第22話 不運(必然)
セイラがチンピラ達を倒した時から数分後。
ノーティスは状況を変えられずにいた。
*
……援軍を呼ばれてから十分程たっただろうか。
あれから、イロウに出口を防ぐ事に集中されてしまい
なかなか状況を動かせ無かった。
「ブワッハッハ!そろそろあいつらが到着する頃だ……」
「……」
「『教育』を受けるにふさわしい姿になったカローを連れて来るだろう……
もちろん、貴様も同じ目に遭ってもらうぞ?ガキだからと容赦はせんぞ……」
「……残念。あなたの思い通りにはならないよ」
「!?」
「!」
何の前触れも無く、入口から声が聞こえた。
この声は……
「す、すいません。イロウさん……この女がお前らの上司に案内しろって……」
後ろ手に縛られて無力化されている、ガラの悪そうな男がそう言う。
この女……?そう思って目を凝らすとそこには奈緒が居た。
「奈……セイラ!?何でここに……」
「お兄……ノーティス?」
思わず互いに目を合わせたままキョトンとしてしまう。
何で奈緒がここに?
「おい、貴様!どういうことだ!?」
「か、カローの野郎を見つけたんで捕まえようと思ったんです。
そしたらこの女に邪魔されて……」
…………?本当にどういう事だ?
カローが逃げた先に奈緒が居て、彼を助けた?
何でそんな事に?
「……あ、そうそう。運が無かったねイロウさん、あなたの手下達は
全員しばらく動けなくなってもらったから」
「ぬぁんだと……」
良く分からないが援軍は奈緒が片付けたようだ。
「……俺にもどういう事か分かんねぇけど、
お前の策は潰されたみたいだぞ?」
「うぐ、ぉぉおおおおお……」
どうやら次の策は無いようで、
イロウの顔色がここで働いていた人達のように青くなる。
「おい!イロウはここに居るか!?」
今度は聞き覚えの無い声が入口付近から聞こえ、視線を移すとそこには衛兵隊がやって来ていた。この世界での警察的な役割を持つ組織だが何故ここに?
「お前の"元"部下達がお前の悪事をいっせいに告発した。
どうせ『教育』されるならとやけくそになった行動だったらしいぞ?」
「ば、馬鹿な。そんな……」
(はは、相当嫌われてたんだな)
完全に意気消沈して、その場にへたり込むイロウを見て俺はそう思った。
いや、イロウの事はどうでもいい。奈緒は……
「あっ、ちょっと待てって!」
奈緒は衛兵隊のどさくさに紛れてここから去ろうとしていた。
思わず引き留めようと声をあげてしまう。
「……」
奈緒は聞こえないフリでやり過ごそうと歩きだす。
俺は走って追いかける。
「なあ!良く分からないけど、カローへの追っ手と俺への援軍はお前が倒してくれたんだろ?ありがとう!」
「……礼を言われるような筋合いは無いよ、これ以上話す筋合いもね」
相変わらず敵対心が強い。
だとしても、ようやく直接話せるチャンスだ。
なにか……奈緒の気を引けるような物は無いか……?
「……あ、そうだ。カロー達の様子見に行かないか?
お前も気になるだろ?」
「…………まあ、少しは」
「よし!行こう!今すぐ!」
やや強引に隣に並んで歩きだす。
セイラは少し嫌そうな顔をしたが、なんだかんだ拒否はしなかった。
*
親切な住人がカロー家の場所を教えてくれたので、あっさりとたどり着いた。
カローの家はかなり質素でこじんまりとしている。
「ねえねえお父さん!あそんで!」
「……新しい仕事を探さなくちゃ……いや、今は良いか。
分かったよモモ、遊ぼう!」
「わーい!隠れんぼするー!」
「……お父さん、僕も隠れていい?」
「はは、もちろん。すぐに見つけてあげるよ」
「よーし、絶対見つからないから!」
……外観に反して、中からは幸せそうな親子の声が聞こえた。
どうやら心配するまでも無かったようだ。
「……私達も、ああなれたのかな」
隣の奈緒がそう呟く。
その顔には羨んでいるようで、何処か悲しげな複雑な思いが現れている。
「……なあ、奈緒。そう言えば俺が何でお前が悪の道に進むのを止めたいのか
説明して無かったよな?」
「?、お兄ちゃんが真っ直ぐで曲がった事が嫌いな性格だからじゃないの?」
「馬鹿言うなよ、俺は相当ひねくれてる……いや、俺の性格はどうでもいいんだ。
少し昔の話をしよう、俺達の両親についての話を」
……はるか昔の、しかし未だに心に焼き付いている思い出話を俺は始めた。
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