第百八十七話 辺境で顔合わせというもの

「別にいいが、大人はいるんだろうな?」

「バスレさんとかラースさん、ベルナさんがいるから大丈夫ですよ」

「まあ、ウルカ様に預ける分には問題ないと思うけど、こいつが勝手にフラフラするとなあって思って」

「ウチは騎士さんも多いし危なくなったら止めてくれるよ」


 取り急ぎアニーを辺境に連れて行っていいかを確認するため酒場へとやってきた。

 名目としては遊びよりもハリヤーが心配だからというのがある。

 そこを言えば許可してくれるかと思っての行動だ。


「分かった。そこまで言うなら俺は任せるぜ。明日には帰ってくるんだろ?」

「うん!」


 ということでOKを貰えた。

 アニーも『またそれほど期間が開かずに会える』というのを知ったので明日ここへ帰ると言っても落ち込んだりしていない。

 で、お泊りをするとパジャマなどを用意し、今度はウチの屋敷へと向かう。


「んふー♪」

「いいなあアニー。後で私もお泊りセットを持ってこよう」

「明日も学校だぞ!?」

「屋敷から通う」

「それは遠いから止めた方がいいよ……」


 帰宅中にステラが鼻息を荒くするアニーを見てとんでもないことを言いだした。気持ちはわかるけどフォルドの驚きが正しい。


「フォルドもファナと一緒ならそうなる」

「な、なんでファナちゃんが出てくるんだよ……」

「まあまあ」


 少し離れていただけだけどこのやり取りはちょっと嬉しいな。僕も大人たちに囲まれて気負っていたような気もする。


「あー、でも辺境に行ってみたいのは確かだな。騎士ばかりなんだろ? オオグレ師匠も居るし稽古をつけてほしいよ。学校じゃ先生くらいしか戦える人が居ないんだよな」

「今のフォルドだと上級生でも難しいかもね。ロイド兄ちゃんが居れば良かったけど王都に居るし。ギル兄ちゃんは?」

「お店と冒険者稼業で大変だから言えねえよ。彼女もいるし」


 冒険者やっているのか……。まあ父さんが現役だからがっつりお店をやる必要はないもんね。一回冒険者もやってみたいって言ってたし。

 

「明日が休みなら一緒に連れて行ってもらうんだけどなあ」

「次の休みが……明後日か。じゃあ次の次に迎えに来ようか。前日にこっちに来て当日向こうへ行けばいいんじゃないかな」

「転移魔法凄ぇな」

「私も行く」

「そりゃもちろん」

「みんなでいくのー!」


 アニーが当然だと締めてくれ、僕達は苦笑しながら屋敷へ。屋敷で現状とかをワイワイ話す形になった。

 ステラとフォルドは勉強も戦闘もトップでゼオラやオオグレさんとの訓練は遺憾なく発揮されているようだ。


【ほらみろフォルド。学は大事なんだぞ】

「わ、わかってるよ……。師匠が言っていたみたいに女の子に声をかけられることが多くなった……」

【フッ、ステディこそパワー】

「なんか違う気もする……」


 ちなみにフォルドは親父さんに褒められているらしい。テストで点は取れるし戦闘もできる。屋台は継がなくていいから好きにしろって言われているんだってさ。

 串焼きも美味しいからそれは勿体ない……。


「ステラはどうなの?」

「コウ君に好かれていたくらい。あとは女子を排除している」

「なんでさ!?」

「いざウルカ君に会った時、好きになられたら困る」

「僕はもうこれ以上お嫁さんは必要ないよ。ほら、アコちゃんとか面白かったし、仲良くやってよ」

「わかった」


 無表情でこくりと頷く。いまだにこの感性は謎だ。僕を好きだというのはよくわかるけどね?

 どちらにしてもステラはこういう性格なので男子よりも女子に人気があるとフォルドは言う。

 後五年したら辺境に来るし、楽しみではある。それまでにきちんと整備しておかないとなと気が引き締まる思いだった。


 後はオオグレさんが新しく来る人を驚かせてばかりだとか、川にでかい魚がいるみたいな話を続ける。リーチスラッグをつまみにするためトーリアさんが出向くあたりはアニーが『パンダ、パンダ』とはしゃいでいた。


――そして翌日


「気を付けてね? ウルカ様と離れたらダメよ」

「はーい!」

「こ、これでいいのかい?」

「ええ。まとめて転移する時はこれでいいみたいです」


 屋敷の庭に両親とアニーのお母さん。

 それと僕とアニー、それと獣医さんが集まっていた。アニーと獣医さんは例の簡易ジェットコースターに乗っていたりする。


「気を付けてね。アニー、みんなの言うことをちゃんと聞くのよ」

「うん!」

「恐ろしいほど聞き分けがいいわね……」


 僕が居なくなってからしばらくはジュースで酔っ払いの真似をしていたくらいやさぐれていたらしい。今はぺかーっと笑顔が光っている。


「兄ちゃん達にも会いたかったね」

「帰って来たことは伝えておくよ。ギルバードも遠征とかで帰って来なかったからな」

「また今度かな? ……ちょっと考えていることがあるけど、許可がもらえるかなあ」

「なあにウルカちゃん?」

「出来たら母さんに教えるよ。それじゃまた明日!」

「「またね!」」


 両親が笑顔で見送ってくれ、僕は辺境の屋敷の庭へと転移した。


◆ ◇ ◆


「あおーん……」

「クルルル……」

「こけー……」

「にゃーん……」

「あらあら、みんな揃ってどうしたのかしら?」

「ウルカ様がいらっしゃらないので寂しいんだと思います」

「そうね。あの子は優しそうだもの」


 少し離れたところに転移が完了すると、なんかそういう会話が聞こえて来た。よく見ると動物達が並んで空を見上げて鳴いていた。しょうがないなあ。

 そう思っているとピンと尻尾を立てたシルヴァがこっちを向いた。


「わおーん♪」

「あ、シルヴァだ!」

「わおん!?」


 僕に気付いて嬉しそうな声をあげた瞬間、手を振るアニーを見てびっくりするシルヴァ。しかしそれもすぐに持ち直し、他の子と一緒にこっちへ駆けてきた。


「こけー!!」

「にゃーん」

「クルルル!」

「わー、みんな久しぶりだねー! あれ? この子は?」


 ジェニファーとタイガを両脇に抱えて頬ずりをするアニー。そこでフォルテに気付いて尋ねてきた。


「昨日話していたカトブレパスのフォルテだよ」

「あ! そうだ! はじめまして、アニーだよ!」

「アニーは僕の友達で恋人だから仲良くしてねフォルテ」

「クル? クルルル♪」

「あはは、くすぐったいよー。毛がもふもふしてるね!」


 久しぶりのアニーに動物達も嬉しそうにしているな。さて、こっちはアニーに任せて、僕は獣医さんとハリヤーのところへ行くとしよう。

 

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