なんだよあの不自然な降参はッ!?(一般獣人視点)


 優勝候補として大本命であるバルバロス国王、そして一番人気であったガロウ将軍を下したカリーナ選手。

 募金のつもりでカリーナ選手に賭けていたとある観客二人は、勝ち進むカリーナ選手を見てもっと賭けとけばよかったとか思いつつも、ミーシャ選手相手に敗退したのを見て、どこかホッとしていた。


「いやぁ、もしかしたら優勝しちまうんじゃないかと思ったけど、やっぱダメだったな」

「ああ。まさかミーシャ選手が勝つなんてな」


 結局バルバロス国王もガロウ将軍も敗退したため、二人の間で行っていた晩の飲み代を賭けた勝負はドロー、割り勘となった。

 尚その後ミーシャ選手は普通に決勝で負けた。優勝したのはバルバロス王の息子、ウル王子であったが、釈然としない顔での表彰台だったのは言うまでもない。


「……」

「……」

「いやいやいやいや! なんだよあの不自然な降参はッ!?」

「だよな!? だよなぁ!? 絶対あれ余裕あったろ! 余力残してるどころじゃなくて、わざと負けたっていうか!!」


 そして二人はミーシャ選手のお尻をぺんぺんをするだけして満足したように降参したカリーナ選手について叫んだ。

 カリーナ選手は3位決定戦をすっぽかして逃げたので、不戦敗の4位。しかし、その戦績からして、実質1位だろうとしか言えない。

 なにせ、バルバロス王に代わって11連戦をこなしたのだから。


「バルバロス王を瞬殺しておいて!」

「ガロウ将軍をなぶり倒して!」

「おしりペンペンで力尽きたから降参とか、どういうことだよぉおお!?」

「ミーシャ選手がエッッッッッッッッロかったなぁ!!」


 ぜー、ぜー、と叫んで息継ぎをする二人。


「実はそれが口実で、普通に魔力切れだったのかもしれない、か?」

「武器が特殊な飛び道具だったし弾切れだったのかもな……ガロウ将軍以外には普通に殴ってたが……あれが魔力切れでギリギリだったから武器を使った、と言われれば、まぁ……」


 そして精一杯好意的にカリーナ選手の敗北を考察する。

 それでもやはり納得いかないのは、カリーナ選手が始終余裕を見せた戦い方をしていたからだろう。好意的にとるにも限界はある。


「話を変えよう。……あの神像が光ってた件はなんだったんだ? 神前試合つっても、神様の像が光るなんて聞いたことねぇよ俺」

「俺もねぇよ。しかも試合後めっちゃ揉めてたじゃん。カリーナ選手がふざけた戦いをしたからお怒りなのでは? とか言ってた審判いたけど」

「ねぇな。あの光を見たら、あれが喜びによる光だって分かる……そう、なんでか分からされたっていうか……魂で理解ワカったってか」


 おかげで、ますます困惑だったのだ。あの内容の試合で神様が喜ぶとはどういうことなのか、という。……まぁ最終的には「変わり種の珍しい戦いで、大笑いしたのだろう」ということになったけれど。


 で。まぁそんなおかげで余計に――カリーナ選手も姿を消していたので――ミーシャ選手に注目が集まり、試合内容が拡散され、首を傾げられる方向で知名度が高まって。


 ミーシャ選手はお尻を叩かれ神を喜ばせた女、と一躍有名になった。


「『神を喜ばす尻』の二つ名がついたらしいぞ」

「なにそれすごい……のか?」


 元々大会の準決勝まで勝ち残る実力者であったから二つ名が付くのは妥当だが……尻とは。

 それだけ衝撃の大きい試合だったわけだが……尻とは。



「っだああああああ!!!! あんにゃろー! ぶっ殺してやるにゃぁああ!!」


 噂をすればなんとやら。

 丁度、酒場に荒れる猫獣人――ミーシャ選手がやってきた。たぶん連れは家族、父親だろう。親が試合を見に来ていたと言っていたし。

 飲んでいた二人はミーシャに気が付き、そっと聞き耳を立てる。


「おいおいミーシャ。そろそろ落ち着けよ、神様もお喜びだったって話だろ?」

「だとしてもッ! いや、だからこそにゃぁパパ!! 私はもっとまともな戦いで神様を喜ばせたかったにゃぁ!! おーいおいおい……」


 泣きながらカウンターに座るミーシャ選手。


「握手の代わりに尻叩かせてくださいとか、尻撫でさせてくださいとか! こっちは大会準優勝者にゃのに、頭おかしいやつらばっかにゃーー!!」


 それは少し同情してしまう。が、頼む方の気持ちも分からなくはない。


「それもこれも、カリーナってやつが悪いにゃ……ぶっ殺ーーーーす!!」

「ぶっ殺すったって、実際襲撃したら犯罪だからすんなよ?」

「分かってるにゃパパ!! あいつが出る大会に出て正面からぶっ殺すにゃ!! あるいは果たし状を突きつけて予定を合わせて決闘にゃあ!!」


 一瞬だけ通報案件かと思ったが、ただの健全な挑戦者だった。

 きっと心の底からいい子なのだろう。だからこそミーシャ選手の戦いが神様を喜ばせたに違いない。


「こんどは私がアイツをお尻ぺんぺんしてやるのにゃぁあああ!!」

「よし、それでこそ俺の娘だ!……でも、実力的に敵わねぇんじゃねぇの? 完全に遊ばれてただろオマエ」

「うぐう!! それは言わない約束にゃぁ……! あ、ファイトマネーいっぱいでたから今日は奢るにゃ! 準優勝だからにゃ、遠慮しなくていいからいっぱい食べてパパ!」

「おお! 嬉しいね、ご馳走になろうじゃないか。ありがとよミーシャ」

「えへへー!」


 父親に頭を撫でられるミーシャ。その顔は得意げだった。

 良好そうな家族仲を見れて、聞き耳を立てていた二人はほっこりした。



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