第三十二話 眷属というようなもの
旧・秘密基地へやってきたのはフォルドとアニーで、道が開通して色々な人が散歩をしているからと一緒にやってきたそうだ。
「なるほど」
【賑やかになったな】
外に出るとまばらだけど確かに人が散歩や日向ぼっこをしていた。レジャーシートなんてものはないので地べたに座る人が多いな。
周囲を見ながらそんなことを考えているとフォルドがゲッソリウルフを指さしながら尋ねてくる。
「なあなあ犬か? どうするんだ?」
「フォレストウルフだよ。あんまり大きくないけど、ご飯が食べられていないみたいだから屋敷に連れて行こうかなと思って。臭いから洗いたいし」
「えー! ウルカ君もしかして魔物を飼っちゃうの?」
アニーが自分の鼻をつまみながらそう言う。やはり臭いようだ。それはともかくこの状況の説明をしておくか。
「えっと、こいつは群れからはぐれてかなり弱っているんだ。で、飼うにしても魔物はジェニファーやタイガとは違うから、ちょっと特殊な方法を使うつもり」
「特殊? なんか作るのか?」
「……僕って実はヴァンパイアハーフなんだけど、能力に魔物を眷属にする力があるらしいんだよ」
「けんぞく?」
「あ、俺、知ってるぜ! ギスギスすることだろ? 親父と母ちゃんがよくなってる」
「険悪!? 違う違う、この魔物を僕の部下……みたいにするんだ」
「ふーん? よくわからないけど面白そう! 一緒に行っていい?」
まあ四歳と五歳には難しいかな。ヴァンパイアハーフもよくわかって無さそうだから気が楽だ。
ジェニファー達も居るし面倒を見てもらえるのはありがたいと思い承諾。
森を抜けて屋敷へ到着すると庭に人影を見つけた。
「あれ、ギル兄ちゃんだ」
「ん? おお、ウルカじゃないか。それと?」
「あ、お、俺はフォルドって言います!」
「アニーでーす! こんにちは!」
「友達か、俺はギルバートだよろしくな」
がちがちになったフォルドがぴしっと立って挨拶をし、アニーが元気よく手を上げて笑う。ギル兄ちゃんも貴族だからと偉そうにしたりしない人なので微笑みながら二人を握手をしていた。
挨拶をした後、ギル兄ちゃんが俺の手の中に居るフォレストウルフを見て顔を近づけてきた。
「……こいつは犬、か?」
「ううん、フォレストウルフだよ。ジェニファー達にも負けるくらい弱っているんだ」
「こけ」
「それは……」
「くぅん……」
憐みの目で見られたことに気づいたフォレストウルフが落ち込んでいた。
とりあえずかくかくしかじかしてお互いの状況を交換すると、ギル兄ちゃんが小さく頷いて僕に言う。
「なるほど。なら母さんを連れてきたらどうだ? 対して強くないなら俺が預かっておく」
「いいの? フォルドとアニーは……ジェニファー達が守ってくれるか」
「にゃー!」
「だ、大丈夫だって! ミズデッポウもあるし!」
「ねー」
僕は学校が早く終わったというギル兄ちゃんにこの場を任せ、母さんのところへと向かう。
「かあさーん」
「おや、ウルカ様どうしま……臭っ!?」
「ダイレクトにきた。ちょっと色々あって……母さんは?」
バスレさんが膝から崩れ落ちるのを見ながら尋ねると彼女はスッと立ち上がり自室に居ることを教えてくれる。
「居た。母さん、聞いていい?」
「おかえりウルカちゃん。早かったわね?」
「それが、秘密基地でフォレストウルフがジェニファー達を襲っててさ。まあそいつは弱かったんだけどこのままじゃ餓死一直線だから眷属にできないかなって」
「あら、眷属のことを知っているのね? 話したかしら……」
「ああ、うん、寝言で聞いたよ」
「まあいいわ♪ ヴァンパイアハーフとしての力を使ういい機会ね」
誤魔化せたようでなによりだと胸を撫でおろす僕。が、母さんはすぐに顔を顰めてバスレさんに言う。
「……それはそれとしてウルカちゃんが臭くなっているわ、お願いね。先にお庭へ行っているから」
「かしこまりました奥様」
「確かに臭いけどそこまでかなあ? あ、いいって自分でお風呂に入れるから!?」
