第44話 聖女の三世代協力戦
「アリエンナ、行くわよ!」
「わかった!」
お母さんは床を強く踏み抜きベーゼブに迫る。そして私は奴の背後を取り、拳を背中に叩き込もうとするが……
「ふっ!」
ベーゼブは二方向からの攻撃をそれぞれ拳と蹴りで迎撃し、すかさずお母さんの横へと回り込んだ。
早い!
「予想以上だ。お前ら強過ぎるだろ!」
そう言ってベーゼブがお母さんに連続で蹴りを放つ。
「流石は魔神! 防ぎきれないわ……。」
次々と繰り出される攻撃に、お母さんは所々被弾しながらもなんとか防御している。
「スキ有り!」
アンリさんが魔法を放ち、ベーゼブの片足が床から生えてきたツタの様な物に固定される。
私だって見ているだけではない。
ベーゼブの横から再び拳を放つ。
「クソっ!! お前ら3対1は卑怯だろ!」
私の拳は片手で受け止められてしまったが、それで良い。
奴をその場から動けなくする事が目的だからだ。
「ぐぬぬぬぬ!」
私は受け止められた拳に力を入れ、ベーゼブを押し返そうとする。
近接タイプと言うだけあって力がある。
強い相手と戦う時の感覚……少しずつ調子が上がって来たわ。
「くらえっ!!」
アンリさんが更に私とは反対方向から蹴りを連続で放ち、ベーゼブはそれを片手で防御するが間に合っていない。
「これであなたもおしまいね。」
「ぐっ……。」
ベーゼブは蹴りを止める事が出来ない。お母さんに反撃されるからだ。
ベーゼブは私の拳を振り払う事が出来ない。私に反撃されるからだ。
ベーゼブは防御の手を止める事は出来ない。アンリさんの攻撃をまともにくらうからだ。
「……降参だ! 降参!」
「だーめ。」
先程からベーゼブの蹴りをくらい続けるお母さんの目が、金色に輝き瞳孔が縦に開いている。
確実にキレてるわ。
「母さん、攻撃を継続して。」
「わかったわ。」
アンリさんは頷く。
そして徐々に蹴りに対する防御が間に合うようになり、お母さんはとうとうベーゼブの足を両手で受け止めた。
「待て! 本当に降参する!」
お母さんはベーゼブを無視して、受け止めた足を両手で力一杯握りしめた。
「いだだだだだだだっ! 」
お母さん? 身体強化の出力上がってない?
「降参す……降参させて下さい! 何でも言う事を聞きます!」
「何でもって言った?」
「はい! 何でも聞きます!」
「わかったわ。」
お母さんは返事を返すと、ベーゼブの足を解放していた。
「何でも聞くのね?」
「勿論です!」
「じゃあ、今度は母さん抜きで遊びましょう。」
え? それって……。
「ちょっと! 何言ってるのよアリエーン!?」
「こいつと戦ってて気付いたわ。練習台に丁度良いってね。」
「な!? 練習台……だと?」
ベーゼブはプライドを傷つけられたのか、顔を真っ赤にしている。
「そうよ。アリエンナも一緒に練習しましょう。こんなに良い練習台は中々居ないわよ?」
「私も一緒で良いの?」
「勿論よ。一緒に遊びましょう。という事で母さんは下がってて。私もアリエンナも今とても調子が良いから、2対1で勝って見せるわ。」
「……止めても聞かなそうね。」
アンリさんはそう言って攻撃を中止した。
「止めたら母さんとも戦うわよ?」
「アンリ……。お前の娘は狂犬だな。」
ベーゼブの顔が引き攣っている。
「……これでも随分大人しくなったのよ。」
「そうか……。余計な心労を増やして済まなかった。」
アンリさんはガックリと肩を落とし、ベーゼブはそれを慰めるように謝罪する。
「ちょっと。それだと私が不良みたいじゃない。」
「……不良で済めば良かったんだけどね。母さん離れて見てるから、気を付けて戦うのよ?」
「わかってるわ。それじゃあ再戦よ。」
「ちょっと待った!」
「……なに?」
こちらの気勢を削ぐような発言にお母さんがイラっとした顔になった。
「この戦いが終わったら殺さないでくれよな?」
「それはあなた次第ね。」
「ちゃんと約束せんと転移魔法で逃げるぞ!」
ベーゼブは自信に満ち溢れた表情で、威厳たっぷりに言い放つ。
なっ……なんてダサい……。
堂々と強気に逃げる宣言だなんて……。
魔神の発言とは思えないわ。
「なんで最初から逃げなかったんですか?」
私は疑問に思った事を口にする。
「……この状況でも勝てたら、アンリと結婚出来るかなぁって。」
よっぽど好きなのかもしれない。
「勝負に勝ったから結婚、なんてあり得ないわよ? それは強さの証明であって、男として魅力的かどうかとは関係ないもの。」
「女は強い男が好きだろう!?」
「男に強さはいらないわ。私自身が魔界での最高戦力、五体しかいない魔神なのだから。」
確かに……。私もギャモーには強さを求めたワケじゃない。
お母さんだってきっとそう。
だって……お父さん弱いし。
「……そろそろ良いかしら?」
お母さんは待ちきれないようね。
「まだだ! かくなる上は……。」
ベーゼブが何かを決心したように大きな声で……。
「お友達からお願いします!!」
そう言って頭を下げ、アンリさんに手を差し出す。
知ってる。
この手を掴んで握手すると、周りの皆がワッとなって「おめでとう!」ってなるやつだわ。
「まぁ……友達くらいなら。というか、あなたが変な暴走しなければ……今でも友達だったはずなんだけどね。」
アンリさんは苦笑してベーゼブの手を握った。
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