来るよ。

 だからどうか……もう少しだけ待っていて――。


 まるでお伽話に出てくる王子様が、お姫様にプロポーズするかのようにわたしの手を取りそう微笑んでくれた。


 そんな彼は燃えるような赤い髪と、夏の新緑を思わせる緑の瞳が印象的な優しい青年だった。

 あれはいつの頃の記憶だっただろうか。

 幼い頃たった一度だけ会ったその青年は、卑しい存在であるわたしにも優しくしてくれた。


 あの時泣いて一緒に連れていって欲しいとせがんだわたしに、彼が目線を合わせ送ってくれた言葉は、今ならあの場を宥なだめる為の優しい嘘なのだと理解できる。


 だってわたしは物語に出てくるお姫様ではないから。

 本物のお姫様は既にこの屋敷に存在しているのだから、偽物わたしは必要ない。

 そもそもわたしはお姫様などではなく、物語に名前すら登場する事のない脇役なのだから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る