第二百三十話 疑惑の二人であるというもの
「おーらぁぁぁぁぁぁい!!」
「うお!? 飛んだ……!」
ゼオラやスレイブさんのことは気になるけど、ひとまず野球をして楽しむ僕達。
騎士さん達と交じって僕とフォルドは別チームで、アニーとステラはどっちに入るか決めてもらった。
さて、一番乗り気だったアニーは見ての通り元気よく遊んでいた。
身体能力が高いので大きく伸びた打球を、バックスタンドを踏み台にして飛んでキャッチする。打った騎士さんが驚いているが、ずっと一緒にいた僕達も驚くよあれは。
「とったのー!」
【おお、すげぇすげぇ】
【いいジャンプだったぞアニー】
今のでスリーアウトチェンジなので攻守入れ替えになった。満面の笑みでボールを見せてくるアニーにボルカノとゼオラが絶賛していた。
「くそ……ステラ、アニーみたいなことはできないのか!?」
「できない。あれはアニーがおかしい」
「まあ、そうだよな……」
「……」
「まだ点差は無い。落ち着いて行こうぜ」
フォルドとステラが組んでいるのラースさんのところである。こっちは果物係のガイズさん率いるチームである。
「よーし、いいぞアニー! あっちも度肝を抜かれていると思うぜ!」
「僕達も抜かれたけどね」
「そ、そうだね……」
気弱騎士のクレシオスさんがアニーを見て苦笑する。元気がすぎるのはいいけど怪我だけはして欲しくないと思う。
「よし、次は攻撃だ――」
という感じでゲームは進み、途中でオオグレさんの頭とボールが入れ替わったなどのトラブルはあったものの、最終的にラースさん陣営に居た鍛冶師のグラフさんの一発がホームランとなり決着がついた。
「くあぁぁ! やっぱ鍛冶師は腕力があるんだろうな」
「鍛え方が違うぜ?」
「やるわね、さすがグラフ!」
「彼女も居るし、腹立つ……!」
グラウンドでくたくたになったみんなが笑いあっていた。
「楽しかったねー♪」
「だな。明日帰るのが勿体ないくらいだぜ」
「そうね」
「ステラは楽しかったかい?」
そのまま宴会をするらしい大人たちを置いて、僕達は家へ帰るため歩いていた。
「そうね。運動はあまりしないけど、楽しかった」
「それは良かったよ。ステラはあんまり表情が変わらないから気になっていたんだ」
「ふふ、ありがとう。そういえばウルカ君はこれだけ動いても大丈夫みたいね」
「え? ああ、うん。昔からそうじゃないか」
「そうね」
「? ステラちゃん変なことを言ってるの。ウルカ君は修行の時から元気ー」
「そうだぜ?」
ステラが僕をみて口の端を上げてから僕が元気だというようなことを口にした。
なんでいきなりそんなことを、と思っているとアニーとフォルドも同意する。
「ううん、なんでもないの。このまま元気で結婚して欲しいなって」
「あ、それはそうだねー」
【ふむ】
ステラが腕に絡みついてくると、アニーも空いた腕に抱き着いてきた。その様子に頭上のゼオラが腕組みをしてなにか呟いていた。
「ま、ウルカはヴァンパイアハーフだから中々死なないだろ? 元気だって」
「そうね」
先ほどまでの無表情とは違い、珍しくにっこりと微笑んでいた。
……この顔、どこかで……?
【……】
「クルルル!」
「あ、フォルテだ! お迎えに来てくれたのー?」
「わふ!」
「お、シルヴァもか。……タイガは相変わらず伸びてんのかな」
家路の途中でフォルテとシルヴァがやってきて、アニーが首に抱き着いていた。
フォルドはシルヴァを撫でまわしながらここに居ないタイガに苦笑していた。
ゼオラのステラを見る目がやはり変わった気がするな。僕もなにか違和感がある。
しかしそれが何故なのか、ということまではわからないのと『ステラがなにかを企んでいる』ということはないと思うので今のままでもいいかな?
少し気になるけど、もしなにかをするならもっと前からやるべきだしね。
その内ゼオラがなにか話してくれるかもしれない。
というか、現状はゼオラとスレイブさんの方が謎である。
当の本人は川へと続く水路の近くに家を建てて欲しいということで話がついた。
あまり辺鄙な場所で幽霊がいるとイメージが悪くなるけど、あそこならまあ大丈夫かな? 幽霊は水辺を好むなあ。ゼオラもそうだったし。
そして――
「それじゃあまたねー!」
「楽しかったぜ、また呼んでくれよ!」
「また来る」
――翌日、三人が町へ帰る時が来た。
「なかなかいい人間達みたいだし、安心できるわね。バスレ、ラースさんにベルナさん。今後もウルカちゃんをよろしくね」
「もちろんです奥様」
「お約束しますよ。また来られるのでしょう?」
「歓迎しますよぅ」
「一応、陛下との約束もあるしそうそう来ないつもりよ。それじゃ、また会いましょうウルカちゃん」
「うん! 父さんと兄ちゃん達によろしくね」
僕がそういうと、母さんは『兄ちゃん達はたまにしか帰ってこないから薄情だ』と笑っていた。
そんなやりとりの後、ラースさんの転移魔法でボルドさんの居るロッキンの町へ転移。騒がしくも楽しいメンバーが帰ってしまった。
「クルル……」
「わおーん……」
「ふにゃあ」
見送っていた動物達は少し寂しそうだ。ハリヤーもタイガを背中に乗せたままみんなが立っていた場所をじっと見ていた。
【行っちまったな】
「うん。また会うだろうし、それが楽しみになるよ」
【いい友人を持っているな。私もそうだった】
「スレイブさんも?」
僕が聞き返すと優しい笑顔で頷いていた。いい人なんだろうな……英雄みたいだし。
さて、今日も家を建てるかと背伸びをしていると町の入り口……まあ、あんまり機能していないけど、そこから一台の馬車がやってきた。
「誰だろ?」
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