◆ ◇ ◆
「ふう……」
「キレイになりましたね」
「ま、まあね……とりあえず餌は肉でいいかな」
そんなこんなでバスレさんと一緒に入るという嬉しいもののちょっと恥ずかしいイベントをこなしてからフォレストウルフに食べさせる餌をもって庭へと向かう。
そして――
「ふはははは! 犬だ犬だ!!」
「わふふふふふふ!?」
「こいつ狼だよギルさん!」
――いつか見た光景が焼きまわされていた。
「おー、きれいになっていくー。あ、おかえりウルカ君」
「ただいまアニー。ギル兄ちゃんがこんなに楽しそうなの初めて見たよ」
「そうなんだ? ウルカが屋敷に入ってすぐ用意してたぞ」
用意がいい……ロイド兄ちゃんがタイガを洗っていたのを見て自分もいつか、と考えていたのかもしれない。
「ギル兄ちゃん、そいつ禿げちゃうよ。そろそろいいんじゃない?」
「む、そうか」
ギル兄ちゃんが手を止めるとフォレストウルフが桶から出て体を震わせて水を飛び散らせようとする。が、ダメ。
「くぅん……」
「もう立てないのか。肉、食べられるかな」
「おふ、おふ……」
「お、尻尾だけ元気になった」
「器用ですね」
僕はしゃがみ込んでフォレストウルフの口に肉を運ぶとなんとか口を開けて食べることができ、咀嚼を始める。
「わぉおん……」
「泣いてる……」
「よほどだな……」
よく生き延びれたなとその場に居た全員が苦笑する。ステーキ肉を三枚平らげたところでようやく伏せの状態を維持できるほど回復した。
「わううう……」
「急に食べたからお腹が痛いのね。ま、眷属にするには関係ないしやってしまいましょうか。まずはその子の頭に手を」
「うん」
母さんの指示でフォレストウルフの頭に手を置く。
「そのままフォレストウルフと目を合わせて魔力を集中させてみて。相手を支配するという気持ちを目から通す、っていえばわかるかしら?」
「……」
「あ」
「目の色が金色に変わったー」
フォルドが小さく呟いたその時、僕の目はなんだか熱を持ったような感じになっていた。金色になっているのか。
「わふ」
「後は『眷属として我を守れ』とか言いながら名前をつけてあげればいいわ」
「適当!? というか名前……! 全然考えていなかった」
どうする? 適当な名前は可哀想だし、狼っぽい名前をつけないと……!!
「眷属として我を守れ! お前は今日からシルヴァだ!」
「……!! わぉぉぉぉん!」
僕の目に集まった魔力がフォレストウルフの目に入るような感覚があり、吸い込まれるように身体から抜けると四本足でスックと立って遠吠えを上げた。
「成功ね♪ さすがウルカちゃん!」
「そ、そうなの? あ、シルヴァの顔に模様ができてる」
左頬になにか象形文字のようなものが浮かび上がり、それが眷属の証だと母さんが言う。
「わんわん!」
「ちょっと元気になったみたいだ、良かった! 今日から僕の部下だからな、ジェニファー達や敵じゃない人間を襲ったら駄目だぞ。餌はちゃんとあげるからさ」
「ばうわう、ばうわう!!」
「キレイになったし良かったねー。それじゃみんなで遊ぼう!」
「そうだね。母さんありがとう! ギル兄ちゃんもシルヴァを洗ってくれてありがとう」
「今度一緒に散歩しような」
というわけで一頭仲間が増えた。
そこへハリヤーを連れたウオルターさんがやってきた。
「おや、皆様お揃いでどうしましたか? ……それはフォレストウルフ?」
「うん。今日からこいつもウチの一員だよ。ハリヤーもよろしくね」
僕がそういうとこちらまで歩いてきてシルヴァの匂いを嗅いでから『よろしくお願いします』と言った感じで鳴く。
「わふ!」
「こけー!」
「にゃー」
そんなハリヤーの下にジェニファーとタイガが寄っていき賑やかになった。
でも、あれ……なんかどこかで見たような感じだな……馬、ニワトリ、猫と犬……なんだっけ……?
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