第4話 結婚が決まる
「嫌です。結婚したくない」
「この結婚は覆りません」
「そんな……て、手続きだって時間かかるはず」
「あー、それな。裏技使ったぞ」
「お兄様?」
「もう受理されてる」
「はあ?!」
本来は婚約期間やらなんやらを経てから結婚のはずだ。興味ないからさして手順は知らないけど、兄曰く何事も原則には例外がついているらしい。それを利用したと。強引すぎる。
「こちらから頼んだのに? ディアフォティーゾ辺境伯に考える余地すら与えないんですか?」
「全て了承の上です」
「うそでしょ……」
条件を掲げるような問題ありの女性とスピード婚させられるなんて、男性側からしたら恐怖じゃない? 余程のいわく付きって疑うでしょ。せめて婚約期間に噂通りやばい奴なのか確認して、最悪婚約解消に持ち込めばいいって、そういう予防線を張ってくると思ったのに。
「ふ、不釣り合いですよ。ディアフォティーゾ辺境伯は三年前のパノキカトの危機で活躍された英雄でしょう?」
有名な話だ。
南側の隣国パノキカトが暴走した精霊に襲われた。西の隣国シコフォーナクセーを介した援助要請に、手続きを同時進行というよりは先行して国境武力を動かした人物がディアフォティーゾ辺境伯だ。
西側の隣国シコフォーナクセーと共にパノキカトの住民保護や復興に尽力したことは有名で、栄誉を受賞されたし、先行したことも結果的には正しい判断だったと、適切な対応をしたと言われている。若い領主で見目もそこそこらしく、紙面は大いに盛り上りをみせていたけど。
「皆がメーラのように考えてくれたら、あいつだってとうに結婚してるさ」
苦笑まじりに兄が続ける。いい奴なんだがなと。
「お前も知ってるだろ? ディアフォティーゾの血族にはフェンリルの血が入ってるってやつ」
それも有名な話だ。
魔物の中でも一二を争う強さをもち、稀代の魔法使いよりも魔法を扱い、知識は学者を超える存在。
三年前に魔物たちは復興の一助となった。そのおかげで魔物に対する偏見は緩和されたけど、未だ敬遠されているなんてひどい話だ。
「ディアフォティーゾ辺境伯はとても誠実な方です」
だからこそ未だ祖母と交流があるのだろう。小さい頃から祖母は彼に目をかけていた気がする。とうの私は数える程しか会ったことない。だってもう顔も覚えてないし。
「なのに彼は縁談がうまくいかなかった?」
「魔物の血が入っているからと断られることが多いんだ。あいつも愛想いい方じゃないからな」
「そう……」
これも噂でしか聞いたことがない。
国境武力を束ねているからか冷徹で恐怖の存在、みたいに言われているところがある。武力と聞くだけで物騒な印象を持たれる挙句、三年前の英断で聡明という印象も付属したせいで、小賢しく野心家な男という悪い印象にされてしまった。まあ誇張されてるんだろうけど。
加えて兄の発言から、女性にもてる程のサービス精神はなさそうだ。軽薄とまではいかないまでも、多少の愛想があれば切り抜けられたのかもしれない。苦笑する兄を見るに、確実にディアフォティーゾ辺境伯は愛想がない方なのだろう。誠実な不愛想……想像できない。
それにしたって、英雄であっても結局のところ化け物に嫁ぐみたいな扱いをされるなんてちょっとひどい気もする。
「……でも、」
「メーラ、これは決定した事です」
「そんな」
「貴方はディアフォティーゾ辺境伯に嫁ぎ、そこで彼を愛するようになるまで帰ってこないように」
「そこまで?」
「ええ、愛し愛されることを叶えるまで、この家に戻ることは許しません」
勝手に結婚決めて、勝手に追い出した挙げ句、帰ることは拒否?
結婚後も両家の交流はあるべしが我が国のよくある家族の形なのに?
しかも彼を愛せって、気持ちまで強制されないといけないってなんなの?
「御祖母様、ひどすぎます」
「まー落ち着けって」
そもそも無理に進めた結婚なら、相手から愛される保証だってないじゃない。
事情を考えるに、ディアフォティーゾ辺境伯も結婚が難しいから、この話が渡りに船だった感ある。私に好意を寄せる気もないかもしれない。
「……結構。たとえメーラが勝手に帰ってきたとしても、私の権限で家にはいれません」
「も、もう、なんなんですか」
あまりに祖母が強引で頑固だ。いつになく譲らない。
なんだかその勝手さに腹が立ってくる。
「まーまー」
「お兄様」
「落ち着けって。ほら、そろそろ時間だし?」
「え、何が?」
「え? あいつ下で待ってるから、準備してそろそろいかないとだろ?」
驚いて目を開く。
今なんて言った?
結婚を勝手に済ました挙げ句、待たせている?
階下で、私を辺境地へ連れるために呼んでいたって?
「はああ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます