あとはご自由にどうぞ。~神様が本気出してラスボス倒したので私はただスローライフする~

鬼影スパナ

これ以上ないチュートリアル

神は言った。「これはチュートリアルですよ?」



「あっはっはは!! なーにが『我こそ混沌神だ』ですかぁ? ざぁぁぁこ!!! 本物はもっと凄いんですからねぇぇええ!!!」

「ひぃいいいいいい!?」


 そう言って、俺――じゃなかった、私は……いや、こうでもなかった。

 私の身体を使っている『本物の神様』は、『混沌神』を名乗っていたジジイを少しずつ、本当に少しずつ、LEG○ブロックで出来た物体を解体してブロックに戻すようにバラしていく。


 比喩ではない。手足の末端から、小さなブロックになって血が一切流れずに崩されているのだ。既に右腕は肩近くまで完全にバラバラに崩されている。

 これが、私に与えられた空間魔法の御業なのだろう。



 場所は豪奢な神殿。腕がない自称混沌神はキンキラ輝く装飾品を身に着けたジジイ。そしてそのジジイをいたぶる一見ただの村人な黒髪ストレートの女の子、私。

 最初スケベな目で私の胸を注視していたジジイの瞳は、今や困惑と怯えしか映していない。


 床に散らばる肌色と赤色のブロックを、残った左腕でかき集めようとするジジイ。

 を、容赦なく私の脚がずどんと蹴り飛ばした。サッカーボールかと思うほどに軽々しく吹っ飛び、神殿の柱にぶつかって「ぐえっ!」と悲鳴を上げる。


「ひぁ、ひぃいい、き、貴様、何者っ、いや、たすけっ」

「ほらほら、『混沌神』を名乗ってるんだったらこれくらい簡単に直せるでしょ? え、できないの? あははは! ざーこ! ざぁぁぁぁぁこ! その程度で私の『混沌神コイビト』を騙らないでくださいねぇ!? 神罰が下っちゃいますよぉぉお!! はいどーーーーーん!!」


 心底楽しそうな声が私の口から出てくる。ついでに先程から上下の空間をつなげて自由落下・加速させ続けていた瓦礫をジジイのすぐそばに落として驚かせてやった。


「ぎゃぁあああ! ひぃいいいああああ!!!」

「あはははっ! ほら、抵抗しないんですか? してもいいですよー?」

「ふぁ、ファイアボールぅぅ!」


 ジジイがそう叫ぶと火の玉が飛んでくる。が、空間を固定した見えない壁に阻まれ届かない。


「ま、無駄ですけど」

念動力サイコキネシスぅ!……なぜっ、なぜ効かんのだぁあああ!?」

「なんかしてますぅー? あははっ」


 そして自身の体も自分として固定してあるとかで、外部の攻撃を一切受け付けない。

 これは重さ等も含まれるため、この状態で瓦礫を持ち上げれば重さを感じずに持ち上げることができるし、持ち上げられない場合に壊れるのは瓦礫の方。

 物理的唯我独尊アイ アム スター。攻守兼ね備えた凶悪な身体強化バフだ。


 私の右手がすっと振るわれると、離れたところにあったジジイの身体がスパッと胴体で分かれた。しかしこれもまた血が出ない。


「ひぃいい! わ、我の身体がああああっ……!?」

「あはは、大丈夫です、まだ空間を繋げてるので斬れてませんよ。まぁいつでも切断できるんですけどね? うふふ」


 パチン、と指を鳴らすと分断されていた身体が元に戻る。


「誰か、誰かぁーー!」

「助けは来ませんよー、今は空間分断してるので! おっと、腕も戻してあげましょう。複製、反転! 結合!」


 パンッと手を叩くと、ジジイの左腕が何もなかった空中に複製され、反転して右腕になる。そして、血管や神経に至るまでしっかりと接続する形で、分解されていた右腕のかわりにくっついた。


 うごご、めっちゃ頭ぐちゃぐちゃする。これはかなり負荷があるようだ。


「あ、大丈夫ですか? 一応チュートリアル・・・・・・・なのでなるべく一通りの能力を使っておこうと思ったんですが」

『今、一応って言いましたか神様?』

「やだなぁ、完璧にチュートリアルですよ?」


 脳内で突っ込みを入れた神様がくすくすと笑いながら返事する。

 否やはない。


「こうやって身体を複製、再生すればいくらでも痛めつけることが可能なんです。まぁ複製はMPそれなりに使いますが、今はチュートリアルなので使い放題サービス! チュートリアルなので!!」


 そう、これは、あくまでも神様による私へのチュートリアル。

 けっして、神様のコイビトの名前を騙った不届き者への制裁ではない……いやまぁ、私が倒すべきラスボス的なのが自称混沌神コイツなんだけど……


『神様は直接世界に影響を及ぼしてはいけないとはなんだったのか……』

「チュートリアルで力の使い方を説明するなら仕方ないよねっ!!……それとも、説明は不要でしたか?」

『いえ! 仕方ないであります、サー!』

「素直な子は好きですよ。あ、こんなこともできるんですよ?」


 くいっと蛇口を捻るように手を回すと、遠近を無視して自称混沌神の腕が捻り折られた。くそう、なんというチート能力……!

