第54話 聖女のトラブルバスター
結局あの後、誰も戦ってくれる人が居なかった。
私はイライラしてしまってアドンのお城に大穴を開けてしまったけど、アドンは笑顔で許してくれた。
ちょっと悪い事したかなって思ったけど、考えてみれば私もメフィスちゃんを許したんだからおあいこよね?
「少しだけ機嫌が直りました。」
「アンリの孫よ……あれ程頑丈な壁を破壊しておいて、少しだけなのか?」
ベーゼブが恐る恐る聞いてきた。
「はい、少しだけです。誰も戦ってくれませんでしたし。」
「お母さんと組手する?」
「うーん。何か生き物をブッ叩きたいから、お母さんじゃダメだよ。」
「そっか。」
「アリエンナちゃん? お母さん以外ならブッ叩いても良いと思ってるの?」
アンリさんって不思議な事を言うのね。お母さんは大好きだからブッ叩かないに決まってるよ。
「はい。死なない程度に加減はしますが、お母さんとギャモー以外なら理由次第でいくらでもブッ叩いて良いと思っています。」
お母さん以外の全員顔が引き攣っている。
「アリエンナちゃん。魔神軍に所属してない1級悪魔の話は前にしたじゃない?」
急にどうしたんだろう?
「はい。」
「その中には悪さをしている1級悪魔も時々いるから、そいつらと戦ったら良いんじゃないかって思うんだけど……。」
「そうしましょう。世直しです。悪い悪魔を退治します。私に任せて下さい。」
「……凄く食いつきが良いわね。」
「さぁ! 皆さん行きますよ。早くしないと獲物が逃げてしまいます。」
「全員行くのか?」
ベーゼブは何を言ってるのかしら?
「全員に決まってるじゃないですか。人数がたくさんいれば逃がさずに済みますよ。」
「えっと、こんなには必要ないと思うわ。」
流石にこの人数じゃ多すぎるって事ね。
「じゃあ、アドンとその配下だけ連れて行きます。」
「お母さんも一緒に行くわ。」
お母さんも来てくれるなら、お母さんにも戦わせてあげようっと。
「では行きましょう。アドン、転移魔法をお願いします。私はどこに悪い奴がいるのか分かりませんので。」
「あ、あぁ……任せてくれよ。僕は心当たりがあるから連れて行ってあげよう。」
私、お母さん、アドンとその配下二体が転移魔法により移動する。
周囲の景色が一瞬で切り替わり、目の前には古い集合住宅が三棟建っていた。
「あの集合住宅には1級悪魔が二体住んでいるんだけど、なかなか家賃を払ってくれなくてね。いい加減追い出したいんだ。」
1級悪魔なのにお金がないの?
説明によると、この集合住宅の大家はアドンだそう。
家賃を三ヶ月払わない悪魔には立ち退きをお願いしているけど、1級悪魔の二体が頑として出て行こうとせず、既に立ち退き勧告から半年経過しているらしい。
以前は戦争を控えていたが為に、戦力を悪戯に消耗させるわけにいかないので力づくの交渉は出来ず、結局戦争になってしまった今現在も同様の理由で無理矢理出て行かせる事が出来なかったのだという。
「家賃を滞納しているのはどちらも1級上位の悪魔なんだ。配下達だと危ういし、僕だと魔神形態にならないと万が一があっては困るしで、ほとほと困っていたんだよ。」
大家さんも大変だわ。家賃を払わないで居座られ続けると、新しい住人を呼べないし、その部屋からは家賃が入らないしで損しちゃうわよね。
「一応、後二体の魔神との戦争も控えているから、僕が魔力を消費するわけにはいかない。そう思っていたんだけど……。」
そこで私の出番というワケね。
「アリエンナちゃんとアリエーンちゃんは人間の血が混じっているだろ? こういうトラブルにはうってつけなんだ。」
どういう事かしら。純粋な悪魔じゃないと何か得する事があるの?
「二人は知らないかい? 悪魔は魔力がなかなか回復しないんだけど、ハーフやクオーターのような人間の血が混じっている存在は、人間と同じですぐに魔力が回復する。」
「知りませんでした。」
「私もよ。」
それでアンリさんは魔力の消費を気にしてたんだ。
「今の僕はアリエンナちゃんとの戦いで大幅に魔力を消費しているんだ。恐らく、魔神形態で戦うのは10分が限度だね。回復しきるまでは数カ月を要するだろう。」
思った以上に時間がかかるのね。
「その点、君たち二人なら三日と経たずに全回復するってわけ。」
成る程。確かにハーフやクオーター向きの案件だわ。
にしたって、私ったら戦いに夢中でたくさん魔力を消費させてしまったのね。
「アドン、魔力をたくさん消費させてしまってすみませんでした。」
「良いさ。戦いの結果そうなったんだから仕方がないよ。」
アドンは心が広いわ。
なんて良い部下を持ったんだろう……大事にしよう。
「話を戻すけど、この1級悪魔二人が厄介でね。通常形態の僕と同レベルに強いんだ。」
それは是非ともお母さんに戦わせてあげなきゃ。一体は私が貰うけど。
「アリエンナ、2人で半分こしましょう。」
「うん。私もそうするつもりだった。」
「あら、なんて良い子なのかしら。」
お母さん思いの娘だから当然よ。
「それじゃあ準備は良いかい?」
「はい。」
「良いわよ。」
私達はアドンに連れられ家賃滞納者を訪問する。
「こんにちはー。大家のアドンですが。」
コンコンとノックをすると、中からは一体の羽振りの良さそうな悪魔が現れた。
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