3.116号室:推しはいつもそこに
8月3日:116号室
「てなわけで、後始末が終わったことでー」
「「かんぱーい」」
近くのコンビニで買ったレモンサワーを
開け、鹿野(かの)と理水(りみ)は乾杯をして
それを飲み始める。
「いやー、疲れた疲れた。やっぱ夏の課題研究は多いよー。いくら前期終わりだからってここまでするかね」
鹿野がグイッと飲み上げ、別人のように愚痴を始める。
「しょうがないよ。自分たちの今後のためだから。今のうちにやったら、後が楽だよ」
ここ数日の2人の生活は忙しかった。佳乃と理水は現在大学3年生の同級生。夏季休暇前、2人は就職活動を進めるため、主に理系の大学生を中心とした企業インターンシップを進め、活動内容をまとめたレポートを書いていた。
「また次のライブ行くでしょ?いつだっけ?」
理水は缶ビールを一口飲んで言う。
「多分8月終わりかな。距離的にいい感じの場所でやるみたいよ」
2人はバンドグループ"clevers"(クレバーズ)のファンであり、ライブの日などは何度も足を運んでいる。cleversは、5人の男性グループで構成されており、最近では、少しづつテレビの露出も増え出した注目のバンドとなっている。
「やっぱりボーカルの結城くんがいいよねー人気度も上がってるよー」
「私は相良くんかな。髪の色変えたよね?あたしの好きな色だったからめちゃ嬉しかった」
理水はボーカル担当の結城城太(ゆうきじょうた)。鹿野はドラム担当の相良圭一(さがらけいいち)の推しであったため、それからはそれぞれの推しの良いところを話し始めていた。
やがて時刻は日付が変わり、午前2時。
理水はトイレに行こうとフラフラとしながら立ちあがろうとする。
「うーん。結構飲みすぎた〜。きつ〜」
「大丈夫?手伝おうか?」
鹿野が介抱しようと立ち上がる。
「いやいや平気〜。かのっちも結構飲んだっしょ?今日はここで寝てきなよ〜」
「え?いいの?」
「どうぞ〜。箪笥に布団一枚あるからそれ使ってね」
理水はそう言いながら、ゆっくりと壁に手をついて、トイレのある廊下へ消えていった。
鹿野は横に繋がる理水の部屋にある箪笥から小さなオレンジ色の敷布団を取り出した。
部屋から出る途中、6月のcleversのライブ帰りに2ショットで撮った写真が飾られた写真を見た。鹿野はそれをみて、当時を懐かしんだ。
そうして、眠気がピークに達した鹿野はソファの上で布団をかけて眠り込んでしまった。
そうして彼女は夢の中で思い見る。理水との思い出や、cleversのライブ。推しである相良圭一と顔があったこと。その顔を見合わせた瞬間が鹿野の人生にとって1番の幸福となった。
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