第46話 たった一人
…………これは……なんだろう……夢?
俺の目の前には病院のベッドに横たわる母親と寄り添うように椅子に座る
幼い自分がいた。まるで思い出を俯瞰して見ているような不思議な光景だ。
「ねぇ。不諦、よく聞いてね?」
「何?」
これが夢だからか、俺の口は動かない。
代わりに幼い自分が母さんの問いかけに答えた。
「もし……もしも私が居なくなったら妹の事をお願いできる?」
「…………うん。分かった」
「あと、良かったらお父さんの方もお願い。……あの人ちょっと頼りないから」
「大丈夫、僕が頑張るから……だから、早く良くなってね?」
……これが最後の会話だった。
この数日後、僕が寝ている真夜中に容態が急変したらしい。
(ごめんねお母さん……お父さんはもうそっちに行っちゃったよ。
守れなかった)
そう思っていると、瞬きする間に景色が変わった。
今度は病室どころか何も見えない暗闇が広がっている。
「暗い……」
「不諦」
「……あ、お父さん」
後ろから懐かしい声が響いて振り向くと、そこにはかつてと変わらない姿の父親ガチャ立っていた。不思議な事に暗闇の中でもハッキリと認識出来た。
おまけに、声が出せるようになっている。
「ごめんな……守るのは僕の役割だったのに。ごめんな……」
「……」
……よく出来た夢だ。
「お前もいい加減疲れただろ?お父さんとゆっくり休もう……」
「俺には……やるべき事が残ってる」
この夢は、良くある死んだ両親に激励される綺麗なものじゃない。
ただ、俺の心に有る弱さが両親の形を取ってるだけだ。
「父さんも母さんも、もうこの世にはいない。
でも、二人共最期の最後まで俺ら兄妹を案じてた。
奈緒の事を言わずに、俺を立ち止まらせようとする
お前は偽物だ! 消えてくれ!」
「……」
俺が叫ぶと、幻覚は塵が飛ぶように消えていく。
「母さんとの約束を二度も破れない……
父さんの教えと愛情を忘れる訳にはいかない……」
次第に視界は光に包まれていき……
*
「知らない天井だ……」
目を開けると、白い天井が視界に入った。
「……! 起きた!?先生!先生ー!」
俺が目を開けたのに反応して、看護服を着た女性が叫びながら
ドタドタと部屋の外に駆けていった。
「……ここは?……!痛てて……」
身体を見ると、清潔な入院着に着替えされている。
所々痛むが、どこも折れたり、重い火傷を負ったりはしていないようだ。
「おー……君、大丈夫かい?」
「……どうやら」
身体の確認をしていると、部屋に人が入ってきて、俺に声を掛ける。
たぶん彼は医者だろう。
「えーっと……爆発で全身と頭を打ったようだけど、
幸いにも打ち所は良く、早めに救助されたからほとんど煙も吸わなかった。
……いやー、あの状況でこれは奇跡だよ」
「救助?」
「ああ、どうやらライトって子と、マロンって子が君を炎の中から引っ張り出してきたみたいでね。お礼を言っとくんだよ?」
(……あの二人に助けられたのか)
「なるほど。……! あれからどれくらい経ってるんだ!?」
「二日は経ってるけど……」
「……そんなに! 今すぐやらなきゃいけない事があるんで退院させてもらう! 」
「え!?いや、それは医者として許せないんだけど……」
「あの爆発で一人行方不明がいるよな?」
「なんでそれ?確かにセイラっていう子が行方不明らしいけど……」
「やっぱり……」
俺が気絶する直前に見た光景は真実だった訳だ。
だったら寝ている暇は無い。
「まぁ……何らかの事情があるんだろうけどさ、少し落ち着きなって……
取り敢えずこの君宛ての手紙でも読みなよ」
「手紙?」
俺は手渡された小さな赤い封筒を切って、中身を取り出す。
(ノーティスに告ぐ。目を覚ましたなら、夜12時に学園の生徒会室に来い。
お前の大切な人間と一緒に待ってる)
怪しい手紙だが、何も分からない今この指示を無視するのは良くない。
文章から察するに、奈緒は人質に取られているのだろうし。
「……今すぐ退院するのは辞めます」
「そうしてくれると助かるよ」
今夜十二時に、本当に最後の戦いが始まる事になりそうだ……
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