 そして、途中からジジイの汚い叫び声が聞こえないと思ったら、これも空間魔法で声を完全にシャットアウトしていた。



「じゃあそろそろ出血解禁しますか。ここからはちょっとグロいですよ」

『うぇっ』


 そうして、神様はたっぷりじっくり時間をかけて、自称混沌神のジジイを徹底的に破壊した。






 ――さて、どうしてこんなことになっているかを回想しよう。




 元々私……俺は、日本に住む成人男性だったはずなのだ。

 それが、別に異世界トラックにはねられた訳でもなく気が付けば神界とやらにいた。


 白い世界。目の前には黒髪金目の少女がにっこり笑っていた。


「ようこそ! 突然ですがあなたには私の管理する世界へと転移……身体を新造するので転生ですかね? まぁ異世界へいってもらいます!」

『……えっ?』

「はい、今あなたは命拾いしました。ここで『いきなり何するんだ! 拉致だ! 謝れ!』とか言って逆らったら消してましたからね。おめでとう! 前の人より言葉選びが良かったね!」


 パチパチパチ、と手を叩く少女。

 ……俺の前の人は消されたらしい。


「あなたに力を授けましょう。そして、やってもらいたい事があるんです」

『は、はい』

「素直でよろしい。あ、私は時空神。神様です。本物の、ね」


 そう言って神様は説明を続ける。


「送り込む世界の中に『神』を名乗るバカがいるので、倒してください」

『……神、ですか?』

「自称神です。ちょっと放置してる間に生えてたので、本物の神の力を見せてシメとこうかと。ただ、直にはできない制約なんで、こうして転生者を用意する必要があるんですね」


 神様が直接でなく、誰かに力を貸してやらせるのはアリだそうな。

 なるほど、神様らしい制約だ。ということは、その世界の中にいる神様は本当に自称なのだろう。


「報酬は、この世界での自由な生活。与えた力で商人するなり英雄になるなり享楽を貪るなりご自由にどうぞ」

『えっと……いいんですか? 何しても?』

「なんなら神様を自称してもいいですよ、私の使徒ってことで下級神相当にはなりますし」


 ターゲットは名乗ってはダメなのに? と首をかしげる。


「いや、神様を名乗ること自体はいいんですよ。ただちょっと見過ごせない名前のが1匹いまして」

『はぁ、えっと。それでその見過ごせないのとやらは』

「はい。『混沌神』です!」


 その名前が、目の前の神様のNGワードらしい。


『その混沌神ってのを探して倒せばいい、ということですね』

「理解が早くていいですね。そういうことです。……っと、身体ができましたよ」


 と、神様が指を鳴らすと、そこには目の前の神様を18歳くらいにしたような雰囲気の女性が立っていた。黒髪ストレート、黒目で丸っこい目は少し地味な印象があるが、よく見ると可愛いタイプの女の子だ。胸も結構ある。


『って、俺、男なんですけど?』

「私の趣味――げふん。力を与える都合で、私に似せた方がやりやすいんですよ」

『今趣味って言ったよね!?』

「文句があるなら消しますよ。やりやすいのは本当ですし。ああ、貴方の体になるからおっぱい揉んだりもっとすごい事しても良いんですよ? ね?」


 俺は黙る。その場合消されるのは身体ではなく俺の方だろうから。

 別におっぱい揉み放題に惹かれたわけではない。


「では空間魔法と、基本的知識と、サービスでスキルを習得しやすくなる才能を付与しておきますね」

『あ、ありがとうございます』

「そしてさらにサービスで、チュートリアルとしてその身体で私が力を実際に使って見せてあげましょう。あなたの未使用だった相棒に免じて初回限定ですよ?」

『ど、どどど童貞ちゃうわ!――げふん。はい、よろしくお願いします』


 かくして、俺は私になり、異世界へと降り立った。



「では、チュートリアルの相手は『混沌神』です。いっきまっすよー♪」

『えっ』



 かくして、冒頭に戻る。


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