第48話 聖女のキノコ狩り
「流石アドン。こうも簡単に相手を術中に嵌めるとは……。」
え? お母さんが勝手に笑い転げてるだけじゃないの?
「いや、僕は何もしてないじゃないか。」
「すまん。言ってみたかっただけだ。」
ベーゼブは結構ふざけた人かもしれない。
「アリエンナ。真面目な話があるわ。」
「どうしたの?」
お母さんは真剣な顔で私の肩を掴んでいる。
「お母さんね。おもしろ……おもしろ過ぎて戦えな、ないから……あなたが戦いなさい。」
そう言ってお母さんは再び腹を抱えて笑っている。
「確かに戦いは無理だな。」
どうして?
「アドンはな、キノコ魔法を使うんだ。アンリの娘は笑い過ぎて戦えなくなるだろう。」
ベーゼブの発言を聞いた瞬間、お母さんの笑い声が大きくなる。
「冗談じゃなく強いから気を付けるんだぞ。アンリの孫よ。」
「えっと……はい。」
キノコ魔法? 聞いた事ない。
「アンリの孫が戦うのかい? 大丈夫? やっぱり虐待されてたんじゃ……。」
「えっと、違いますけど。」
私は身体強化魔法を最大出力に引き上げる。
「……気が変わった。僕はアリエンナちゃんとキノコ栽培する事にしたよ。」
キノコ栽培?
「無理矢理にでもね!」
魔神アドンは先程のような優し気な雰囲気を潜め、猛然と突撃してきた。
近接タイプって事!?
キノコを手から生やし、私を殴りつけて来る。
「くっ! 強い!」
「先ずはエリンギ!」
エリンギの癖に硬い。エリンギの癖に。
エリンギによる連撃で防御するのが手一杯だ。
右手で、左手で、そして足で……。次々とエリンギをぶつけて来るアドン。
一撃の威力がベーゼブと比べても劣らない。
冗談みたいな攻撃なのに、凄く強い!
「どうだい? 僕のキノコ魔法は。」
本当に強い……でも。
「それってキノコじゃなくて、普通の武器の方が強いですよね?」
「え?」
アドンの攻撃が止まった。
「だから、わざわざ強いキノコを魔法で召喚しなくても、普通に強度のある武器で殴った方が強いですよって……。」
あ……。凄いガッカリしてる。
可哀想な事言っちゃったかな?
「君は……キノコが嫌いかい?」
「嫌いじゃないですけど……キノコで叩かれるのは何か嫌です。」
「そうか……僕のキノコ魔法はダメかい?」
「ダメって言うか……食べ物を粗末にするのはどうなのかなって思いますけど。」
「……。」
「あの……?」
アドンがショックを受けた顔をしている。
「確かに君の言う通りだ。……食べ物を粗末にしてはいけない。こんな当たり前の事に気付かなかったなんて……。」
「まぁ……そうですね。」
可哀想だけど、そうとしか言えない。
「ありがとう。こんな大事な事に気付かせてくれた君には是非お礼をしたい。」
そう言って頭を丁寧に下げる魔神。
「どういたしまして? お礼と言うか、普通に戦ってくれればそれで……。」
「分かった。」
アドンは虚空に手を彷徨わせ、身長程もあろうかという巨大なキノコの形をした武器をズルリと引っ張り出した。
「これはシイタケ棒って言うんだけど、かなり硬い金属で出来ているから食べ物じゃないよ。」
「えっと……はい。」
「僕はこれで戦うから、君も何か武器を使うと良い。」
「それならお言葉に甘えて。」
私はギャモーからもらった杖を背中から抜いた。
「それ……エノキタケに似てて格好良いね。しかも素材は魔鋼じゃないか!」
その褒め方は嬉しくない。
「魔鋼ですか?」
「知らない? 魔界でも貴重な金属だよ。魔力を通すとどこまでも硬くなるから、武器としては最上級の素材さ。」
ギャモーったら、どこで手に入れたのかしら?
「パートナーに買ってもらいました。」
「大事にすると良いよ。……それじゃあ始めようか。」
そして私達は再び戦いを始める。
シイタケ棒の威力は凄まじく、重量のせいか一撃一撃が必殺の威力だ。
「どんどん強くしていくから、簡単に死なないでね!」
打ち下ろし、払い、突きと棒術に似た動きで攻めて来るアドン。
私も負けじと杖で受けては反撃をするのだが、簡単に防御されてしまう。
「君は強いけど、まだまだ速さが足りないね。攻撃が見えているよ。」
アドンはスピードで相手を攪乱する戦闘スタイルのよう。
「それなら……。」
杖に黒い魔法を纏わせ、力一杯ぶん殴る。
ズドン!!
「ぐぅ……! 何だいその攻撃は!?」
ベーゼブとの戦いに使用した黒い魔法を杖に纏わせてみたのだ。
明らかに一撃の威力が上がっているようで、防御したアドンが苦しそうにしている。
「黒合戦からヒントを得ました。」
「黒合戦が分からないよ!」
分からなくても別に私は困らない。
兎に角ブンブンと杖を振り回す。杖からは私の好きなタイミングで黒い塊を相手にぶつける事が出来た。
「ホントに何それ!? 魔法を武器に纏わせるなんて聞いた事ない!」
「黒合戦ver.杖です。」
「全然意味が分からないよ!」
私は黒い塊を連射し、アドンはそれを避けたり弾いたりしている。
全てを避けるのは難しいようね。
「僕も魔法を使わせてもらうよ!」
アドンは武器を持っているのとは反対の左手から黒い炎を召喚し、私の魔法にぶつけてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます