第百四話 裏切りの母であるというもの
「お元気そうで何よりですわ」
「クラウディア様も。とはいえヴァンパイアロードが病気をするのはあまり聞いたことがありませんわね」
「お恥ずかしながら、身体だけは丈夫なもので――」
と、まずは母親同士の軽い世間話からスタートしたお茶会。少し前に会ったことがあるし、印象も悪くなかったので和やかな雰囲気が漂っている。
というか母さんの名がどこまで知れ渡っているのかは正直、とても興味がある。
【城なんて退屈で仕方ねえよ。どっか遊びに行きたいな】
「お茶会が終わったら部屋に戻ると思うし、我慢してよ」
【酒……酒が飲みたい……】
「欲望全開」
ステラが的確なコメントを残すと、僕の隣に座ってタイガを撫でていたデオドラ様が口を開く。
「誰と、話しているの……?」
「えっと、この辺に大賢者の幽霊が居るんだけど僕とステラしか見えないんだよね。話もできるのも僕達だけなんだ」
「ゴースト……怖い……」
幽霊と聞いてガタガタと椅子を移動させるデオドラ様に苦笑しながら僕は手を振る。
「大丈夫ですよ。悪さをするような幽霊じゃないですし、話もできます」
【そうだぞー。って聞こえねえか】
「視えないならどっちにしても大丈夫です」
「そう、かも……大賢者……かっこいい……ふふ」
すぐに椅子を戻して青い顔をしながらも僕にくっついてくるデオドラ様。
ちなみに両脇を女の子で挟まれている形である。
「そういえばゼリーは美味しかったですわよウルカちゃん。デオドラもとても満足な笑顔をみせていました」
「それは良かった! 食べ物はちょっと良くないかなと思ったんですけど、珍しいタイプだからお土産にはいいかと」
「スライムみたいでしたけど甘くて酸っぱくてと面白かったですわ。相変わらず、センスのある物を作りますわね」
「そうなんですよ。最近だと池を温泉に変えたり、こたつという暖房が使えるテーブルを発明しまして、こたつはもう手放せないんですの」
「おや!?」
おや!?
こたつの件は内緒にしとこうって話を合わせていたのに! また欲しいとか言われるのを防ぐためにゼリーと温泉以外は口にしない方向だったんだけど……。
「こたつ、ですか」
ほら、目の奥の輝きが変わった!
持ってきているなどと言わせてはいけない……!
「母さん……」
「ん? なあにウルカちゃん」
母さんに声をかけると微笑みながら僕の方を見て目が合う。僕もそれに合わせて微笑み返して首を振る。それ以上はいけない、と。
すると母さんは『ああ!』という顔になり、王妃様の方へ向いた。良かった気づいてくれた。
「そうそう、こたつですけども馬車で使うために持ってきたんですのよ! 携帯性もあっていいものなの」
「え!?」
分かってなかった!? むしろ率先して口にして暴露しただって……!
「まあ! それは見せていただかなければいけませんわね……!!」
「後で馬車へ行って取ってきますわ。ウルカちゃん、畳は作れるかしら?」
「ええー……」
僕が呆れた顔でため息を吐くと、デオドラ様が首を傾げて尋ねてくる。
「こたつ……?」
「テーブルにお布団をかけて温めるものです、デオドラ様。私はあのぬくいのが大好きです」
「まあ、温かいテーブルなの……?」
「にゃー♪」
「タイガもこたつで丸くなる」
「こたつ……見たい……」
ステラが得意げにデオドラ様へこたつの説明をするとパッと明るい顔でタイガを抱きしめていた。仕方ない、適当な草を使って畳を作ってみるかな。
とりあえず今はお茶をしようと出されたケーキを口に運ぶ。
「……そういえばお兄さんは?」
「兄さま……パパと一緒にウルカちゃんのパパと兄さまをもてなすって……」
「そうなんだ。最近はどう?」
「……変なことは、いやだって言うようにしたから……平気。ぬいぐるみ、あるから」
「こけ♪」
比較的持ち運びをしやすいジェニファーのぬいぐるみをそっと出して恥ずかしそうにそういう。ジェニファーはご満悦である。
それでも兄の嘘や大仰な言葉を真に受けなくなったのは大きな成長だろう。
【ま、これからだと思うけどな。大きくなるとこじれるから今のうちに矯正がかかったのは良かったけど】
ゼオラは空中であぐらをかいてデオドラ様を見てそう言う。10歳ともなれば自我というものが出来てくる。だけど小さいころから洗脳に近いことをされていたらなかなか払拭できないものなのだと語る。
「……ルースにはきついお仕置きをしましたからね。双子のお兄さんを見てなにか変わるといいのですが」
「うーむ」
国王様も王妃様もいい人だし、そんな性格に育つなんて不思議ではあるな、と僕は頭をひねる。
あの甥っ子であるザイードさんかなと思うんだけど、あの人は正直すぎて陰でこそこそできるような感じはしないんだよね。
兄ちゃんズのところに居るなら、面白いことになりそうな気もするけど。
◆ ◇ ◆
「陛下自らとは恐れ多いですね」
「ふふ、たまには息子と一緒に客人の相手をするのもいいと思ってな。挨拶をしなさい」
「初めまして、ルースと申します」
「ロイドです、王子。初めまして」
「ギルバードと申します。よろしくお願いいたします」
「二人はルースの二つ年上でそろそろ学院を卒業するのだ」
双子と握手をかわしながらルースは胸中で口をへの字にして呟く。
「(ふん、田舎貴族め。父さんの前で恥をかかせてやろうか。私の剣は騎士にひけをとらない)」
そう考え、
「訓練場へ行きましょう! お二人の実力を見てみたいです!」
そんなことを口にするのだった。
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