第百七十七話 未来に繋げるものはというもの
「やることがない」
「わふ?」
「クルル?」
「にゃーん?」
今日も騎士さんの家を建てた。
終わった後に自宅へと戻って縁側に座って色々考えた末に先ほどの言葉である。
【暇ならゴロゴロしていてもいいじゃないか】
「でもみんなが頑張っているのに僕がゴロゴロしているのも悪くってさ。というか順応性が高すぎて驚くよ」
ロッキンの町から職人さんが来て早五日ほど経過した。
最初はオオグレさんやボルカノと言った存在に驚いていたけど、すっかり馴染んでいたりする。
例えば散髪だと、
「いやあ、百人クラスで騎士さんが居るから商売が捗りますねえ。練習にもなります。できれば子供が居るといいですけど。女性はオシャレをする方が先日来てくれましたよ」
【毎度でござる。拙者も一つお願いできるでござるか?】
「はははは! オオグレさんは必要ないでしょう。その体も含めて」
【その意図は?】
「毛(怪我)が無い」
【「はははははは!」】
とかである。
パン屋さんになると、
「石焼き窯は大丈夫そうですか?」
「ああ、いいよこれ。息子夫婦のところにも一つ置いて欲しいくらいだよ」
「燃やす木も大量にあるし、いくらでも焼けるのはありがたいぜ」
「あ、拾いに行っているんです?」
「いんや。ウルカ坊ちゃんの眷属? だっけ? それのボルカノってでけぇのが売っているんだよ。しかも格安でな」
「おや!?」
という感じ。
ボルカノは自分の伐採した木を売っているらしい。僕に報告が無いのはどういうことかと思ったけど労働の代金としてまあいいかととりあえず黙認した。
町になったら薪のお店をつくるかなあ。店主はボルカノでもいいし。
で、最後にグラフさんの工房だけど、
「こんにちはー」
「おう、ウルカ様か! どうした?」
「ポンプを作るからちょっと借りようかなって」
「なんだって……?」
「わふん?」
僕が工房の扉(横開き)を勢いよく開けて頼みごとをすると、グラフさんの目が光った。いつもなら笑顔で出してくれるのにと思っていると、首を振りながら続ける。
「……すまねえがそれはできない」
「どうして!?」
「いや、この村……やがて町にするため、ウルカ様のアイデアを使う」
「うん」
「だけど作業は職人たちでやろうと決めた。ラース様やヨグスさんからの通達でもある」
すでにヨグスさんと出会っていたのか。下水道計画をやっているから職人であるグラフさんは必要だもんね。だけども。
「僕は……? 話し合いに入っていないけど」
「あれ? ウチの工房で親父とラースさんとウルカ様がそんな話をしていたって聞いているぜ?」
「……あ」
あれか。僕が居なくなった時のことを考えて作業自体は職人さんがやる必要があるってやつだ。すでに実行に移されていたとは……。
「というわけで、その辺のことは任せてくれ! 逆に水道をどうするのか教えてもらいたいぜ」
「まあ、そういうことなら任せてもいいかな?」
時間がかかるだろうけど僕の理想通りなら今後をふまえてお任せするのはいいと思う。それなら水道の原理を、と説明しようとしたところで工房の扉が勢いよく開いた。
「ふう……。グラフさんはいらっしゃいますか……」
「ああ、ヨグスさんか! もちろん居るぜ」
「久しぶ……うわあ!?」
振り返ってみるとそこにヨグスさんは居た。しかし、作業着のようなものを着て泥だらけだった。僕の作った安全第一ヘルメットを被っている。
「どうしたの? 随分疲れているみたいだし」
「ああ、いえ。下水道を確認していましてね。土木工事を騎士とやっているのですが、やはり本職が欲しいところですね」
「オレは鍛冶師だから土木は専門外だぜ?」
「グラフさんにはもちろん金属関連の加工をお願いします。とりあえず少し見ていただきたいのですが……」
「ああ」
そこで僕に視線を合わせてくる。どっちを先にするか考えているのだろう。
「僕の用事は後でもいいよ。下水道の方が重要だからね」
「オッケーだ! スピアぁ、ちょっと出てくるぜ!」
グラフさんが階段に声をかけると『わかったー』と返事が返って来た。もう夫婦じゃん。
「……という感じで、散髪とパン屋さんはいいことなんだけど鍛冶屋のグラフさんが来てやることが減ったね」
【まあ、技術の継承というのはとても重要だからな。あたしの魔法をウルカが覚えてくれたのは正直めちゃめちゃ嬉しかったんだぜ?】
「そうなんだ。だとしたら良かったよ」
歯を見せて笑うゼオラに僕も笑顔で返す。しかし、その後の言葉で僕は驚くことになる。
【だからジェニファーも旦那を見つけて子供を産むつもりなんだよな。まだ大丈夫だと思うけどニワトリって十年くらいじゃなかったっけ、寿命】
「ああ!?」
そうか!
言われてみれば動物には寿命がある……! そして魔物じゃないジェニファー、タイガ、ハリヤーは近いうちに寿命を迎える。
「わふ?」
「クルル?」
「お前達は何年生きるんだ……?」
顔を見合わせているシルヴァとフォルテ。いや、多分しばらく大丈夫だ。
タイガは生後一か月くらいのを拾ったから五年くらい……猫は十五年くらいいきるんだっけ?
となると――
「ハリアーって何歳なんだ……!?」
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