第18話 小さな兄と大きな妹

ノーティスが女の子を市役所に送り届けようとしていた時、ほとんど同時刻に

孤独に耐えかねたセイラ・リドゥーも気晴らしに街に来ていた。


彼女が居るのは寂れた裏通り。

盗品買取店や風俗店などが並んでいるここは、

清廉潔白な学生には縁の無い場所だ。


(はぁ……知り合いに会いたくないから裏通りに来てみたけど……

寂れてるだけで何も面白くないな)


目に入るのはゴミゴミしたつまらない景色ばかり。

そうしていると、自然と兄からの手紙と自分が書いた返事を思い出してしまい

気分が悪くなる。


「なにか良い気晴らし無いかなぁ……」


特に目的も無く、さまよっていると突然前方から怒号が聞こえた。


「おいおい!お前どうしてくれるんだよ!

こいつの骨折れちまってるぜぇ〜!?」


「いや、あの、本当にごめんなさい!今すっごく急いでて……」


「あぁ〜!痛ぇよぉ〜!早く医者に見せてくれ〜!」


何事かと思って前を見ると、

男二人が標的を囲んでくだらないカツアゲをしている所だった。

被害者は十二歳くらいだろうか、可哀想な事に怯えきっている。


(……人助けの趣味は無いけど)


声がデカいだけの馬鹿が得をするというのは胸糞悪い。


「そこのお二方?子供相手に恐喝とは感心しませんね……」


「あ゛あ゛ん゛?なんだい?お嬢ちゃん。正義の味方気取りかい?」


「……私に正義なんて無い」


「だったらすっこんでろや!!!」


逆上した男が殴りかかってくる。

だが、所詮はチンピラ。虫が止まりそうな程動きが遅い。


パシン!

「なにっ!?」


開いた鉄扇によって、男の拳はいとも簡単に止められる。


「クソがっ……!」


男は拳で押しきろうとするが、鉄扇を持ったセイラの腕は

壁を押してると勘違いしてしまう程ビクともしない。


「その程度?」


セイラがそう呟くと、鉄扇越しに下方向の力が加えられ男の腕が下がっていく。

男は何が起きてるか分からないと言った様子だ。


「ば、馬鹿な……こんなヒョロい女に……」

「今度からは人を見た目で判断しない事」

ベチッ!


腕を下げられ無防備になった男の目に、

閃光のように早い鉄扇の打撃がヒットする。


「グアアア!目がああ!」


目潰しを食らった男は叫びながら崩れ落ち、

死にかけの虫のようにのたうち回る。


「て、てめえ!調子に乗るんじゃ……!」


すると今度は肩の骨が折れたはずのもう一人のチンピラが襲い来る。

しかし、セイラにとっては相手をするまでも無いようだ。


「……貴方、骨が折れていたんじゃ無かったっけ?」


男の首元に突きつけられた鉄扇が、刃の様にキラリと光る。


「ひえええええ!ごめんなさいー!」


男は戦意喪失し、逃げていく。

同時に目潰しを食らった方もヨタヨタと歩いて去っていった。


「あ、あの……ありがとうございます」


「礼を言われるまでも無いよ、あんな奴ら。

……というか、君急いでたんじゃなかったの?」


「あ!そうだ!お姉さん茶色おさげの女の子見かけませんでしたか?」


「……?いや、見かけて無いよ」


「そうですか……」


男の子は見るからにガッカリとした様子を見せて、肩を落とす。


「僕の妹なんですけど……朝に家を飛び出したっきり戻って無いみたいで」


「妹……」


……まだお父さんが生きてた頃、私も普通の子供らしく店ではしゃいで迷子になった事もあったな。そういえば、その時お兄ちゃんが探してくれたんだっけ。


なんだか、この子の事を他人事だとは思えない。


「一緒に探してあげようか?」


「え?良いんですか?」


「良いよ、今は暇だし」


なんだか、柄でも無い事を言ってしまった。

でも悪い気分じゃ無いのは何故だろう。


「ありがとうございます!とりあえずこの裏通りから出ません……?」


「まぁ、そうだね」


さっきのチンピラのような連中がまた来ても面倒なので、少年の言葉に従って

裏通りの出口に進む。

クラスの誰かに出会うかもしれないという不安はもう無かった。


「ところでさぁ……さっきみたいに怖い目に合うかもしれないのに

妹を探すのやめないんだね」


「……また怖い目に合うのは嫌ですけど、妹が帰って来ないのはもっと怖いです」


「そんなに大事なの?」


「そりゃあそうですよ、あいつが生まれた時から知ってるんです。

心配で心配で仕方ないですよ」


「それは君がお兄ちゃんだから?」


「……たぶんそうですね。

僕にとってあいつはたった一人の兄妹で、片割れみたいな存在なんです」


(…………兄妹って皆そういうものなのかな?)

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