第37話 聖女の教えて魔界事情2
最上級悪魔の魔神は魔界にアンリさん含め五体しかいない。
魔神はそれぞれに領土のようなものを持っており、そこが人間で言うところの国なのだ。
アンリさんは10年前に一体の魔神と争いになり、戦いの末にその魔神の力と領土を簒奪し、代替わりを果たした。
魔神には魔神核という核のようなものが体内に存在し、それが力の源であるが故に……一度奪われてしまえば元々の持ち主は力の大半を消失する。
それ故に、存在出来る数が決まっているのが魔神という存在。
「ただね。この調子で成長を続けるなら……アリエーンとアリエンナちゃんは魔神核なしで魔神に並び立ち、いずれは追い越すでしょうね。」
アンリさんが遠い目をしながら言った。
「でも、それっていつですか? 私は早く強くなりたいです。」
「待ってれば自然と強くなるわよ。」
悪魔は年齢を重ねると勝手に強くなるから、待てば良いのだと言われた。
「うーん……とりあえず、鍛える事にします。」
(ねぇ、アリエンナちゃんはどうしてそんなに強くなりたいの?)
(知らないわよ。アリエンナは私と一緒で暴力大好きだけど、基本は優しいし。)
お母さんとアンリさんが内緒話をしている。
「じゃあ、アンリさんよろしくお願いします。」
私はそう言って、さっきのアンリさんの魔法を真似する。
周囲にぶわっと漆黒の魔力が広がり、上手く位相のズレた?と言われる世界が顕現する。
「アリエンナちゃん。何してるの?」
アンリさんは顔が引き攣っている。
「何って……アンリさんと戦って鍛えます。」
「今そういう流れじゃなかったわよね?」
「そういう流れでしたよ?」
アンリさんはお母さんのお母さんなのに知らないのかしら?
「お母さんに教えて貰いました。強くなりたいなら戦って鍛えろと。」
(あんた余計な事教えてんじゃないわよ!)
(仕方ないでしょ! アリエンナはストレス解消してあげないと地形が変わるまで物に八つ当たりするのよ!)
また内緒話してる。もしかしてすぐに真似っこできたから?
「それにしても、この魔法って結構魔力使いますね。」
「……その魔法は魔神しか使えないはずなんだけど。」
「きっとそれはガセ情報ですね。私使えてますし。」
「……」
何で黙るの?
「……アリエンナちゃんは、どうして戦いたいの?」
「健康に良いからです。」
「良かった……健康の為だったのね。」
安心した様子でホッとしたのが見て取れる。
「ちなみに、何でそう思ったのか聞いても良い?」
「もちろん、生き物をブッ叩くとさっぱりするからです。」
「やっぱり、アリエーンの子ね……。」
アンリさんの笑顔が盛大に引き攣っている。どうしちゃったの?
「じゃあ行きますね。」
私は身体強化魔法を発動し、地面硬くなれと念じながらその場を移動した。こうすると地面が崩れず、速さを殺さずに移動出来るのだ。
さっき思いついたぶっつけ本番だけど、上手くいったわ。
「ちょっ!」
アンリさんが上手く私の拳を受け止める。
流石。お母さんよりも強いなら安心して戦えるわ。だって死なないもの。
「ぐっ……。アリエンナちゃん、さっきより力強くなってない?」
「そうですか? アンリさんが疲れてるだけだと思いますけど。」
私は連続で突きを放つが、全てを防御される。
「痛っ……絶対さっきより強くなってる。魔力も段々上がってきてるわよ。」
「私、お母さんと戦い始めると調子が良くなるんです。上がった調子は上がりっぱなしなんですけどね。」
徐々に私の攻撃を捌ききれなくなっているアンリさん。もしかして手加減してくれてる?
「それって戦いながら強くなってるって事? 怖い孫だわ。」
そう言って吹き飛ばされるアンリさん。
「う……仕方ないからもう一度魔神形態になるわ。」
アンリさんの魔力が圧倒的に跳ね上がる。
何度見ても凄いわ……私もあんな風になれるかしら?
「じゃあ私からも行くわよ。」
アンリさんが蹴りを放つ、さっきまでは目で追い切れなかった蹴りが見える。
私は次々と防御していくが反撃するスキがない。スキがないと言うよりは、反撃出来る程の余裕が私にはないのだ。
「凄いわね。既にアリエーンに近いくらい強くなってきてるわよ? アリエンナちゃんって本当に人間?」
「一応悪魔とのクオーターです。」
「そうだったわね。」
アンリさんは溜め息をつき、攻撃をやめた。
「どうしてやめちゃうんですか?」
「これ以上魔力を消費出来ないわ。」
現在、魔界では魔神同士で戦争一歩手前の状態らしく、不用意に魔力を消費したくないとの事。
魔神形態は魔力消費が激しいようね。
「まったく。アリエーンもアリエンナちゃんもこんなに魔力を消費させてくれちゃって、何かあったら罰として2人に手伝ってもらいますからね!」
私も遊びに行って良いの?
「アリエンナちゃんは何でそんなに嬉しそうなの?」
「魔界には強い人がたくさんいるんですよね?」
「そうね。」
「そいつらをブッ叩いてみたいです!」
アンリさんの顔が引き攣っている。私、なにか悪い事を言ってしまったかしら?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます