悪役失格 〜どうにも年下騎士の執着から逃げ切れる気がしない〜

オトカヨル

プロローグ

「そんなんじゃ!」


 キンキンと耳につく声で宣告される。

 そんなことを言われても、だって私が望んだ役ではないんだし。


「それは、女神様の配役ミスでは?」

 この発言が不興を買うなんて事はわかりきっていたけど、それでも一言文句を言わずにはいられなかった。


「もーーーー!」

 見た目は儚い美しさを持つ少女、身に纏った薄衣をふわふわと揺らしながら、地団駄じだんだを踏む。

 もーー、なんて言って本当に怒る人(神?)っているんだな、と私は呑気に思った。


「だってちゃんとマニュアルも渡したし! たったの十年、マニュアル通りにあの子を虐めてくれればよかっただけなのに!」


 美術品のように整った顔を歪めて、女神は手に持った書物を振り回した。表紙には可愛らしいイラストと、『コツコツ続けてしっかりヘイトを育てる! 悪役マニュアル』というタイトルが丸っこい文字で記されていた。なんでタイトルの文字にPOP体を選ぶかなあと思いながら、私は女神の前で首を振る。


「そう言うなら、女神様ならできたんですか? あの子に、ここに書いてあるような事を」

 私の言葉に、女神はぐっと言葉に詰まる。

「……そんな事できるわけないじゃない」

 尻窄みに小さくなる女神の声。言いながら、マニュアルに沿って『虐め』ている所を想像したのか涙目になる。

「でも、お願いしたのに~!」

 とうとう泣き出した女神に胸を貸し、私はため息をついた。

「仕方ないじゃないですか、私の勝手な望みより、あの子の方が大切だったんだから」

 泣きたいのはこっちなのになと思いながら、私はさらに女神の背を優しく『ぽんぽん』する。


「元の世界に戻る事より、あの子が幸せでいてくれるほうがずっと大切だったんですよ」


 涙をいっぱいに湛えた目で女神が私を見上げる。にこりと笑いかけると、彼女はさらに泣き出した。




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